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治療ガイドライン2016に沿って薬物療法の分野を解説

新規薬剤も登場! 個別化医療が進む進行再発大腸がんの治療

監修●吉野孝之 国立がん研究センター東病院消化管内科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年7月
更新:2017年7月

  

「大腸がん分野でも、今後ますます個別化医療が進むと考えられます」と語る吉野孝之さん

『大腸癌治療ガイドライン医師用2016年版』が昨年(2016年)11月に発刊された。今回は薬物療法の分野で改訂が行われ、新規薬剤や新たな併用療法の追記がされた。今後ますます個別化医療が進む進行再発大腸がん治療。ガイドラインの内容を読み解きながら、治療の進め方について専門家に話を聞いた。

わずか2年でガイドラインが改訂された

昨年(2016年)、『大腸癌治療ガイドライン医師用2016年版』が刊行され、薬物療法の領域で大幅改訂が行われた。2014年版が出たときには、次の改訂は2018年の予定になっていたので、2年ほど早く改訂を行ったことになる。その理由について、ガイドライン作成委員会のメンバーでもある国立がん研究センター東病院消化管内科長の吉野孝之さんは、次のように説明している。

「薬の開発が速く、重要な臨床試験の結果が次々と発表されたためです。それにより、2016年版には新たな薬や併用療法が登場しています。こうした流れは現在も続いていて、次も2年で改訂し、2018年版を出す予定になっています」

切除手術ができない進行再発大腸がんの治療は、薬物療法が中心となる。薬物療法を行わないと生存期間中央値は8カ月ほどだが、薬物療法が進歩したことで、生存期間中央値は30カ月ほどに延びているという。

ガイドラインでは、強力な治療が適応となるかどうかで、推奨する治療を分けている。強力な治療が適応とならないのは、重篤な疾患があるような場合。それ以外の多くの患者は、強力な治療が適応となる。

強力な治療が適応となる場合に推奨される治療には、多くの種類がある。どこが新しくなったのか、1次治療から見ていこう。

大きく2つに分類される併用療法

進行再発大腸がんの1次治療で行われる併用療法は、大きく2つに分類できる。

1つは、エルプラットと5-FU系の薬を中心に組み合わせた併用療法で、FOLFOX(フォルフォックス)、CapeOX(カペオックス)、SOX(ソックス)がある。併用療法の名前に、エルプラットを意味する「OX」を含んでいるのが特徴だ(図1)。

もう1つは、イリノテカンと5-FU系の薬を中心に組み合わせた併用療法で、FOLFIRI(フォルフィリ)、IRIS(アイリス)がある。こちらは名前にイリノテカンを意味する「IRI」を含んでいる(図2)。そして、その両方を含んでいるのがFOLFOXIRI(フォルフォキシリ)である。

「7割位の患者さんは、エルプラットを含む併用療法で1次治療を始めています。こちらのほうが比較的使いやすいからです。イリノテカンは、稀に副作用が強く現れる人がいるので、治療の導入で失敗しないために、エルプラットを含む併用療法が選ばれているケースが多いようです」

そして、これらの併用療法に、アバスチンや、アービタックス、ベクティビックスなどの分子標的薬を併用することが推奨されている(図3)。抗EGFR抗体薬であるアービタックスとベクティビックスは、遺伝子検査でRAS遺伝子を調べ、変異がない場合(RAS野生型)にのみ使用できる。

エルプラット=一般名オキサリプラチン 5-FU=一般名フルオロウラシル FOLFOXIRI=5-FU+アイソボリン+イリノテカン+エルプラットの併用療法 アバスチン=一般名ベバシズマブ アービタックス=一般名セツキシマブ ベクティビックス=一般名パニツムマブ

図1 進行再発大腸がんで使われる薬剤の組み合わせ
図2 進行再発大腸がんで使われる薬剤の組み合わせ
図3 進行再発大腸がんで使われる分子標的薬

1次治療にSOXが新たに加わった

2016年版のガイドラインでは、1次治療としてSOX+アバスチン、FOLFOXIRI+アバスチンが新たに加えられた(図4)。

「SOX+アバスチンが加えられたのは、FOLFOX+アバスチンとの比較試験が行われ、非劣性(劣っていないこと)が証明されたからです。FOLFOXIRIは2014年版のガイドラインで加わったのですが、その後、FOLFOXIRI+アバスチンがFOLFIRI+アバスチンよりも生存期間を延ばすことが証明されたため、加えられました。ただ、日本ではまだ使用経験が少ないということで、FOLFOXIRIとFOLFOXIRI+アバスチンの両方が、1次治療で推奨されています」

治療パターンとしては5次治療まであり、効果の高い治療から順番に行っていくのが基本的な流れとなる。1次治療を行い、それが効かなくなったら、2次治療が開始されることになるが、その場合、通常1次治療で使わなかった機序の異なる薬剤に切り替えて治療を行う。

例えば、1次治療でFOLFOX+分子標的薬のように、エルプラットを含む併用療法を行った場合、2次治療ではFOLFIRI+分子標的薬のように、イリノテカンを含む併用療法が推奨される。ただし中には、組み合わせる薬剤によって再び効果を示す薬もあるので、継続的に使用するものもある。

「例えば、アバスチンや5-FUなどは2次治療でも使いますし、イリノテカンはアービタックスやベクティビックスとの併用で、2次でも3次でも使います。いったん効かなくなった薬でも、組み合わせる相手を変えることで、再び効くようになることがあるからです」

こうした併用療法は、基本的には治療が効かないと判断された段階で、次の治療に切り替えて、治療を使い切ることが重要となる。ただし、FOLFOXIRIあるいはFOLFOXIRI+アバスチンの場合、治療のコンセプトが若干異なるという。

「FOLFOXIRIあるいはFOLFOXIRI+アバスチンは、非常に強力な治療なので、がんは急速に縮小します。ただ、副作用も強いため、体が持たず、長く続けることはできません。効かなくなるまで続けるのではなく、強い痺れなどの副作用が残らないように3~4カ月で治療を止め、そこからは維持的な治療に入ります。他の併用療法とは、コンセプトの異なる治療法になります」

図4 切除不能進行再発大腸がんに対する化学療法のアルゴリズム

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