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ステージⅢ(III)と再発リスクの高いステージⅡ(II)が対象に

大腸がん術後補助化学療法は、再発リスクを考慮して行う

監修●鶴田雅士 慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)助教
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年5月
更新:2016年7月

  

「術後補助化学療法は再発リスクの高い患者さんに対して行う意義があります」と話す鶴田雅士さん

大腸がんは手術でがんを取り切ることができれば、他のがん種よりも治癒率が高い。しかし、進行がんでは、CTやPETでも捉えられない微小ながんが残されている可能性が高く、これが再発のもとになる。そのリスクを下げるのが、手術後に抗がん薬を投与する術後補助化学療法だ。効果と副作用、ライフスタイルなどを踏まえ、患者にとってベストな治療法を選びたいものだ。

術後補助化学療法は 手術後の再発予防が目的

大腸がんでは、がんの深さ(深達度)が粘膜および粘膜下層までのものを「早期がん」、その下の固有筋層より深いところまで達しているものを「進行がん」という。がんが大腸の壁の内側から外側に向かって深く進行するに従って、転移する確率も高くなる。しかし、大腸がんは、進行がんであっても手術でがんを取り切れれば予後がよい。

「早期で手術によりがんを取り除くことができれば、高い確率で治ります。また大腸がんは転移・再発の場合も、消化器がんの中では唯一、手術が第1選択になっています。もし肝臓や肺に転移があっても、手術で取り切れるなら、積極的に切除手術をするというコンセンサスがあります」と慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)助教の鶴田雅士さんは、手術の有効性を話す。

しかし、手術でがんを取り切ったとしても、ある程度の割合で転移・再発が起きてしまう。大腸がんの5年生存率は、ステージ0、Ⅰ(I)ではそれぞれ90%を超え、ステージⅡ(II)では84.4%、ステージⅢ(III)aで77.7%、より進んだステージⅢ(III)bでは60.0%と報告されている。標準治療の手術が行われても、転移・再発が起きてしまうため、5年以内に亡くなる患者は少なくないという現実がある。

そこで、手術をした後の転移・再発の確率を下げる目的で行われるのが、術後補助化学療法(アジュバント療法)だ(図1)。

図1 術後化学療法で再発を抑える

「手術がいくら有効とはいえ、目に見える部分しか取り切れません。しかし、がんはがん細胞が全身にどれくらい広がっているかが問題となる全身病です。手術で摘出した病変を精査して、がんの進行度を判断することをステージングといいますが、それをもとに転移・再発の確率を考えて、予防的に抗がん薬を投与するのが術後補助化学療法の概念です」と、鶴田さんは話す。

大腸癌研究会・全国登録2000~2004年症例

ステージⅡ(II)では ハイリスク群かどうかを判断する

図2 大腸がんステージⅡ(II)の再発リスク要因

術後補助化学療法を行うことが推奨されるのは、再発の可能性が高いステージⅢ(III)(リンパ節に転移)。このステージへの適応はエビデンス(科学的根拠)が示されている。一方、リンパ節転移のないステージⅡ(II)は、再発の可能性が高いと判断される場合のみ、術後補助化学療法が行われることが多い。では、ステージⅡ(II)でも「再発の可能性が高い」と判断されるのはどのようなケースなのだろうか。

「いくつかのリスク因子があります。まず、がん細胞のいわゆる〝顔つき〟。分化度の低いがんほど、正常細胞とはかけ離れた顔つき(がん細胞の形や乱れが激しい)になっています。このような顔つきの悪いがん細胞はハイリスクです。さらに、リンパ管または静脈侵襲がある場合、多臓器浸潤、腫瘍によって腸閉塞が起きて、消化管に孔が空いて緊急手術を行った場合などがハイリスク群といえます(図2)」

また、患者の年齢も術後補助化学療法を行うかどうかの判断材料となる。

「若い方でリスクがあるなら、術後補助化学療法をしたほうがいいと思います。大腸がんの手術は90代の方でも行うことがありますが、化学療法は積極的にはお勧めしていません。ただし、受けたいという希望がある高齢者の場合には、併存疾患を確認し、主要な臓器の機能や全身状態(PS)を加味して、慎重に判断して行うようにしています」

鶴田さんの印象では、ステージⅡ(II)で術後補助化学療法を受ける患者は、3~4割だという。

5種類の治療法が標準治療に

術後補助化学療法は、手術後4~8週までに開始され、期間は6カ月間が標準とされている。

『大腸癌治療ガイドライン』(医師用2014年版[大腸癌研究会編])によると、推奨されている治療法は何種類かある。最初に効果が認められたのは、5-FUをベースとした化学療法で、注射薬である5-FUとロイコボリンを併用した治療法は、現在でも標準治療とされている。これと同等の効果を示す経口薬による、ゼローダ療法、UFT+ロイコボリン療法、さらにFOLFOX療法やCapeOX療法という多剤併用療法が加わり、5つの治療法が標準治療になっている(表3)。術後補助化学療法としての分子標的治療薬の有用性は示されていない。

表3 術後補助化学療法のレジメン

保険適応収載順

「ステージⅡ(II)、ステージⅢ(III)aであれば、経口薬のゼローダ療法かUFT+ユーゼル療法をお勧めするケースが多いです。UFT+ユーゼルは食前食後1時間開けるという複雑な服用ルールがありますが、副作用が少ないので、患者さんは服用しやすいと思います。

ステージⅢ(III)bの場合には、FOLFOX療法もしくはCapeOX療法をお勧めします。エルプラットを加える治療法のほうが、5-FU+ロイコボリン療法より再発予防効果が高いことが臨床試験で証明されているからです」

この他、TS-1療法、SOX療法(TS-1+エルプラット)も術後補助化学療法としてエビデンスを構築中だ。

5-FU=一般名フルオロウラシル ロイコボリン、ユーゼル=一般名ホリナートカルシウム ゼローダ=一般名カペシタビン UFT=一般名テガフール・ウラシル FOLFOX療法=5-FU+ロイコボリン+エルプラット CapeOX療法=ゼローダ+エルプラット エルプラット=一般名オキサリプラチン TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

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