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効果は大きく上がったが、医療費も大きく上がって~
飲む抗がん剤を上手く利用しよう!大腸がんの化学療法

監修:小松嘉人 北海道大学腫瘍センター副センター長・診療教授
取材・文:がんサポート編集部
発行:2011年12月
更新:2013年7月

  
小松嘉人さん 大腸がん化学療法の牽引車となっている
小松嘉人さん

最近、大腸がんの化学療法は飛躍的に進歩しています。分子標的薬も続々と出ていますが、患者さんにとって大きなネックは高額の医療費です。その問題を解消する手は飲む抗がん剤にありという提案をどうぞ。

「効かないがん」から「効くがん」へ

[がんに対する薬物療法の効果とは?]

  • 延命効果(がんの増殖・転移を抑え、悪化するのを遅らせる)
  • がんによる症状や痛みなどを緩和、改善効果
  • 再発を抑える(再発率低下)効果
  • 手術前に用いて、がんを縮小させる効果
  • ( がんを治癒させる効果)

がんの治療には、大きく分けて、手術、放射線、抗がん剤の3つがあり、3大療法と呼ばれていますが、最近、大腸がんに対する抗がん剤、薬物療法は大きく進歩しています。

大腸がんの薬物療法に詳しい北海道大学腫瘍センター副センター長で診療教授の小松嘉人さんは、その様子をこう概観します。

「20、30年前は、大腸がんは抗がん剤が効かないがんの代表でした。手術をし、その結果が悪いと諦めるしかなかった。それが10年ほど前から、治らないまでも、確実に延命できるようになり、さらに3、4年前に分子標的薬という新しいジャンルの薬が登場してからは、延命のみならず、根治できる人まで現れるようになり、大腸がんの治療に対する認識が大きく変わりました」

大腸がんは、抗がん剤が「効かないがん」から「効くがん」に大きく変わったというわけです。

再発率を下げる化学療法

[大腸がんの薬物療法の進展]
大腸がんの薬物療法の進展

それでは、その変化を具体的に見ていきましょう。

まず、大腸がんの手術後に行う補助化学療法ですが、昔は、効く抗がん剤がなく、手術をした後は、何もせずに、再発しないことを祈って待つしかありませんでした。

「しかし最近は、術後に抗がん剤治療(補助化学療法という)をすると再発率が下がるという海外のデータが出て、日本でもそれが実践されるようになってきました」

それは、FOLFOXと呼ばれる治療法です。これは、5-FU()にアイソボリン()、エルプラット()の3種類の注射薬を組み合わせた治療法で、進行再発大腸がんに対しては標準治療の1つになっています。

日本で、術後の補助化学療法として1番多く用いられてきたのは、5-FUとアイソボリンの併用療法です。これを半年間続けます。他にも、飲み薬として、UFT()とロイコボリン()併用療法、ゼローダ()単剤療法があり、これらも同じく半年間続けます。

しかし、海外で行われた臨床試験で、5-FUとアイソボリン併用療法とFOLFOX療法とのどちらが優れているかが比 較され、術後5年の段階で5-FU、アイソボリン併用療法よりもFOLFOX療法のほうが再発率がステージ2で約4パーセント、ステージ3で約7パーセント低くなることが示されました。

5-FU=一般名フルオロウラシル
アイソボリン=一般名レボホリナート
エルプラット=一般名オキサリプラチン
UFT=一般名デガフール・ウラシル
ロイコボリン=一般名ホリナート
ゼローダ=一般名カペシタビン

治癒を目指して

この結果を受けて、日本でも、2009年からFOLFOX療法が術後補助化学療法として保険が承認されました。

「したがって、北大病院では、ステージ2、3の大腸がん患者さんに対しては、術後の補助化学療法としてこのFOLFOX療法を勧めています」

しかし、このFOLFOX療法は、全国的にみるとまださほど普及していません。普及率は30~40パーセント程度です。なぜ普及が遅れているのでしょうか。

「治療の煩雑さが1番の難点です。この治療は長時間にわたって5-FUという薬の持続点滴(継続して静脈内に少量ずつ薬を入れる)が必要です。そのために、体に中心静脈リザーバーポート(以下、ポート)という薬の注入口を造設し、そこから携帯型ポンプを使って注入しなければなりません。がんを摘出した人に対して、ここまでやるのに患者さんも医師も抵抗感があるのです。もう1つは、コストです。薬剤費だけで月に約40万円ほどかかり、それが半年続きます。保険を使っても、大きな負担になります」

では、この問題を解消するにはどうすればいいのでしょうか。

「外科医は手術をするだけでも大変です。その上にこのようなきめ細かい治療をするのは大変なことです。そこで、このような補助化学療法は内科医に任せて、患者さんと相談しながらやればこの問題は軽減されるのではないでしょうか。補助化学療法は、再発を防ぐ治療ですから、患者さんには治癒の可能性が高まるわけです。ですから、患者さんには治癒を目指してがんばりましょうと言いたいですね。またコストの問題は、高額医療費制度などをうまく利用することが大切だと思います」

副作用で使い分ける

手術のできない進行・再発大腸がん患者さんに対する治療法にはどんなものがあるのでしょうか。前出の小松さんはこう言います。

「日本で普及しているのは、ざっと言ってFOLFOX療法が6割、FOLFIRI療法が2~3割、飲み薬が1割といったところでしょうか。しかし、世界の治療ガイドラインでは、FOLFOX、FOLFIRIに、アバスチン()やアービタックス()、ベクティビックス()という分子標的薬を加えていくというのが標準治療になっており、日本のガイドラインもやっと最近追いついてきたところです」

まず、FOLFIRIと呼ばれる治療法ですが、これは5-FU、アイソボリンにイリノテカン()という3種類の注射薬を組み合わせた治療法で、FOLFOX療法と並ぶ進行再発大腸がんの標準治療の1つです。FOLFOX療法と同様、ポートを造り、携帯ポンプを使って、長時間にわたる5-FUの持続点滴をします。

「海外で行われた臨床試験で、このどちらの治療法を先に行うのがよいかを比較したところ、生存期間が一致したので、どちらの治療法を先にしてもいいことになっています。両者では副作用の現れ方が違うので、副作用の良し悪しで使い分けるのが賢明といえるかもしれません」

たとえばFOLFOX療法では手足のしびれが起こりやすいのが特徴です。軽いもので100パーセント、重いもの(グレード3以上)で10~20パーセント起こるので、ピアニストや寿司職人、習字の先生など、手先を使う職業の人はこの治療法を避けたほうがいいでしょう。

これに対して、FOLFIRI療法では脱毛や倦怠感が比較的多いのが特徴です。外見を気にしがちの女性やサラリーマンだとこれを嫌がる人も多いかもしれません。その場合は、FOLFOX療法を先に選択すればいいわけです。

アバスチン=一般名ベバシズマブ
アービタックス=一般名セツキシマブ
ベクティビックス=一般名パニツムマブ
イリノテカン=商品名カンプト、トポテシン


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