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世界的に注目のマイクロRNAを活用したバイオマーカー 血液1滴で大腸がんリンパ節転移を予測、治療のあらゆる場面で利用可能に

監修●高丸博之 国立がん研究センター中央病院内視鏡科医師
取材・文●伊波達也
発行:2018年4月
更新:2019年7月

  

「1滴の血液でがんがわかれば大きなアドバンテージになります」と語る高丸博之さん

1滴の血液から13種類のがんが早期発見できるというマイクロRNAを活用したがん診断法の研究が、国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野長・落谷孝広さんを中心に進んでいる。同じく当病院内視鏡科の高丸博之さんも、大腸がんの早期発見を可能にする診断法の実用化に向けて、その臨床的なパートの研究に協力している。

これまでは大腸がん検査には便潜血検査

あらゆるがんにおいて、早期発見・早期治療を実現することは、根治(こんち)率・生存率の向上を図るための最重要課題だろう。もちろん、医療費のコスト面を考えた場合にも有益だ。しかし、現実問題として、がん種によって早期発見しやすいがんと、しにくいがんがあることは確かであり、そのことによって、生存率が大きく左右されている場合もある。早期発見しにくいがんを早期発見して治療につなげていくということは、がん医療に携わる医療者たちすべての目標であり、がん患者予備軍である人々にとっての願いでもあるだろう。

一方、たとえ早期発見しやすいがんであったとしても、早期発見するためのがん検診を、受益者である我々国民が受けなければ、早期発見による根治率・生存率の向上の可能性を望めないのも事実だ。

今回の特集で取り上げている大腸がんは、比較的早期発見しやすいがんと言えるかもしれない。自治体や企業の検診では、便の中に血液が混じっていないかどうかを調べる、便潜血検査が簡便で安価な方法として長い間採用されてきた。そして、その検査でスクリーニングされ、陽性として引っかかった場合には、精密検査としての大腸内視鏡検査(大腸カメラ)が推奨されている。

だが、便潜血検査の時点で、その検診率は、地域によって差があるものの、3割から5割に留まっているというのが実情なのだ。便潜血検査が陽性であっても、実際にがんであるケースは4%程度に留まるというデータがあることも確かだ。

前がん状態のポリープが検出された場合に切除すると、切除しなかった場合に比べ、大腸がん死亡を半減できるという全米ポリープ研究(1980~2012年)の結果はあるが、ポリープを切除しても、半分の人は大腸がんで亡くなるという考え方をする意見もある。

男女共、罹患率の高い大腸がん

しかしながら、大腸がんは罹患数が多く、我が国では、がん種別年間死亡数で大腸がんは2位、男性は3位、女性においては1位という現実がある(2016年国立がん研究センターがん対策情報センター)。女性がそのような状況となっている一因には、大腸がん検診を敬遠しがちということがあるのは否めないだろう。

検診の負担を少なくし、受診のハードルを低くするべく、近年ではカプセル内視鏡検査や大腸CTコロノグラフィ検査(バーチャル内視鏡検査)といった最先端の検査方法も開発されている。

とはいうものの検診率は男性44.5%、女性38.5%(2016年国立がん研究センターがん対策情報センター)というのが実情だ。

そんな中、ある画期的ながん検査法の開発に向けての研究が現在急ピッチで進んでいる。

「がんを早期発見するための研究プロジェクトは、がん種ごとにいろいろあると思いますが、今、最も注目されているのが、血液1滴で、がんかどうかを診断することのできるマイクロRNAというバイオマーカーを使った検査法の研究です。私たちも臨床科として、今後、臨床応用できることを目指すべく、そのプロジェクトの一員として協力しています」(図1)

そう話すのは、国立がん研究センター中央病院内視鏡科の高丸博之さんだ。

高丸さんらの内視鏡科は、大腸がんの疑いのある患者に対し、日々内視鏡検査を行い、前がん状態のポリープや早期大腸がんに対する内視鏡治療を、全国屈指の症例数で行っており、早期発見・早期治療に大きく貢献している。

そして、さらなる早期発見・早期治療を目指してさまざまな臨床研究も行っている。

その中の1つが、同センター研究所分子細胞治療研究分野長・落谷孝広さんが統括する国家的なプロジェクトである「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」の、臨床実用化に向けての研究への協力だ(図2)。

マイクロRNAを活用したバイオマーカーとは

では具体的にどのような研究内容なのだろうか。

「この研究は、患者さんの血清の中にあるマイクロRNAというリボ核酸が、がんの増悪や転移と関わりがあることがわかってきたことに着眼し、日本人に多いがんのみならず希少がんも含めた13のがん種(大腸がん、胃がん、食道がん、膵がん、肝がん、胆道がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、神経膠腫、骨軟部肉腫)において、このマイクロRNAを発症のバイオマーカーとして活用し、各がんの早期発見を目指すという研究です」(高丸さん)

人体は主にタンパク質で構成されており、その設計図を作っているのがDNA(デオキシリボ核酸)。遺伝情報の継承にあたり、DNAは一旦RNA(リボ核酸)に移し替えられる(転写)。RNAは、タンパク質になるRNA以外に、ごく微小なRNA(マイクロRNA:2,578種類)がある。

色々ながんからもマイクロRNAが出ていて、がんの種類によって分泌されるマイクロRNAが異なり、それぞれの特徴を有していることがわかった。そこに目をつけて、がんの早期発見につなげるという目論みなのだ。

マイクロRNAは、画像診断や従来の血液検査による腫瘍マーカーで検出可能なものよりも、さらに早期な段階で、がんであるかどうかを検出することが可能であるという。

国立がん研究センターが中心となっている研究プロジェクトでは、昨年(2017年)、過去のがん患者ら約4万人の保存血液の中から、13種類のがんがもつ固有のマイクロRNAを特定することに成功した。これによってがんを正しく判定できる精度は、95%以上に向上したという。

現在は、がん患者と健常者を合わせた約3,000人から採取した血液を、先の研究結果に基づいて検証していくという臨床研究に着手している。

東京オリンピックの開催される2020年頃を目処に、がんの1次スクリーニング法として、まずは人間ドックのメニューの1つとするなどの実用化を目指している。

マイクロRNAによるがんの検出法は、DNAチップの上に、わずか0.3cc(300マイクロリットル)の血液で、約2,500個のマイクロRNAを測定することができる。1種類のがんの診断に、複数のマイクロRNAを用いて診断するとしても、たった1枚のDNAチップで13種類のがんの診断が可能なのだ(図3)。

血液検査と言えば、通常の検診では必須の項目であり、そこから生活習慣病などに関わるさまざまな数値でリスク度を検出しているが、マイクロRNAを使ったがん検診は、血液1滴で13種類のがんが検出可能であるため、通常に採血した血液の残りのわずかな部分を使って検査ができるというのが大きなメリットだ。しかも、1度の採血によって、13種類のがんが同時に検出できるということになるとしたら、受診者にとっては大いなる負担の軽減となるだろう。

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