大腸がんの基礎知識:大腸がんはこう進む 大腸がんをしっかり知れば怖くない
大腸がんは女性のがん死亡原因の第1位、男性の3位。そして、大腸がんに罹った人はこの30年間で5倍にも増えている。大腸がんはどこに発生しやすいのか、どのような治療法がとられるのか――。
Q1 大腸ってどんな臓器?どこにがんができやすい?
大腸は消化管の最終の部分で、内臓の一番外枠をつくるように位置しています。大きく結腸と直腸に分けられます。がんは約60%が結腸に発生し、約40%が直腸に発生します。結腸に発生する中でも、その半分がS字結腸にできます。
これは、肛門から近いところにがんができやすいということなので、検査で見つけやすいということにもつながります。
Q2 大腸がんは増えているのですか?
大腸がんの罹患数は、最近の30年で5倍になっています。食生活やライフスタイルの欧米化が増加の原因とする見方もありますが、一番の要因は高齢者が増えたことです。
患者数は40歳あたりから増え始めます。男性は女性の1.5倍ほどです。65歳以上の男性だと350人に1人が大腸がんになる計算です。しかし、数は多いけど、「治りやすいがん」だということも重要です。
Q3 どのような症状が出ますか?
早期の大腸がんではほとんど症状は出ません。症状が出てから医師にかかる患者さんは全体の半分くらいです。症状がないうちに大腸がん検診や健康診断などでの便潜血を調べる検査で精密検査が必要となって病院に来る方が増えています。
進行すると症状が出ます。便に血が混じる、便通異常、便秘、下痢などが現れます。さらに進むと、がんが腸の内側を占拠してしまうので腸閉塞となり腹痛を起こします。
しかし、便秘や下痢などの場合、どの程度が"異常"と判断するかは難しいことでしょう。ポイントは「これまでと違う、変わった」という変化です。変化を感じたら検査を受けるべきです。
Q4 検査はどのように行われますか?
以前は肛門からバリウムを入れてX線で診る注腸造影検査が主流でしたが、最近は内視鏡検査が多く行われています。内視鏡を肛門から挿入して、直腸から盲腸までの大腸内すべてを内側から観察します。ディスプレーで見ながら行われます。
内視鏡検査では、病変部から細胞を採取することもできます。4分の1の人は痛みを感じませんが、痛みが強い人には鎮痛剤を注射します。
Q5 どのように進行しますか?
がんは腸の粘膜にできて、腸の壁を破壊しながら大きくなっていき、最後は壁を破ってしまいます(浸潤)。
がん細胞が深くまで入り込み、リンパ管に侵入すると、リンパ液の流れに沿って近くのリンパ節から遠くのリンパ節へと広がっていきます(リンパ行性転移)。
また、がん細胞が血管に侵入すると離れた臓器に流れ着いてそこで増殖します(血行性転移)。大腸がんの25%には肝転移が起こり、そのあとは肺に転移します。肺転移は7~8%とされています。
しかし、大腸がんは治りやすいがんです。ステージⅢでリンパ節に転移があっても手術で75%以上の人は治癒します。
Q6 内視鏡治療はどのような場合に行われますか?
CTやMRIなどでがんの進行度を調べて、ステージ0かⅠまでの浸潤が軽い場合に行います。基本的に日帰り外来で行われます。
治療ガイドラインでは大きさが2cm未満とされていますが、専門医の判断で、それより大きい大腸がんでも行うことがあります。
腫瘍に金属製の輪をかけて電流で茎の部分を焼き切ります。この分野では日本の技術はとても進んでいて、平らな腫瘍には粘膜下に生理食塩水を注入することで隆起させて電気的に切除するEMRという特殊な方法は日本で開発されたものです。
合併症で1週間くらい経ってから出血する場合もありますが、治療を受けた診療所・病院にかかれば大丈夫です。
Q7 手術はどのように行われますか?
リンパ節転移の可能性のある早期がんと進行がんでは手術が行われます。手術ではがんのある腸の切除だけではなくてリンパ節も取ります(リンパ節郭清)。ひとつひとつのリンパ節を見つけてがんがあるかどうか調べて取るのではなくて、領域として切除します。リンパ節の切除範囲は進行度に応じて決められます。このように患者さんの状態によって治療法を変えることを個別化治療と言います。通常、10日程度の入院が必要です。
Q8 腹腔鏡手術とは何ですか?
行うことは開腹手術と同じです。おなかに器具を入れる穴をいくつかあけ、炭酸ガスでおなかを膨らませて内視鏡でおなかの中を見ながら手術をします。特殊な技術を要します。1991年から始まり、現在は大腸がん手術全体の30%ほどが腹腔鏡手術で行われています。入院は1週間程度で、費用は開腹手術よりも高くなります。
患者さんの体には負担が少ない一方で、炭酸ガスを体内で対流させるために、がん細胞がこぼれ落ちた場合におなかの中に飛び散ってしまうという危険があると指摘され、その研究も進められています。
Q9 抗がん薬治療は?
肝臓や肺に転移しているステージⅣで、がんが取りきれない場合は抗がん薬治療になります。手術したあとに転移再発が見つかった場合は、6~7割では手術で摘出することができずに抗がん薬治療を行うことになります。
抗がん薬治療の目的は、がん細胞が大きくなる期間を延ばす、大きながんを小さくするということです。最近は抗がん薬での治療成績がとてもよくなりました。以前は再発した場合の生存期間の中央値は1年ほどでしたが、分子標的薬の登場もあり今では3年近くまで伸びています。しかし、抗がん薬でがんが治るわけではありません。非常に高価な治療法でもあります。
気落ちしないでしっかり治療を
日本の内視鏡診断や手術の技術は世界のトップです。治癒されたとされる5年生存率は、世界の中で日本が一番高いのです。あわてることなく、主治医と相談してください。治療選択肢はたくさんあるので、どういう治療法が一番いいかを尋ねて、安心して治療を受けてください。
一般的の方々には、便潜血検査を受けることを強くお勧めします。この段階で見つかれば、早い段階なので、手術をすれば治ります。
大腸がんは、がんの中では一番治りやすいがんの1つです。診断されても気落ちしないでしっかりと治療を受けていただきたいと思います。
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