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肝転移患者への肝動注化学療法の活用

全身化学療法への橋渡し的役割 大腸がんにおけるレスキュー肝動注化学療法の有用性

監修●石川敏昭 東京医科歯科大学大学院総合外科学分野(医学部附属病院腫瘍化学療法外科)准教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年7月
更新:2017年7月

  

「レスキュー肝動注療法は、大腸がん肝転移に対する治療戦略における選択肢として有用な場合があります」と語る石川敏昭さん

大腸がんが最も転移しやすい臓器の一つ肝臓。手術不能例や他臓器にも転移がみられるケースでは全身化学療法が行われるが、肝転移による重症肝障害患者では、多剤併用全身化学療法が困難な症例が多くみられる。そこで考案されたのが、5-FUを用いた肝動注化学療法を全身化学療法への移行を目的としたレスキュー(救済)肝動注。あくまで橋渡し的な治療法だが、高い治療効果が認められている。その内容について専門家にうかがった。

全身化学療法にすら移行できないケースも

大腸がんの転移臓器で最も多くみられるのが肝臓。この肝転移は大腸がんの重要な予後規定因子となっており、肝転移の制御が生命予後(生存期間延長)と大きな関係をもっていると言われる。肝転移に対しては、手術が可能な場合には肝切除が行われるが、切除不能のケースや肝臓以外の転移が切除不能なケースには、全身化学療法を行う。しかし、肝機能障害や全身状態(PS)の悪い患者では、全身化学療法にすら移行できないケースもある。

こうした症例に対し、東京医科歯科大学では5-FUを用いた肝動注化学療法を全身化学療法への移行を目的としたレスキュー(救済)肝動注として積極的に用いて成果を上げている。その現状について同大学附属病院腫瘍化学療法外科准教授の石川敏昭さんに話を聞いた。

5-FU=一般名フルオロウラシル

腫瘍組織内の薬剤濃度を上昇させて抗腫瘍効果を高める

肝動注化学療法は、抗がん薬を腫瘍の栄養血管に直接注入することで、全身的な有害事象の増悪を避けつつ、腫瘍組織内の薬剤濃度を上昇させて抗腫瘍効果を高めることを目的とする治療法。大腸がんの肝転移に対する肝動注化学療法では、5-FU(1,000mg/m2)を毎週5時間で投与するweekly high-dose5-FU(WHF)療法が一般的で、一次治療における奏効率は50~80%と言われる。肝動注療法には、リザーバーと呼ばれる器具を下腹部の皮膚の下に埋め込む方法(動注リザーバー療法)と、治療のたびにカテーテルを血管に挿入する方法がある。

石川さんよると、「肝動注療法自体は、とくに新しい治療法ではなく、1990年代に肝転移の治療法として普及したものだ」という。

5-FUは肝臓を灌流する際に大部分が代謝されるため、肝外病変への治療効果は期待できないが、5-FUによる有害事象は全身投与に比べ軽い。その一方で、肝動注療法に特有な有害事象として、カテーテル留置に伴う出血や血栓症のほかに、肝動脈閉塞や感染、胃十二指腸潰瘍、動脈瘤の形成、カテーテルの血管外逸脱などがある。

全身化学療法との比較試験で生存期間の延長を認めず

肝動注療法は、画期的な肝転移制御能を有するために生命予後を延長すると期待され、当初広く普及した。しかし、欧米で行われた5-FUを用いた全身化学療法とのランダム化比較試験において、奏効率は有意に高かったにもかかわらず、生存期間(OS)の延長を認めなかったことや、さらにその後、FOLFOXやFOLFIRIなどの多剤併用療法やベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブなどの分子標的薬が開発され、全身化学療法の肝転移に対する奏効率は50~80%と飛躍的に高まったことから、現在、全身化学療法が肝転移に対する化学療法の第1選択となっており、肝動注療法は主流から外れる形となっていた。

こうした流れの中で、石川さんらは前記の肝機能障害や全身状態(PS)が悪く、全身化学療法へ移行できない患者に対し、肝動注療法を全身化学療法への移行を図るための橋渡し的な、レスキュー肝動注として試みる価値があると考えたという。

FOLFOX=フルオロウラシル+ℓ-ロイコボリン+オキサリプラチン併用療法 FOLFIRI=フルオロウラシル+ℓ-ロイコボリン+イリノテカン併用療法 ベバシズマブ=商品名アバスチン セツキシマブ=商品名アービタックス パニツムマブ=商品名ベクティビックス

肝動注療法の手技

石川さんは肝動注療法について「日本ではインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)技術を用いた経皮的カテーテル留置法が確立しており、側孔(そくこう)型カテーテル先端固定留置法と血流改変術がポイントとなります」という。

かつてのカテーテル留置法は先端孔式カテーテルを単純に肝動脈内に留置するものであったが、カテーテル逸脱や肝動脈閉塞が高頻度に生じていた。カテーテルの機械的な刺激がこれらの原因と考えられたため、側孔式カテーテルを用いてカテーテル先端を肝動脈以外の血管に挿入し、側孔から薬剤が肝動脈に流入するように固定する方法が考案された。これによって、カテーテルの逸脱と肝動脈閉塞が顕著に減少した。

側孔型カテーテル先端固定法は、カテーテルに設けた側孔を薬剤注入に適した位置に置いて、カテーテル先端を薬剤注入に影響のない血管内に塞栓(そくせん)金属コイル固定するもの。カテーテル固定に用いる血管により胃十二指腸動脈(CDA)に固定する場合はCDA-コイル法、脾動脈(SpA)に固定する場合はSpA-コイル法と呼ばれている(図1)。このうち前者が標準的になっている。

効果的で安全な肝動注療法を行う上で、1本のカテーテルから薬剤が肝全域に到達すること、合併症の原因となる肝外への薬剤流入(流出)を防止することの2点が重要となる。このためには、右・左転位肝動脈や副肝動脈を有する症例にはこれらを塞栓し、肝動脈の1本化を行う。転位肝動脈を塞栓すると、1本の肝動脈からの薬剤が肝内吻合枝(ふんごうし)を介して肝全体に及ぶようになる。また、肝動脈以外の側副血行路(そくふくけっこうろ)からの供血が発達している症例では、肝内薬剤分布が不良になるため、側副血行路を塞栓する。さらに合併症防止のための血流改変としては、通常、右胃動脈、胃十二指腸動脈、副左腎動脈などを塞栓するという。

「肝動注療法中に腹痛や背部痛が出現する場合には、血管外へのカテーテル逸脱や肝外への抗がん薬の流入の可能性があるので、適宜DSA(デジタルサブトラクション血管造影)やCTA(肝動脈造影時CT)で確認します」(石川)。

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