術後補助化学療法:病期Ⅱ・Ⅲで重要な術後の補助化学療法。効果や副作用を知って6カ月の治療完遂へ 大腸がん手術後の再発を予防するベストな治療法を選ぼう
大腸がんは手術でがんを取っても、再発する場合も多い。Ⅱ期・Ⅲ期の患者さんでは、術後に化学療法を行って体内に残った微小ながんをたたくことが必要だ。この術後補助化学療法には、いくつかの方法がある。効果と副作用、利便性などを踏まえ、患者さんにとってベストな治療法をきちんと続けるためのポイントを紹介する。
手術後の再発を防ぐ術後補助化学療法
大腸がんが治癒するためには、手術でしっかり取り切ることが必要だ。しかし、完璧な手術が行われたとしても、大腸がんが100%治るわけではない。手術は技術的に進歩したが、それでもある割合で再発が起きてしまうからだ。
では、どのくらいの患者さんに再発が起きるのか。大阪赤十字病院の金澤旭宣さんは、次のように説明してくれた。
「大腸がんの手術を受けた人全体で見ると、だいたい2割の患者さんに再発が起こります。ただ、どのくらい再発が起きるかは、がんの進行度によって差があり、基本的には進行したがんほど、手術後の再発が起こりやすくなります」
大腸がんの5年生存率は、病期Ⅲaで71.4%、それより進んだ病期Ⅲbでは56.0%と報告*されている。標準治療の手術が行われても、再発が起きてしまうため、多くの患者さんが5年以内に亡くなるという現実がある。
こうした再発を少しでも減らすために行われるのが、術後補助化学療法だ。
「目で見えるがんは、手術で取り切ることができます。しかし、目に見えない小さながんが全身に散らばっていると、手術ではどうにもできません。再発の原因となるこの小さながんをたたくのが、術後補助化学療法なのです」(図1)
*大腸癌治療ガイドライン医師用2010年度版
手術から8週間以内に抗がん薬治療を開始
術後補助化学療法は、手術後8週までに開始するのが望ましいとされています。治療期間は6カ月間です。
「再発が起きる時期は、術後1年くらいが最も多く、再発するケースの83%は、術後3年までに起きています(図2)。こうしたことからも、術後補助化学療法は、手術直後からしっかり行う必要があります」
推奨されている治療法は何種類かある。最初に効果が認められたのは、5-FU*という注射薬を用いた治療だった。臨床試験で、手術だけの群と、手術後に5-FUをベースとした化学療法を行う群を比べたところ、再発する患者さんを10~15%程度減らせることがわかった。注射薬である5-FUとロイコボリン*を併用した治療法は、現在でも標準治療の1つとされている。
「かつては5-FU+ロイコボリン療法が術後補助化学療法の中心でしたが、その後、これと同等の効果を示す飲み薬による治療法、ゼローダ*療法やUFT*+ロイコボリン療法が標準治療に加わりました。現在では、さらに新しくFOLFOX療法やXELOX療法というエルプラット*を加える多剤併用療法も加わり、5つの治療法が標準治療となっています(図3)。
エルプラットを加える治療により、5年後に再発する患者さんをさらに約6%程度減らせるという報告もあります。
欧米のデータではありますが、臨床試験によって、5-FU+ロイコボリン療法を上回る再発予防効果が明らかになっているのです」(図4)
*5-FU=一般名フルオロウラシル *ロイコボリン=一般名レボホリナートカルシウム *ゼローダ=一般名カペシタビン *UFT=一般名テガフール・ウラシル *エルプラット=一般名オキサリプラチン *無病生存率=再発や合併症などによって病気が進行しなかった人の割合
効果は同等2つの多剤併用療法
FOLFOX療法とXELOX療法は、よく似た多剤併用療法だ。
「FOLFOX療法もXELOX療法も、従来の標準治療だった5-FU+ロイコボリン療法と比較した臨床試験があります。それによって、どちらも5-FU+ロイコボリン療法より優れた再発予防効果が証明されています」
残念なことに、FOLFOX療法とXELOX療法を直接比較した臨床試験は行われていないが、効果はほぼ同等と考えられている。つまり、大腸がん術後補助化学療法で、最も再発予防効果が高いのは、FOLFOX療法とXELOX療法ということになる。
同じカテゴリーの最新記事
- 「積極的ポリープ摘除術」で大腸全摘の回避を目指す! 代表的な遺伝性大腸がん——リンチ症候群と家族性大腸腺腫症
- 切除可能な直腸がん試験結果に世界が注目も 日本の標準治療は「手術」で変わりなし
- ビタミンDの驚くべき効果がわかってきた 消化管がん手術後の再発・死亡リスクを大幅に減少
- 世界最大規模の画期的研究の一部解析結果が発表 大腸がんの術後補助療法の必要性をctDNAで判断する
- 初めての前向き試験で抗EGFR抗体薬の信頼性が確実に! 進化を続ける切除不能・進行再発大腸がんの薬物療法
- 遺伝子変異と左右どちら側にがんがあるかが、薬剤選択の鍵を握る! 大腸がん薬物療法最前線
- 化学放射線と全身化学療法を術前に行うTNT療法が話題 進行下部直腸がん 手術しないで完治の可能性も!
- 肛門温存の期待高まる最新手術 下部直腸がんTaTME(経肛門的直腸間膜切除術)とは
- 大腸のAI内視鏡画像診断が進化中! 大腸がん診断がより確実に
- 患者さんによりやさしいロボット手術も登場 新しくなった大腸がんの手術と薬物療法