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手術可能なら原発巣も転移巣もまとめて切除。併用化学療法+分子標的薬に望み
あきらめないで!大腸がんの腹膜播種でも根治、延命は可能!?

監修:内藤正規 北里大学医学部外科学助教
取材:伊波達也
発行:2011年12月
更新:2019年7月

  
内藤正規さん 大腸がんの腹膜播種の研究に力を入れている
内藤正規さん

予後が極めて悪い大腸がんの腹膜播種に光明が差してきた。手術可能なら原発のがんと転移巣をできるだけ切除、FOLFOX、FOLFIRIなどの併用化学療法、分子標的薬の投与も追加すれば、治療成績が大幅に伸びることがわかってきた。

肝転移に次いで多い

腹膜播種とは、がんの転移によって、腹腔内の臓器を覆っている腹膜に、あたかも種をまいたようにがんが広がってしまう状態です。通常、この状態になると、病状はかなり深刻で、予後も極めて悪くなります。

腹膜播種は、胃がんや卵巣がんの進行した症例でよく見られます。しかし、大腸がんにおける腹膜播種も、がんが進行して起こる遠隔転移の中では、肝転移の10.7パーセントについで多く、5.2パーセントと高い頻度で起こっています。

「大腸がんの腹膜播種は、がんが非常に進行した結果、腹膜に転移をきたしたものです。発見が難しく、手術前のCTでの診断率もあまり高くありません。手術でお腹の中をのぞいて、初めて見つかることも多いのです」

こう話すのは、大腸がんの腹膜播種の治療にくわしい北里大学医学部外科学助教の内藤正規さんです。

大腸がんの腹膜播種は、がんの進行度としては、最も進んだステージ(病期)4になりますが、大腸癌研究会の『大腸癌取り扱い規約』により、その病状に応じて、P0~P3に分類されています。

[進行度による大腸がんの腹膜播種の分類(P0~P3)]

P0 腹膜へのがんの転移を認めない
P1 がん原発巣の近傍の腹膜にのみ、がんの播種性転移を認める
P2 がん原発巣の遠隔の腹膜に、少数のがんの播種性転移を認める
P3 がん原発巣の遠隔の腹膜に、多数のがんの播種性転移を認める

「大腸がんの腹膜播種は、原発巣(もとのがん本体)の近くから、だんだん遠くへと広がっていくパターンが多いのです。P1は、原発巣近くの腹膜に小さな転移巣ができている状態。P2は、原発巣から離れた腹膜にもがんが転移している状態で、P3になると、転移巣の数が多くなり、場合によってはお腹の中のあらゆるところにがんが散らばっている状態です。自覚症状は、腹水がたまってお腹が張る、腹部に違和感があるなどです。また、触診でお腹にゴツゴツしたしこりが見つかることもありますが、この場合、P3である可能性が高いのです」

PET-CTの威力

[PET-CTによる腹膜播種の診断]
PET-CTによる腹膜播種の診断

CT画像のみでは腹膜播種を見分けにくいが、PET画像と重ね合わせることで、容易に見分けられる

大腸がんは、日本人では直腸などの大腸の出口付近にできやすいのですが、大腸がんの腹膜播種は、結腸がんで多発します。これは、骨盤内に固定されている直腸よりも、結腸のほうが腹膜と隣接しているからと考えられています。とくに、体の右側にある盲腸や上行結腸に多く見られます。その理由は、右側の結腸は、腸閉塞などの大腸がんの主症状が出にくいため、発見されたときには、すでに腹膜播種が起きるほど進行していることが多いためだといいます。

腹膜播種に対する治療効果を高めるためには、少しでも早いP1の状態で発見することが重要です。

「今ではPET-CT()の精度が良好で、正診率は78パーセントです。大腸がんと診断されたときに、腫瘍がかなり大きかったり、大腸の壁に深く潜り込んだりしているような場合、また、大腸がんの腫瘍マーカーの数値がかなり高いにもかかわらず、肝臓や肺への転移が認められなければ、腹膜播種を疑って、PET-CTを受けてもらいます」

PET-CT=陽電子放射断層撮影とコンピュータ断層撮影を組み合わせた画像検査。生体の機能画像と形態画像を重ね合わせた画像を撮り、病変の位置の特定や正確な診断ができる

完全切除を目指す

[手術+化学療法の効果(根治切除可能症例における生存率)]
手術+化学療法の効果

[化学療法別の生存率の比較]
化学療法別の生存率の比較

では、診断で腹膜播種が認められたら、どのような治療方針が採られるのでしょうか。

「大腸がんの治療ガイドラインによれば、P1であれば、完全切除が望ましいとされています。がんの原発巣を切除して、リンパ節郭清もしっかり行い、周囲の転移巣をすべて切除するのです。P2の場合、ガイドラインでは"完全切除を考慮する"という表現になっていて、目に見える範囲のがんをできるだけ切除します。P3では、手術の有効性が認められていませんので、他の遠隔転移と同様に、全身化学療法を行います」

P3の場合、欧米では腹膜に加えて、大網(胃や腸を覆う膜状の器官)や卵巣など、がんが転移しやすいお腹の中の組織をすべて切除したあと、抗がん剤を混ぜた生理食塩水を41~42度に温め、腹腔内を1~2時間還流させる温熱化学療法という治療を行います。

しかし、わが国では、この治療は一部の病院でしか行われていません。確立された治療法ではあるものの、患者の負担があまりにも大きいからです。術中死亡率は12パーセントほどで、術中、術後の合併症を引き起こす可能性も高いといいます。

「わが国で標準的な治療として行われているのは化学療法です。手術可能、不能を問わず、すべての進行度において勧められています。現在、最も有効だといわれているのは、FOLFOX()、FOLFIRI()、XELOX()といわれる複数の抗がん剤を併用した大腸がんの化学療法です。ガイドラインには記載されていませんが、全国の大腸がんの治療に携わる病院の症例報告により、ほぼその有効性が認められています。今後、長期的な経過がわかってくると、有効性が証明されると思います」

FOLFOX=5-FU(一般名フルオロウラシル)+アイソボリン(一般名レボホリナートカリシウム)+エルプラット(一般名オキサリプラチン)の併用療法
FOLFIRI=5-FU+アイソボリン+カンプト(一般名イリノテカン)の併用療法
XELOX=ゼローダ(一般名カペシタビン)+エルプラットの併用療法


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