肺がん手術のセルフケア 術後のつらさを軽減する方法がある! 手術が決まったらすぐ始めよう 術前の呼吸訓練で合併症を防ぎ、より早い回復を
山本 綾さん
手術の際は、「患者には何もすることがない」と考える人が多いかもしれません。ところが実際は、患者さん自身が術前から行うセルフケアがとても重要です。特に肺がんの手術を受ける場合には、呼吸訓練や禁煙など、術後合併症の予防をはじめ、術後のつらさを軽減したり、それまでの生活により早く戻れるための対処法がたくさんあります。術後経過と併せて知って、よりよい術後を目指しましょう。
なるべく早い段階で禁煙を
「手術を受ける患者さんに喫煙習慣がある場合は、手術前のなるべく早い段階で『禁煙』をしてもらいます。また、手術を受けることが決まったら、患者さんには手術前から『呼吸訓練』を行ってもらっています。その上で手術に臨めば、手術による合併症を予防し、機能回復もスムーズにいくからです」(表1)
このように語るのは、埼玉県立がんセンター胸部外科で肺がん患者さんのケアにあたる看護師の山本綾さんだ。
そもそもこれは、肺がん手術に限ったことではない。全身麻酔下で人工呼吸器をつけて、開胸・開腹手術をすると、術後に肺炎や無気肺、肺水腫など、呼吸器合併症を起こすことがある。
とくに肺がんの手術では肺の一部を切除するので、肺機能の低下は免れず、ほかの手術以上に注意が必要となる。
呼吸器合併症を防ぐために大切な「禁煙」について、喫煙がよくない理由をさらに説明してもらった。
「喫煙していると、たばこの成分による刺激で肺の組織がダメージを受け、酸素をうまく取り込めなくなります。手術で肺の機能が低下すれば、吸っている方は吸わない方以上に術後の呼吸器合併症が現れやすいのです」
また、たばこの有害成分の作用により傷の治りが遅くなり、術後の痛みが取れにくかったり、安静時の横隔膜の動きが鈍り、肺機能の低下に追い打ちをかける結果となることが言われている。
術前の禁煙は短くても4週間前、可能ならば8週間前に始めることが理想的である。同センターでは、手術が決まった時点で禁煙を開始してもらう。センター内に禁煙外来があり、必要な人や希望した人には受診して手術に備えてもらう。
麻酔で呼吸が浅くなると
もう1つ大切なのが「呼吸訓練」。これがなぜ、術後の呼吸器合併症を防ぐのか。
「例えば、手術後は麻酔や手術した部位の痛みによって呼吸は浅くなり、とくに下部の肺が十分に広がらないことがあります。そうすると肺の中に空気が少なくなったり、空気が入っていない領域ができるなど、無気肺が起こりやすくなります。そのような状態を避けるために、術後はなるべく早い時期から腹式呼吸などによる深い呼吸をして、肺胞のすみずみまで空気を入れたいのです」
では、なぜ手術の前から呼吸訓練をするのか。
「まず、術前から行うことで、胸郭を開いたり横隔膜を広げるための筋力を活性化させることができます。さらに言えば、術後にいきなり『腹式呼吸を』と勧められても、なかなかできるものではありません。そこで、術前から慣れておいてもらうという意図もあります」
呼吸訓練器を使っての練習
では、呼吸訓練とはどのようなものか。同センターではリハビリテーション科が、手術を受ける患者さん向けに「術前呼吸教室」を開いている。
ここでは、外来通院時に呼吸訓練による呼吸機能の向上、手術後の楽な呼吸や痰の出し方などを、リハビリスタッフとともに練習する。
呼吸訓練には、呼吸訓練器を使うものと腹式呼吸などの呼吸法とがある。
呼吸訓練器では、たくさん息を吸い込んだり、吐いたりする練習を行う。
同センターでは、ボルダインという機器を使っていて、自費での購入となる(図2)。
「ボルダインは息を吸う力をつける練習に使いますが、吸う力をつけると、痰を出す筋力の強化にもつながります」
効率のよい呼吸を習得するのに有効なのが、腹式呼吸と深呼吸だ(図3)。
「腹式呼吸とは、横隔膜呼吸とも言いますが、横隔膜を使って肺を大きく広げる呼吸のことです。特に手術後、呼吸が浅くなりやすいので、腹式呼吸をすることにより、下部の肺に空気を送ることができます」
深呼吸も肺を広げる役割をする。肺を広げると、肺の末端にある肺胞にまで空気が届く。
肺を広げることで、溜まった痰を排出しやすくなるという。
山本さんによれば、全身麻酔中は、肺に酸素を送る人工呼吸器の管を口から入れるため、気管支を刺激し、痰が溜まりやすくなることがあるという。
痰は細い気管支を詰まらせて、肺を縮んだ状態にしてしまうことがあるだけに、要注意。痰が溜まれば、細菌が繁殖し、肺炎につながる危険もある。
術前には呼吸訓練の一環として、痰の排出をしやすくなる咳の仕方なども練習するとよい(図4)。
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