長期照射による療法で20%ががん消失
直腸がんの術前化学放射線療法で、予後・QOLが改善
化学放射線療法がもっと
普及して欲しい」と話す
貞廣荘太郎さん
直腸がんの治療は手術が中心だが、欧米では2期、3期については放射線と抗がん剤を一緒に用いる化学放射線療法を手術前に行うのが標準治 療として行われる。日本でもこの治療を行う医療機関が増えている。その理由とは──。
局所再発をいかに抑えるか
直腸は、骨盤と呼ばれる狭い空間に位置しています。ここには男性では直腸のほかに膀胱、女性ではさらに子宮や腟があり、神経や血管が走っています。このため直腸がんの治療では、根治をめざすとともに、できるかぎり排便、排尿、性機能を損なわないようにする機能温存がどこまでできるかが課題となります。
さらに、1期の早期がんは手術でほとんどの人が完治しますが、2期、3期のがんだと、術後の再発が少なくないという問題があります。このため、患者さんの長生きのためにはいかに再発を抑えるかが重要となります。
東海大学医学部消化器外科学教授の貞廣荘太郎さんは次のように語ります。
「直腸がんの再発で最も多いのは局所再発、つまり骨盤内の再発で、その次に多いのが肝臓や肺です。骨盤内に再発があると痛みや出血があったり、排便・排尿がうまくいかなくなったりと、日常生活の上でつらい症状に悩まされることになるので、ここでの再発を抑えることが重要で、生存率の改善にもつながります」
そこで、2期、3期の直腸がんに対して、まず放射線と抗がん剤による治療でがんをできるだけ小さくして、その上で手術を行い、局所再発を抑えようというのが術前化学放射線療法です。また、抗がん剤を用いずに放射線だけを当てる治療法もあります。
手術しても残る微小のがん
なぜ手術前の化学放射線療法、あるいは放射線療法が有効なのでしょうか。
そもそも手術には限界があると貞廣さんは語ります。
「手術でがんをすべて取り切ったと思っても、まわりにはそのときはわからない大きさのがん細胞があって、手術後1年、2年と経つうちにだんだん大きくなってくることがあります。これが再発です。手術のときは見逃してしまうこのような微小ながんや、また手術で取り切れない場所などに放射線、あるいは抗がん剤を併用する化学放射線療法を行えばがんを根絶できるはずで、局所再発の原因を取り除くことが可能です」
手術の方法は、かつては直腸と直腸の後ろ側にある間膜を、がんがある部分だけを切除していましたが、90年代半ば以降、微小転移の可能性がある直腸の間膜をすべて切除する手術(TME)に変わってからは局所再発が大幅に少なくなり、従来の手術で20パーセント台だった局所再発率が10パーセント程度に減りました。
現在日本では、直腸間膜をすべて切除する手術またはその手術に加えて、側方リンパ節郭清を行う方法が多くの施設で行われています。
しかし、直腸間膜をすべて切除する手術を行うようになっても、局所再発率は10パーセント以下にはならず、いかにして減らしていくかが課題でした。
放射線+手術で再発半減
オランダで1861例を対象に、放射線照射のあと、直腸間膜をすべて切除する手術を行った群と、その手術のみの群とを比較したところ、手術のみの局所再発率が10.9パーセントだったのに対し、術前照射+手術では5.6パーセントに減っていました。
ただし、この比較試験では生存率の有意差はありませんでした。理由は、直腸がんでは、肝臓や肺での再発も局所に迫る勢いで多いため、局所再発を抑えるだけでは全体の生存率向上にはつながらないからだ、と貞廣さんは指摘しており、課題を残しています。
さらにドイツでは、放射線治療は術前か術後のどちらがいいか、比較試験が行われました。結果は、術後だと局所再発が13パーセントに減り、術前だと6パーセントに減り、術前に軍配が上がりました。
「副作用についても、下痢などの急性毒性は術前のほうが少ないし、吻合部狭窄(*)などの晩期毒性も、手術による癒着などがない術前のほうが少ないという結果でした」
こう語る貞廣さんによると、ドイツでの比較試験ではもう1つ明らかになったことがあります。
手術前に放射線を当ててがんが小さくなることによって、永久的な人工肛門になる人が少なくなったといいます。おかげで自分の肛門を残すことができた人が増えたわけで、この点は患者さんのQOL(生活の質)にとっても朗報でしょう。
*吻合部狭窄=手術でつないだ部分が狭くなること
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