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3人の肺がん専門医から学ぶ、患者の心得
肺がんを乗り越え、長期生存を実現するためのヒント8

取材・文:常蔭純一
発行:2010年6月
更新:2013年6月

  
吉田純司さん 国立がん研究センター
東病院呼吸器外科医長の
吉田純司さん
坪井正博さん 神奈川県立がんセンター
呼吸器外科医長の
坪井正博さん
倉田宝保さん 近畿大学医学部内科学教室
腫瘍内科部門准教授の
倉田宝保さん

肺がんになっても、長生きしている人はいる。なぜ長生きできているのだろうか。実際に診療現場で多くの肺がん患者たちと向き合い、治療にあたっている肺がん専門医3人から、長期生存へのヒントを探る。

向上する治療後の長期生存率

肺がんというと、一般的には、「予後の悪いがん」というイメージがある。実際、他のがんに比べると、肺がんの生存率は厳しいといわざるを得ないのが実情だ。

「少し前までは、リンパ節転移が認められる3b期以上の進行がんの患者さんが3年生存する率は、わずか50人に1人か2人といったところでした」

と、語るのは手術ができない進行・再発肺がん患者の治療を中心に行っている近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門准教授の倉田宝保さんである。

もっとも最近になって、そうした状況に明るい兆しも現われ始めている。

「肺がんの罹患者数も死亡数も増加を続けています。しかし、検診の普及や新しい治療法の普及で、肺がんになっても長く生き続ける人が増えているのです」(倉田さん)

肺がんに限らないが、がんの予後を決定する最大の条件となるのが発見時のがんの進行具合だ。肺がんに関していえば、病期は大きく1~4期に分類される。そのなかで他の部位への浸潤、転移がない1期の早期がんは、手術で完全にがんを取り除き治癒を得ることが期待できる。肺がんで長期生存者が増えている1つの理由は、検診の普及によってそうした治癒が見込める早期がんの発見が増加していることだ。

「以前は早期の肺がんでも5年が長期生存の目安になっていたのですが、最近では10年という新たな数値も出てきました」

と、話すのは国立がん研究センター東病院呼吸器外科医長の吉田純司さんである。

個別化治療で予後も格段に向上

そしてもう1つは、肺がん治療の変革だ。少し前まで肺がんは進行の早い小細胞がんとそれ以外の非小細胞がんに区分され、それぞれに応じた治療が行われていた。しかし最近になって患者個々のがんの組織型やがん細胞の遺伝子の状態に応じて治療を選択する個別化治療が行われ始めている。

「02年に分子標的薬である上皮成長因子受容体阻害剤(イレッサ)が登場してから大きく変わりました。最近ではイレッサと同様の作用機序を有する上皮成長因子受容体阻害剤であるタルセバの出現、非扁平上皮がんの患者さんに用いる血管新生阻害剤(アバスチン)や抗がん剤であるアリムタなど、患者さん個々に応じた薬剤を選択する個別化治療も行われています。そうした新しい治療法により、肺がん患者さんの予後も格段に向上しています」(倉田さん)

なかでも肺がん患者の予後に劇的な変化をもたらしているのが、先の上皮成長因子受容体阻害剤だ。

「一般に肺がんでは、1~3a期までは、5年生存すると長期生存と考えられています。病期ごとの長期生存率は1期が80パーセント、2期が50パーセント、3a期が15パーセント前後です。ただし、がんが転移している3b期以降になると、かつては3年生存者で50人に1人か2人という程度でした。それが分子標的薬の上皮成長因子受容体阻害剤の登場で50人中、5~10人が3年以上、生存できるようになっているのです」(倉田さん)

このように予後の厳しい肺がんでも、長期生存を果たす患者さんが増え続けている。

生存を支える個人の生命力

とはいえ、大きな視点で見ると、肺がん患者の長期生存が他のがんに比べて困難である事実は変わらない。では、そんななかでどのような人たちが長く健やかに日々を送っているのだろうか。

