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大腸(結腸)がんの診断から治療まで
「大腸癌治療ガイドライン」をやさしく読み解くために

監修:高橋慶一 東京都立駒込病院外科部長
取材・文:町口 充
発行:2007年9月
更新:2019年7月

  
高橋慶一さん 東京都立駒込病院外科部長の
高橋慶一さん

近年、増加が著しいのが大腸がんだ。がんのなかでは割合タチがよく、早期に見つかればほぼ完治が可能にも関わらず、自覚症状が出にくいこともあって、早期発見が難しいがんでもある。今回は大腸がんのなかでも結腸がんについて、『大腸癌治療ガイドライン』作成委員会の委員でもある東京都立駒込病院外科部長、高橋慶一さんに解説をお願いした。


内視鏡で形態を肉眼分類

『大腸癌治療ガイドライン05年版』(大腸癌研究会編)は、大腸がんの診療に従事する医師を対象としたものだが、一般の人向けには『大腸癌治療ガイドラインの解説』が出版されているので、あわせて参考にされたい。

[大腸の仕組み]
図:大腸の仕組み

[大腸がんの肉眼分類]
図:大腸がんの肉眼分類

[大腸がん同時性遠隔転移頻度]

  結腸がん
症例数
15,528
直腸がん
症例数
10,563
大腸がん全体
症例数
26,091
11.4%
1,777
9.5%
1,002
10.7%
2,779
1.6%
242
1.7%
180
1.6%
422
腹膜 6.4%
993
3.0%
314
5.0%
1,307
その他の部位 0.3%
44
0.3%
36
0.3%
80
0.1%
9
0.1%
8
0.1%
17
Virchow 0.1%
19
0.01%
1
0.1%
20
その他 0.4%
64
0.5%
57
0.5%
121
合計 0.9%
136
1.0%
102
0.9%
238
(大腸癌研究会・大腸癌全国登録 1995~1998年度症例)

大腸がんにかかる人は食事の欧米化や生活環境の変化などにより、年々増え続けている。

まず大腸がんの診断だが、これについては「解説」で紹介されている。

「がんかどうかは、下部直腸であれば肛門から直腸内に指を挿入するとある程度わかりますが、上部直腸および結腸では便を調べないといけないし、右側か左側かによってもあらわれ方が違います。多くは左側のS状結腸や直腸にがんができやすく、便に混じった血液でわかることが少なくありません。ただし、そうした症状が出ないこともあり、便秘とか、少し便が細くなるというようなことで見つかることもあります。右側の盲腸、上行結腸、横行結腸の場合は便潜血反応で陽性が出にくく、むしろ、がんが大きくなって、おなかのしこりに触れてわかることのほうが多い。いずれにしろ、検診で便潜血反応が陽性だったら、嫌がらずに2次検査を受けることが大切です」

と語る高橋さんによると、2次検査の診断法としては、バリウムを肛門から注入して行う「注腸造影検査」と「大腸内視鏡検査」とがあるが、現在では前者は少なくなって、後者の内視鏡検査が多いという。

大腸がんの形態は肉眼で判定され、0~5型に分類されている。

0型(表在型)は早期がんに相当するもので、がんが粘膜下層にとどまっている状態。キノコ状に盛り上がった0~1型(隆起型)、盛り上がりの少ない0~2型(表面型)に分類される。

1~5型は進行がん。筋肉層からその外側まで深く浸潤しているもので、1型は大きく隆起した腫瘤型、2型は隆起の中に大きな潰瘍を形成した潰瘍限局型、3型は潰瘍を形成し、潰瘍の周囲のがんの広がりと正常粘膜との境界が肉眼では不明瞭なもので、潰瘍浸潤型、4型ははっきりとした潰瘍を作らず、がんが正常粘膜のなかに染み込むように広く広がったもので、びまん浸潤型と呼ばれる。5型はそのいずれにも属さない分類不能のもの。

このような肉眼分類は内視鏡検査で分類できるし、がんを内視鏡で切除できるかどうかの判断も可能という。

さらに、診断で大事なのはリンパ節転移や遠隔転移があるかないか。

「大腸がんで一番多い転移はリンパ節です。粘膜にとどまっている粘膜がんはリンパ節転移はほとんどゼロですが、深達度が深くなって粘膜下層まで浸潤すると10~15パーセントでリンパ節転移があり、筋肉まで浸潤すると20パーセント、それ以上に深くなってくると30パーセントを超えるような頻度で転移が起こります。次に遠隔転移で多いのは肝臓、肺、腹膜の遠隔転移です。このうちとくに肝臓と肺については、全身のCT検査によって遠隔転移があるかどうかがわかります」

