再発してもあきらめる必要はない。次々に出現する新しい抗がん剤治療の手
再発大腸がんの最新化学療法
消化器内科部長の
大津敦さん
進行・再発した大腸がん患者に対する化学療法は、ここ5年ほどの間に劇的な変化を遂げつつある。数多くの新しい薬剤が登場して、大幅な生存期間の延長が証明されている。現状では、残念ながら大腸がんの30パーセントほどは手術後に再発する。しかし、運悪く再発してもあきらめることはない。日本でも世界標準の化学療法が受けられる日が近づきつつある。進行・再発大腸がんに対する化学療法の現状と今後について、国立がん研究センター東病院消化器内科部長の大津敦さんからお話を聞いた。
第1選択は、FOLFOXかFOLFIRI
大腸がんの再発には、がん細胞が血管に侵入して肝臓や肺、脳、骨などに転移する血行性転移、がんがリンパ節に転移するリンパ節転移、がんがもともとあった部位の近くに起こる局所再発などがある。最も多いのが血行性転移の肝転移で、次いで肺転移、リンパ節転移と続くようだ。肝転移や肺転移では、手術で取り除ける場合には切除する。
「当センターでは、再発大腸がん全体の中で肝転移だけの占める割合は20パーセントほどです。そのうち約70パーセントは手術で切除しています。手術の代わりにラジオ波療法を行うこともあります。肺転移に対しても手術を優先します。ただし、再発大腸がんでは、肝転移と肺転移が併発するなど、転移が複数の臓器に広がっていることも多いです。こうした場合でも手術が可能なときには切除しますが、手術が難しいときには化学療法を行います」と大津敦さんは言う。
現在、再発大腸がんの化学療法の第1、第2選択はFOLFOX(フォルフォックス)とFOLFIRI(フォルフィリ)である。
持続静注用のインフュージョンポート
薬剤を持続的に注入するための処置をしているシーン
5-FUを持続静注するための携帯型の注入ポンプ
FOLFOXとは、5-FU(一般名フルオロウラシル)とアイソボリン(一般名レボホリナート)、エルプラット(一般名オキサリプラチン)の3剤を併用する治療法だ。副作用として、冷たいものに触れたときなどにピリッとくるしびれがある。ひどくなるとボタンをはずせなくなったり、箸が持てなくなったりすることもある。
FOLFIRIとは、5-FUとアイソボリン、カンプトまたはトポテシン(一般名イリノテカン)の3剤を併用する治療法だ。副作用として、吐気や脱毛などがある。
「FOLFOXとFOLFIRIの奏効率はいずれも50パーセントほどで同等です。2つの化学療法の副作用などについて、患者さんと話し合って、第1選択の化学療法を決めます。FOLFOXから始めてその治療効果がなくなったらFOLFIRIにチェンジするときと、その逆に、最初にFOLFIRIをやってからFOLFOXに代えることがあります。世界的にはFOLFOXを最初に行うことが多いです」と大津さん。
同センターでは、基本的には化学療法はすべて外来で行っている。化学療法を行う前に、患者は外来でインフュージョンポートという小さな器具を鎖骨の下の皮下に埋め込む処置を受ける。鎖骨下を2~3センチ切開して行う。15分ほどの処置だ。埋め込まれた器具は、点滴の速度や量を調整して静脈に薬剤を注入するものである。外来での化学療法は、ポートに注射針を刺して行われる。自宅では携帯用の注入ポンプからポートに薬剤を少量ずつ持続的に注入できるようにする。
「米国では化学療法を受けるすべての患者さんにインフュージョンポートを埋め込みます。この方法だと注入時に薬剤が漏れることがないため、皮膚炎などが起こりません」と大津さん。
このようなインフュージョンポートを鎖骨の下の皮下に埋め込む。外来で15分ほどでできる
急速静注と持続点滴の併用で効果を上げる
FOLFOXにはスケジュールや投与量の微妙な違いによってバージョン1から7まである。7つのうちで代表的なのがバージョン4と6である。FOLFOX 4は、2日間、外来で治療を受ける。
第1日目は、エルプラット 85ミリグラム(体表面積1平方メートル当たり)とアイソボリン 100ミリグラム(同)を同時に2時間かけて点滴する。その後、5-FU 400ミリグラム(同)の急速静脈注射を行う。5~10分の短時間で一気に静注する治療だ。点滴治療後、5-FU 1200ミリグラム(1日量は600ミリグラム)(同)を入れた携帯ポンプとポートを接続して、22時間の持続点滴治療を続ける。少量ずつ時間をかけて行う治療である。
2日目は、アイソボリンの点滴だけ2時間行う。その後、前日と同じように5-FUの急速静注をしてから22時間の持続点滴治療を続ける。
これを2週間ごとに繰り返す。これがFOLFOX 4である。
「5-FUの急速静注と持続点滴は作用するメカニズムが異なると言われています。両方を組み合わせる治療法は欧州で開発されました。急速と持続の併用によって、治療効果が上がると考えられています」と大津さん。
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