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肺がん個別化治療の基礎知識―― 私はどのタイプ? 確立する肺がんの個別化治療

監修●久保田 馨 日本医科大学附属病院化学療法科教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2013年11月
更新:2019年9月

  

「新たな遺伝子解明と新薬の研究が進んでいます」と話す
久保田 馨さん

さまざまながん種の中で、肺がん治療は乳がん治療に続き、個別化治療が進んでいる。また、新薬の登場も目覚ましい。自分の肺がんのタイプとそれに対する治療法を知り、前向きに治療に臨もう。

肺がんの傾向

日本の肺がん罹患傾向では若い世代で減少してきているものの、団塊世代が、肺がん好発年齢である60歳代後半になってきており、今後も患者数の増加が予測されます。

若い世代での肺がん罹患数減少の背景には喫煙者数の減少があります。禁煙化が進むアメリカでは、肺がんの罹患数は1990年代からかなり減ってきています。

喫煙がもたらす肺がんへの影響は大きく、現在問題視されているのが喫煙者の呼気煙です。

フィルターなしのたばこが流通していた頃は、肺の中心部にがんができることが多かったのですが、フィルター付きのたばこが流通するようになってからは、フィルターによって有害物質の粒子が細分化し、肺の奥のほうにがんができるようになってきています。

問題となるのが喫煙者によって吐き出される煙(呼気煙)で、煙の中に細かくなった有害物質の粒子が存在し、その煙を吸った非喫煙者に腺がんが増えてきているのが現状です。

肺がんの個別化治療って?

肺がんは、組織型の違いと遺伝子変異の有無によっていくつかのタイプに分類されます。このタイプに合わせて行う治療を個別化治療といいます。

●組織型の違い

まず小細胞がんか非小細胞がんの2つに分けられ、非小細胞肺がんは扁平上皮がんか非扁平上皮がんに分けられる。そして非扁平上皮がんは大細胞がん、腺がんに分けられる。

●遺伝子型の違い

非扁平上皮がんはさらに、EGFR遺伝子変異の有無、ALK融合遺伝子変異の有無という遺伝子型の違いによってタイプ分けされる。

肺がんの4つの組織型

肺がんの遺伝子型

このほか現在、MET遺伝子、RET遺伝子、ROS1遺伝子など、新たながん原因遺伝子の研究も進んでいます。

肺がんのタイプを調べる検査とは?

肺がんのタイプはがんの組織から、組織型、遺伝子変異を調べます。組織は、手術時の切除部分、あるいは胸水などから採取します。胸腔鏡や気管支鏡で採取する場合もあります。遺伝子検査は保険診療で行うことができます。

●組織型の検査……組織標本を採取し、薄く切って染色し、その形や細胞の並び方を見て診断する

●遺伝子変異の検査……組織にEGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子に反応する試薬を使って検査する

肺がんの個別化治療で使われる治療薬

個別化治療が進むことによって肺がんの生存期間も延びてきました。とくにEGFR遺伝子変異があり、分子標的薬を使った患者さんの平均的な生存期間は、以前は1年前後だったのが20カ月以上にも延びるケースが多くなりました。

■抗がん薬

薬剤名 適応タイプ
アリムタ 非扁平上皮がん
(腺がん、大細胞がん)
 ■分子標的薬

薬剤名 適応タイプ
イレッサ 腺がん、EGFR遺伝子変異あり
タルセバ
ザーコリ 腺がん、ALK融合遺伝子変異あり
★アファチニブ
(近く承認予定)
EGFR遺伝子変異あり

アリムタ=一般名ペメトレキセド イレッサ=一般名ゲフィチニブ タルセバ=一般名エルロチニブ ザーコリ=一般名クリゾチニブ アファチニブは一般名 

抗がん薬(殺細胞性抗がん薬)と分子標的薬の違い

がんは分裂・増殖が盛んで速く、正常細胞の分裂・増殖のスピードとは全然違います。抗がん薬は、そういった異常に分裂・増殖する細胞を殺す殺細胞性の薬剤が抗がん薬です。分裂・増殖が遅い正常細胞には抗がん薬はそんなに影響しませんが、血液や髪の毛、粘膜など、正常であっても分裂・増殖が速い組織への影響が大きく出ます。これが副作用の症状です。

一方、1962年にスタンリー・コーエン氏によってEGF(上皮成長因子)が同定されたことから、徐々にがん細胞増殖のメカニズムがわかり始めました。そして、がん細胞の増殖メカニズムのひとつを標的にして開発された薬剤が分子標的薬です。

2002年には分子標的薬のイレッサが承認され、2004年にはEGFR遺伝子変異とイレッサ、タルセバとの治療効果の関係がわかってきました。また、2007年にALK融合遺伝子が発見され、2012年にALK融合遺伝子を標的としたザーコリが承認されました。

肺がんタイプと治療薬

肺がんは、組織型の違いに加え、遺伝子の変異によって分けられ、そのタイプに合った治療薬が選択されます。

●抗がん薬の併用療法も研究が進んでいる

シスプラチン+TS-1は、従来のシスプラチン+タキソテールとの比較試験が行われ、生存期間が同等で、副作用がより軽く、患者さんのQOL(生活の質)が高かったことから、Ⅳ期非小細胞肺がんに対する標準治療の1つとなっています。

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