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高齢に伴う合併症を考慮しながら、QOLを重視した化学療法の選択を
有効性があらわれてきた高齢者への化学療法

監修:武田晃司 大阪市立総合医療センター臨床腫瘍センター長・臨床腫瘍科部長
取材・文:町口充
発行:2010年1月
更新:2013年4月

  
武田晃司さん
大阪市立総合医療センター
臨床腫瘍センター長・
臨床腫瘍科部長の
武田晃司さん

以前は治療を行わない場合も少なくなかった高齢者の化学療法が変わってきている。
高齢の患者さんがもつ合併症と、副作用を考慮しながら、QOL(生活の質)を重視し、無理のない化学療法が行われている。
若年者と同じように、抗がん剤を併用する臨床試験も実施中で、生存期間の向上が証明され始めた。

高齢者とは何歳以上?

がん治療において、高齢者とは何歳以上の人をさすのでしょうか?

人口統計学的に65歳以上が高齢者とされていますが、大阪市立総合医療センターの臨床腫瘍センター長で臨床腫瘍科部長の武田晃司さんによると、肺がんの臨床試験や予後因子()解析では高齢者を70~75歳としているところが多いといいます。

たしかに、“暦年齢”と“肉体年齢”ではギャップがある場合が多く、65歳をすぎても現役として働いている人が少なくありません。がんの化学療法では“暦年齢”より“肉体年齢”が重視され、70~75歳以上を高齢者としているのでしょう。

化学療法を行うにあたって、70~75歳以上の高齢者とそれ以下の中年・若年者とではどんな違いがあるかというと、まず考慮すべきは治療の目的、と武田さんは語ります。

「若い人も含め進行肺がんは治癒がなかなか難しい。それでも若い人では何とか治癒をめざしてがんばろうということになるでしょう。しかし、70歳とか75歳を超えるようになると、それよりQOL(生活の質)を重視するとか、残された時間をどうすごすかということが大事になってきます。もちろん、化学療法を行う目的は延命であり、寿命を延ばすことですが、よりQOLを考慮して、副作用をいかにコントロールするかが高齢者の化学療法では重要になってきます」

予後因子=疾患の種類、症状、病期、病理像、部位、遺伝子、合併症、年齢などをもとに予後を判断する材料となるもの

高齢者の特性

加齢によって身体機能が低下するし、さまざまな合併症を伴いやすいのも高齢者です。

「臓器機能、とくに薬剤の代謝を最後に行う臓器である肝臓や腎臓の機能は加齢とともに低下していきます。また、高齢になればなるほど高血圧や糖尿病といった循環器や代謝疾患の合併症が多くなります。つまり、がん以外の病気も併せ持って多くの薬剤を常用しているため、抗がん剤との相互作用に注意が必要です」

多くの場合、細胞を殺す作用があるのが抗がん剤。腫瘍細胞に効果を発揮する反面、正常細胞も殺す働きを持っています。本来が毒であるため、副作用が少ないように安全に治療できる「治療域」が狭いのが特徴です。

このため、ほかの病気に用いる薬剤以上に副作用に対する注意が欠かせません。

抗がん剤を、身体機能が低下し、ほかの病気を合併している高齢者に投与すると、より強い副作用が出る可能性があります。

「若い人と比べると、明らかに副作用が起こる頻度が高くなります。効果は変わらないけど副作用は強く出るということになり、重症度も増します。それは肺がんに限らず、ほかのがんも同じです」

とくに注意したいのが腎機能。薬は体内で働いたあと腎臓から排泄されて除去されます。ところが、腎機能が低下していると排泄がうまくいかず、体内に留まったままとなってしまいます。すると副作用も強まる結果となり、腎不全を起こして人工透析が必要になるケースもあります。

腎機能は年齢とともに低下していきます。年齢から腎機能を推定する公式があるほどです。

たとえば、パラプラチン(一般名カルボプラチン)という抗がん剤の場合、投与量の決め方はほかの抗がん剤のように体表面積当たりで計算するのではなく、腎機能から計算します。

[高齢者肺がんに対する化学治療の適応]
図:高齢者肺がんに対する化学治療の適応

VES-13:vulnerable elder,s survey-13, CGA:comprehensive geriatric assessment 出典:腫瘍内科 第3巻 第4号

75歳以上の効果は「不明」

高齢者に対する化学療法の有効性について、「肺癌診療ガイドライン」では次のように述べています。

「高齢者進行非小細胞肺がんに対する抗がん剤治療は生存期間を延長しQOLも改善する。行うよう勧められる」(推奨グレードB

しかし、その一方でガイドラインでは次のようにもあります。

「年齢については、一般的に75歳以上の患者は臨床試験から除外されることが多く、このような高齢者が抗がん剤治療の対象になるかどうかは不明である」

どうも心もとない記述です。具体的な薬剤の選択でも、75歳未満で全身状態良好の患者には、臨床試験の結果を踏まえ、初回治療でブリプラチンまたはランダ(一般名シスプラチン)を含む併用療法を行うよう推奨していますが、一般的に高齢者に対しては、より副作用が少ないナベルビン(一般名ビノレルビン)の単剤治療が標準療法として推奨され、併用療法は勧められていません。

たしかに、化学療法の臨床試験は、おもに中年・若年者を対象に、75歳未満の全身状態の良好な比較的「元気な」患者を集めて行われるのが普通です。

高齢者に限定した試験、とくに第3相無作為化比較試験(効果と安全性を確認するため、被験者を無作為に治験薬群と比較対象群に分けて行う試験)はあまり行われておらず、高齢者と若年者を一緒にした試験結果を高齢者に当てはめて、「若い人と同じような治療をしても同じような効果がありますよ」と結論づけているのが実情です。

推奨グレードB=「標準的な診療行為として行うことを推奨できる」という評価。ガイドラインでは、治療の推奨の度合いを、「強く推奨できる」Aから順にDまで、そして「エビデンスはあるが評価は低い」とするⅠに分けている

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