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アバスチンの恩恵を最大限に受けるために
アバスチン登場で大腸がん治療はどう変わる?

監修:吉野孝之 国立がんセンター東病院内視鏡部消化器内科
撮影:板橋雄一
発行:2007年11月
更新:2014年1月

  
吉野孝之さん 国立がん研究センター東病院
内視鏡部消化器内科の
吉野孝之さん

2007年6月、大腸がん治療の新しい選択肢として、アバスチン(一般名ベバシズマブ)が登場した。海外ではすでに転移性大腸がんの標準治療として用いられており、本邦での大腸がん患者さんの期待も大きい。その一方で、製造販売承認から1年で承認され、臨床現場へ導入されたことから、国内での使用経験が少ない状況にある。このようななか、アバスチンの恩恵を最大限に受けるためには、リスクも含めて正しく理解することが必要といえそうだ。

よしの たかゆき 防衛医科大学卒業。
国立がん研究センター中央病院、東病院、静岡がんセンターを経て、米国メイヨークリニック、バンダービルド大学、ダナファーバーがん研究所に留学。
専門は、消化器がんの化学療法、内視鏡診断と治療

がん組織を兵糧攻めに

アバスチンは、血管新生阻害剤と呼ばれる新しいタイプの薬。がん組織は増殖がはやく、その成長には多くの栄養素が必要となることから、通常の血管からの栄養素だけでは足りないため、新しい血管を誘導し(血管新生)、栄養素を補給しようとする。アバスチンは、血管新生を促進する物質のひとつであるVEGF(血管内皮細胞増殖因子)を阻害することによって血管新生を阻害し、がん組織が栄養素を取り入れる経路を断ち、兵糧攻めにしてその成長を妨げる。ただし、これだけではがんは生き残ってしまうため、アバスチンは、必ず抗がん剤と一緒に用いることが重要だ。

また、がん組織には、栄養素を補給するために血管を引き込んだ結果として、異常な血管網が生じており、これによって抗がん剤が、がん組織にまで到達しにくくなっている。アバスチンは、この異常な血管網を整備するはたらきにより、がん組織に抗がん剤を届きやすくさせ、効果が増すというわけだ。

[アバスチンのはたらき]
図:アバスチンのはたらき

FOLFOX、FOLFIRIなどの化学療法に併用

アバスチンの本邦における適応は、「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」とされている。これに対するアバスチン登場以前の標準治療としては、FOLFOX[5-FU(一般名フルオロウラシル)+アイソボリン(一般名レボホリナート)+エルプラット(一般名オキサリプラチン)]、FOLFIRI[5-FU+アイソボリン+カンプト(一般名イリノテカン)]、「5-FU+アイソボリン」などが行われてきた。今後、アバスチンはこれらの治療法に併用して用いられる。その効果は、無治療での生存期間を1とすると、「5-FU+アイソボリン」で2倍、FOLFOXあるいはFOLFIRIで3倍、FOLFOXあるいはFOLFIRIにアバスチンを併用すると3.5倍に延長すると考えられる(下図)。

[化学療法の進歩による生存期間の延長]
図:化学療法の進歩による生存期間の延長

VenooK A:Oncologist 10:250-261,2005より改変

また、他のがんでは良好な結果が望めないため転移巣の切除を行わないが、大腸がんの場合は切除することで治癒が望めるという特徴がある。アバスチンを含む併用療法を実施することの大きなメリットのひとつは、切除ができなかった患者さんの10~15パーセントで、手術が可能となり、治癒が望める状態になることだ。「抗がん剤治療の継続から手術に切り替えるタイミングが重要。がんの完全消失を期待して安易に抗がん剤治療を続けるのではなく、縮小し始めたときに手術を決断し、がんを切除するべき。また、むやみに化学療法を延長すると、薬剤性肝障害になり、手術ができなくなるケースもある」と化学療法に詳しい国立がん研究センター東病院消化器内科の吉野孝之さんは話す。というのも、抗がん剤によってがんが消失したとしても、その後に再発する可能性が高いことが示されているためだ。

「切除不能ながんの中には、主要な血管とがん組織が癒着していることがある。この場合は、がん組織と主要な血管が離れたときが、手術に踏み切るタイミングとなる」

ただし、アバスチン投与後に手術を行う場合には注意点がある。「アバスチンは、がん組織の血管だけでなく通常の血管にも影響を及ぼす。その結果、傷が治りにくくなったり、出血が止まりにくくなったりする。そのため、手術の実施は、アバスチン投与を中止してから6週間以上の期間を経なければならない。なお、アバスチン投与中止後も、がんの成長を抑制するため、他の治療は手術施行まで継続すべきである」と喚起する。

FOLFOXやFOLFIRIにおいても留意点がある。

「副作用などを恐れた過度の減量は避けるべき。エルプラットでいえば、通常85ミリグラム/立方メートルで用いられるが、過度に減量して投与した場合の効果については証明されていない」。また、大腸がん治療においては、5-FU系の経口抗がん剤も使用されている。しかし、現在のところ、アバスチンとの併用療法においてエビデンスを有するのは、ゼローダ(一般名カペシタビン)のみだが、ゼローダの国内における適応は乳がんだけで大腸がんに用いることはできない。つまり、経口剤の5-FUとアバスチンの併用は、現時点では時期尚早といえる。

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