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手術後の癒着防止材や腸閉塞を防ぐ薬が登場、患者さん自身の食生活の改善も肝心
消化器がん手術後の腸閉塞は、この対策で減らせる

監修:船橋公彦 東邦大学医療センター大森病院消化器センター外科准教授
取材・文:町口 充
発行:2010年11月
更新:2019年7月

  

船橋公彦さん 東邦大学医療センター
大森病院消化器センター
外科准教授の
船橋公彦さん

胃がんや大腸がんの外科療法では、開腹手術の後遺症として腸閉塞(イレウス)に悩まされる人が少なくありません。
中には再手術を余儀なくされる人もいて、術後の腸閉塞対策は、患者さんのQOL(生活の質)向上に欠かせないものとなっています。
最近では腸閉塞の予防に役立つ癒着防止材や薬も普及しています。

術後数年してから起こることも

「腸閉塞(イレウス)とは、腸管の通過障害の状態を示し、消化管の内容物が滞って、腹部膨満、腹痛、嘔吐などの症状が出てくる状態をいいます。開腹手術後には、腸管が癒着して腸閉塞になりやすい状態となります。中には、腸捻転(腸のねじれ)などで腸管に血流障害が起こって腸管が壊死し、緊急手術が必要になることもあります」

こう説明するのは、腸閉塞についてくわしい東邦大学医療センター大森病院消化器センター外科准教授の船橋公彦さん。

術後の腸管の癒着、腫瘍の再発や転移といった器質的変化によって起こる腸閉塞を「機械的腸閉塞」、器質的な原因はないが腸の動き(機能)が悪くなって起こる腸閉塞を「機能的(麻痺性)腸閉塞」と呼びます(図1参照)。術後の腸閉塞で最も多い原因は腸管の癒着による機械的腸閉塞。しかし、機能的腸閉塞も皆無ではありません。たとえば、脳や脊椎など腸の動きをつかさどる神経が手術や外傷などによってダメージを受けると、腸の蠕動運動が低下したり、また、麻薬系鎮痛剤などの薬剤が原因となったりして麻痺性の腸閉塞になるケースがあります。

術後の腸閉塞は、必ずしも手術のすぐ後に起こるわけではなく、数年経過してから起こることもあります。このため、腸閉塞対策では、患者さん自身による日ごろの注意や予防も大切になってきます。

[図1 腸閉塞の種類]
図1 腸閉塞の種類

手術の合併症の1つである腸閉塞

胃がんや大腸がんなど消化器がんの術後には、病気や手術の種類、手術部位や広さ、患者さんの体質によっても異なりますが、手術を受けることで腹腔内には癒着が生じます。なぜ手術をすると癒着が起こりやすいのでしょうか?

「癒着の主な原因は、手術による腹腔内への侵襲()です。開腹して臓器を取り除くための手術操作そのものが炎症の引き金となり、侵襲の加わった部位には炎症が引き起こされます。わかりやすい例をあげれば、炎症を引き起こす要因の1つに異物があります。たとえば、腸管を切除した後に腸と腸を吻合するときに糸を使います。開腹したおなかの創を閉じるときも糸を使用しますが、それらは体にとって異物。異物に対して過剰に炎症が起こり、瘢痕(傷あと)を生じ、癒着となるのです。このほかには、漏れた消化液や腹腔内に溜まった血液に菌が感染し、膿瘍を形成すると、そこにも腸管の癒着が起こります」

また、手術のとき、腹腔内に入れたドレーン(管)が腸閉塞の直接的な原因になることもあります。これらさまざまな理由から腸内容の通過を妨げるような癒着が起こると、それが原因となって腸閉塞が起こります。

一方、患者側にも、「術後の腸閉塞を起こしやすい人」がいます。その代表的なタイプが何度も開腹手術を受けている人。

「手術のたびに腹腔内の癒着を剥がす必要があり、手術操作が腹腔内に何度も侵襲として加われば当然、癒着の範囲や程度は増し、腸閉塞のリスクは高くなっていきます」

血小板数の低下や血液の凝固系に異常がある人、脳梗塞や心筋梗塞などの治療で抗血液凝固剤を服用している人は術後、腹腔内に出血しやすく、腹腔内に溜まった血液に感染が起きると癒着の原因にもなることがあります。

侵襲=体内の働きを乱すような外部からの刺激

[図2 腸が癒着するしくみ]
図2 腸が癒着するしくみ

癒着を予防できる特殊なフィルムシート

[図3 セプラフィルムの使い方
(東邦大学医療センター大森病院の例)]

図3 セプラフィルムの使い方(東邦大学医療センター大森病院の例)

「腸閉塞の予防策として、われわれ医療サイドでは手術の際、できるだけ腸管にダメージを与えない手術操作を心がけているほか、腹腔内に異物が残らないように注意を払っています。腸と腸の吻合においては、以前は絹糸が使われていた時代もありましたが、現在では体に吸収されてなくなってしまう吸収糸が使われるようになっています。このほか、腹腔内に感染が起こらないように手術操作のたびに手術器具の交換や、腹腔内の十分な洗浄と止血の徹底などを行っています」

また、縫合不全を起こす危険が低い手術の場合は、不必要なドレーンは腹腔内に入れずに手術を行っている施設もあります。

医療材料として、腹腔内に入れておくと腸の癒着を防止できる特殊なフィルムシートも登場しています。これは米国で開発された「セプラフィルム」で、日本では1998年から使われています。ヒアルロン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースを成分とした生体吸収性の物質なので、30日ほどで分解され、尿として排泄されるので体内には残りません。セプラフィルムを使うことで、多くの症例で腸閉塞を防止することが可能となりました。

「使い方はいろいろありますが、私たちは、閉腹の際に整腸(腸を正しい位置に並べてねじれないようにすること)してから、大網(胃や腸などを取り囲むように存在している膜状の臓器)をしっかり腸の上に覆い、最後に大網と腹壁の間にセプラフィルムを入れています。このほか、剥離によってできた腹膜の欠損した部位にも使用することがあります」

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