早期なら内視鏡で治療

[大腸がんの病期分類]
【デュークス分類】

デュークスA がんが大腸壁内にとどまるもの
デュークスB がんが大腸壁を貫くがリンパ節転移がないもの
デュークスC リンパ節転移があるもの
デュークスD 肝、肺、腹膜など遠隔臓器へ転移があるもの

【ステージ分類】

ステージ0 がんが粘膜にとどまるもの
ステージ1 がんが大腸壁にとどまるもの
ステージ2 がんが大腸壁を越えて外まで浸潤しているもの
ステージ3 リンパ節転移があるもの
ステージ4 肝、肺、腹膜など遠隔臓器へ転移があるもの
デュークス分類は国際的に用いられているもので、ステージ分類は日本の分類であり、ステージ0は早期がんを意味する

このようにして、がんの進行度とリンパ節転移や遠隔転移の有無を調べ、ステージ分類が行われ、治療方針が決まる。

ステージは0期から4期まである。

「ステージ4というのは遠隔転移がある状態で、一番進んだ状態です。進行度によらず、リンパ節転移があると3期となり、転移の個数が3個以下と4個以上でステージ3A、Bに分けられます。さらに、血管の根元に近いところにリンパ節転移があるかないかでN1、N2、N3と分けられます。N1にとどまっていれば3Aで、N2以上は3Bです」

ガイドラインでは、ステージにもとづき通常行われている治療法が紹介されている。

早期がんに対しては内視鏡治療が一般的になってきた。最も浅いMがん(粘膜内がん)と、それより少し深く入っているSMがん(粘膜下層)に分けられるが、従来のガイドラインでは、Mがんは転移しないので内視鏡で完全に取り切れるとされていたが、SMがんはリンパ節転移の可能性があるというので内視鏡治療が適応かどうかの記載がなく、06年版の新しいガイドラインでようやく治療方針が示されたという。

[内視鏡的粘膜切除術(EMR)の手順]
図:内視鏡的粘膜切除術(EMR)の手順

平べったいがん(表面型)やへこんだ形のがん(陥凹型)はがんの下に生理食塩水を入れて盛り上がらせ、その根元にワイヤーを引っかけて、高周波電流を流して焼き切る

それによると、粘膜下層ヘの浸潤距離が1ミリ未満か1ミリ以上かが1つの目安となり、1ミリ未満ならリンパ節転移はきわめて稀であるというので、内視鏡切除が選択されるようになってきた。

この点は、内視鏡機器や内視鏡診断・治療学の進歩に負うところが大きい。最近では、異常箇所を瞬時に100倍ぐらいまでズームができる拡大内視鏡を用いて、粘膜下層のどの当たりまで浸潤しているかがわかるようになってきた。

また、以前は内視鏡では小さながんしか取れなかったが、今では2センチを超えるようなものでも、内視鏡的粘膜下剥離術(ESD)という方法で切除できる。

内視鏡でがんを切除する代表的な方法には、ポリペクトミーと内視鏡的粘膜切除術(EMR)とがある。ポリペクトミーは、ポリープ(がん)の茎にスネアという金属製の輪をかけて、高周波電流を流して焼き切る方法。EMRは、粘膜の下に生理食塩水などを注射して腫瘍を持ち上げ、そのあと、ポリペクトミーの手技によって腫瘍を焼き切る方法。茎を持たない平坦な腫瘍に対して有効な方法だ。

EMRを発展させたのがESD。従来のEMRと比較すると高度な手技を必要とするが、現在ではESDのほうが一般的となっている。

内視鏡治療で切除した病変を評価して、問題がなければ経過観察となる。しかし、治療前の診断よりも実際はがんが粘膜下層に深く入り込んでいる場合は、リンパ節郭清(リンパ節の切除)が必要な腸管の追加切除、つまり手術になる。

「がんが粘膜下層に深く入り込んでいても、ステージ1ならたいていリンパ節転移はないんです。SMがんでもリンパ節転移は10パーセント前後ですから、10人いても1人いるかいないか。ただし、治療というのは安全領域でやらなくてはいけません。これが3パーセント、2パーセント、1パーセントという頻度なら、経過観察でもいいとなるでしょうが、10パーセントの確率となると、やはり無視できません。さまざまな条件を考慮して、追加治療としてリンパ節郭清をともなう手術を行うかどうか、検討します」


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