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術前の閉塞解除治療と手術不能例に対する緩和的治療

がんによる腸閉塞に対し、大腸ステント治療で人工肛門を回避

監修●斉田芳久 東邦大学医療センター大橋病院外科教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2015年7月
更新:2019年7月

  

「内視鏡治療の経験が豊富にあり、大腸ステントをきちんと勉強している医師が行えば、決して危険な治療ではありません」と語る斉田芳久さん

がんのために大腸が閉塞した場合、かつては緊急手術が行われ、人工肛門を造設するのが一般的だった。しかし、2012年に大腸ステント治療が保険で認められ、現在では、閉塞部にステントを留置する治療が可能になっている。

治療に要する時間は、通常15分程度。ステントが入ると速やかに閉塞が解除され、人工肛門を回避することができる。日本における大腸ステント治療は、欧米に比べて安全性が高いことをデータが示している。専門家に治療の現状を聞いた。

ステントにより人工肛門を回避

がんによって大腸が閉塞することがある。ほとんどは大腸がんで起こるが、胃がんなどが大腸に浸潤して閉塞を起こすこともある。このような場合、かつては緊急手術が行われることが多かったという。東邦大学医療センター大橋病院外科教授の斉田芳久さんは、次のように説明する。

「大腸が閉塞すると、便や消化液やガスが腸管内に溜まってパンパンの状態になります。患者さんは激しい苦痛に襲われ、適切な処置をしなければ命に関わります。そこで、かつては緊急手術で人工肛門を造設するのが一般的でしたが、現在は大腸ステントによる治療も可能になっています」

ステントとは金網を筒状にした医療器具で、大腸ステントは大腸用に作られたものである(写真1)。

たたむと細くなり、直径3㎜ほどのカテーテルに収まる。このステントを内視鏡を使って大腸の閉塞している部位に挿入して開放させ、そこに留置するのである。

「大腸の太さは直径4~5㎝ほどですが、ステントの太さは最大に広がったときで直径2㎝ほど。細くたたんであったステントを閉塞部位に留置すると、ばねの力で元の太さに戻ろうとします。

周囲にがん組織があるため限界まで広がることはできませんが、直径1㎝くらいにはなります。そのくらいあれば便は十分に通過できるので、大腸閉塞は解除されます(図2)」

便が通過するようになれば、緊急手術は必要なくなり、患者さんは人工肛門を回避することができる。

「大腸閉塞を起こすのは、ほとんどが大腸がんの患者さんです。日本では年間約11万人が大腸がんになりますが、ほぼ1割の約1万人が大腸閉塞を起こしています」

大腸ステント治療の対象となる患者さんは、かなり多いのである。

写真1 腸閉塞治療に用いられる大腸用ステント
図2 大腸閉塞部位へのステントの留置

食道用のステントを活用し、臨床研究を進めてきた

ステントは血管に留置する医療器具として使われるようになり、その後、消化器でも使われるようになった。

「消化器で最初に使われたのは胆管ステントで、1990年頃。その後、1990年代に食道ステントが使われるようになりました。まっすぐで入れやすかったからです。それからかなり遅れ、胃・十二指腸ステントが2010年に、大腸ステントは2012年に承認されました。大腸はくねくねと曲がっているので、そこが難しかったのです。大腸ステントは曲がった状態でも広がります」

大腸ステント治療に日本で最初に取り組んだのが斉田さんだった。1993年のことだという。

「がんで大腸が閉塞した高齢の患者さんがいました。もともとがんで体が弱り、手術をすること自体かなり危険な状態なのに、人工肛門にしなければならないのです。何とかしたいと食道用のステントを閉塞部位に入れたところ、閉塞を解除でき、その患者さんは人工肛門にならずにすみました。それ以降、大腸ステント治療の臨床研究を進めてきたのです」

こうして研究が進められてきたことにより、現在は、保険でこの治療が受けられるようになっている。

ステント治療の目的は大きく2つに分けられる

大腸ステント治療は、大きく2つに分類することができる。1つは、切除手術が可能な患者さんに対する手術前の閉塞解除治療。もう1つは、切除手術ができない患者さんに対する緩和的な治療である。

「大腸閉塞を起こして大腸がんが発見される患者さんがいます。その中で、遠隔転移などがなく、切除手術可能と診断された場合には、手術を行う前に大腸ステント治療が行われます」

たとえ切除手術が可能な大腸がんでも、腸閉塞を起こしている状態では、通常の大腸がん手術はできない。その状態で腸を切ってつなぐのは、危険を伴うからである。大量の便による汚染の危険があるし、大腸閉塞で腸管が傷んでいるため、縫合不全など重大な合併症を起こす危険性がある。

「そのため、緊急手術では人工肛門を造設するのが一般的だったわけです。しかし、このような患者さんに大腸ステントを入れると、閉塞が解除されて、普通に食事もできるようになります。こうして全身状態(PS)が改善すれば、通常の切除手術が可能になり、人工肛門を回避できます」

もう1つは、切除手術ができない患者さんに対する治療である。離れた臓器に転移がある、高齢で全身状態がよくない、合併症がいくつもあるなど、様々な原因で手術できない人がいる。このような場合、大腸がんを治すためではなく、症状を緩和するための治療が必要となる。これまでは人工肛門を造設するのが一般的で、それさえできない状態の人もいた。

「このような場合も、大腸ステントを入れると、すぐに症状が解消されます。人工肛門は患者さんのQOL(生活の質)を低下させますが、大腸ステントで閉塞を解除できれば、すぐに通常の生活に戻れるのです」

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