まず1つ、病気が早期である場合には、適切な治療が確実に行われるということが重要だ。

「手術が適用される場合は、取り残しがなく、確実にがんを取り切ること。それが長期生存の第1条件です」

と、吉田さんは語る。

では、再発・進行がんでも長期生存を果たしている人たちにはどんな共通項があるのだろうか。

「たとえば抗がん剤治療でいえば、ある薬剤が効く人は、別の薬を使っても効果があるという印象があります。また、そういった人に限ってやっかいな副作用も克服できる。では、他の患者さんとどこが違うのかといえば、実際にはよくわかりません。個人の生命力の違いとしか言いようがないですね」

と、指摘するのは、神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長の坪井正博さんである。

「生命力」というと抽象的な概念であるが、この言葉をより現実的な側面から捉え直すと、「薬剤との相性」、「体力」、「全身状態の良好さ」、そして「意志力」などの言葉が浮かび上がると坪井さんはいう。

「抗がん剤が効くかどうかは、その人自身あるいはその人のがんの特性と薬剤との相性が最も重要なカギになるでしょう。しかし、一方で体力に恵まれている人は、多くの抗がん剤を試すことができるし、やっかいな副作用も容易に乗り越えることができる。つまり適切な治療を受けるためには、全身状態の良好さという条件も求められるのです」

もう1つ、「意志力」については、自らが手がけた患者の例をあげてこう語る。

「私が担当した患者さんの中には、肺がんが背骨にまで広がっていながら抗がん剤治療と放射線治療、さらには人工骨に入れ替える手術まで受けられた方や、太い血管にまでがんが拡がっていて完全には取りきれなかった方がいます。どちらの方も手術の時点で余命はごく短いと考えるのが普通です。しかし、現実にこれらの患者さんは見事に5年以上の長期生存を果たしています。共通しているのは、常に生きることに希望を持ち続けていたことです」

坪井さんはそうした「心の強さ」を「気合い」という言葉で表現する。気合いの入れ方というのも、長く元気に生活する1つの条件になるのかもしれない。

治療の前に価値観を確立する

このように、肺がんをうまく乗り越えていくには、心身両面にわたって条件がありそうだ。しかし、そのことについて考える前に、1つ理解しておかなければならないことは病気の乗り越え方は患者個々によって違っていることだ。

吉田さんは80歳以上の高齢のがん患者に対する初回の診療では、必ず「あと何年生きたいですか?」とたずねるという。

「高齢者には、体力が衰えている人も多く、100人に1人くらいは手術で命を落とす危険性があります。一方、手術が適用できる段階のがんなら、そのまま何もしなくても1年はほぼ確実に生きられる。そのことを考えると、治療を受けることが必ずしもその人の利益につながるとは言えません。そこで治療前にその人の人生に対する考え方をたずねるわけです」

吉田さんは、肺がんの治療では、どのように生き、病気と闘うかを考えなくてはいけない場合が少なくないと指摘する。たとえば術後の抗がん剤治療をどうするかということもその1つだ。

「2a期以上の患者さんで手術後に全身治療の抗がん剤治療を行うと、5年生存率が5パーセント上昇するといわれています。これは、抗がん剤治療が役に立つ人は20人に1人にすぎないことを意味しています。苦しい治療を受けて5パーセントの確率アップを狙うか、それともそのままの状態でよしとするか、自分自身で判断する必要があるでしょうね」

と、吉田さんは言う。

つまり、こうした治療の選択は、患者さんの人生観が問われているといっても過言ではない。厳しい治療を受けて病気を治す可能性に賭けるか、治療を敬遠してQОL(生活の質)を維持しながら自らの人生をまっとうするか。決定するのは患者さん自身にほかならない。

これは肺がん治療に限らないかもしれないが、がんという病気に対峙するには、自らの価値観を整理しておく必要があるということ。そしてそれによって、治療の方向性も自ずと決まってくることになる。

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