放射線治療は化学療法との組み合わせで手術と遜色ない成果
肺がん放射線治療の最新情報
近畿大学医学部
放射線医学教室教授の
西村恭昌さん
放射線は線量が多ければ多いほど、がん細胞を死滅できる。
しかし、正常細胞にも放射線が当たり合併症の原因になるため放射線を当てる線量にはおのずと限界がある。
近年、放射線治療は、3次元放射線治療や高精度照射法に加え、化学療法との組み合わせで手術と遜色ない成果をあげ、その進歩には目を見張るものがある。早期肺がんでは高い治癒率が期待できる放射線治療の現在について、近畿大学医学部放射線医学教室・放射線腫瘍学部門教授の西村恭昌さんに聞いた。
大線量の照射も可能になってきた肺がんの放射線治療
日本で「がんの治療」といえば、まず手術を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし、近年、放射線治療の進歩は目を見張るものがあり、手術と遜色のない成果をあげている。肺がんもそのひとつだ。
放射線治療の考え方はシンプルで、放射線をたくさん照射するほど、がん細胞を死滅させることができる。しかし、放射線はまわりの正常組織にも放射線が当たり、合併症の原因となるので、照射できる放射線の線量には限界があるのだ。
近畿大学医学部放射線科教授の西村恭昌さんは「両側の肺で20グレイ以上照射する範囲が、肺全体の体積の30~35パーセントを超えないと安全に照射できるのですが、がんが大きくてそれ以上当たってしまう場合には、重症の放射線肺臓炎のリスクが高くなります」と説明する。
「食道のような長い管になった臓器では、一部分が破綻すると臓器そのものが機能しなくなりますが、肺の場合、一部分がつぶれても全体の機能は温存できるという特性があり、局所的な大線量の照射に適しています」
周囲の正常組織にはできるかぎり放射線があたらないよう、がんの病巣にだけ大量の放射線を集中させる。それが可能になってきて、がんが局所にとどまる早期肺がんでは、高い治癒率が期待できるようになってきたという。
早期のがんに効果が出る定位的放射線治療
非小細胞肺がんは、がんの大きさが3センチ以下でリンパ節やほかの臓器への転移がない早期の場合、手術が第1選択の治療となる。
しかし、高齢だったり、肺の機能低下や合併症があるなど、手術ができないときや、どうしても手術を避けたい場合には「定位的放射線治療」、俗に「ピンポイント照射」と呼ばれるものが有力な治療法となる。
「定位的」とは正確に当てるという意味で、大量の線量を小さい範囲に集中して照射する方法をいう。ピンポイントといっても放射線を当てる目標は3センチ程度。それよりも広い5~6センチくらいのビームを使い、体の多方向からがん細胞のある部位をターゲットに狙い撃ちする。西村さんは「ある1カ所に放射線を集中させることから、その場所にあるがんに対して非常に効果が高く、手術とあまり変わらないくらいの成績が残せているようです」とその手ごたえを話す。
また、定位的放射線治療は治療期間が短いのも大きなメリットである。通常の放射線治療では、1回あたり2グレイを30回に分け、合計60グレイを6週間~7週間かけて照射する。一方、定位的照射では1回10~12グレイと多めの線量が照射できる。12グレイなら48グレイ照射するのに4回、1週間ですむ。1回の照射に要する時間が1時間程度と通常よりもかかるが、1週間の外来通院で可能だ。入院の必要もない。
「総線量では通常の60グレイより少ないのですが、1回の照射量が多いほどがん細胞が受けるダメージが大きいので、実際の効果は1回12グレイという大線量のほうが強いのです。今ではこの方法が主流になりつつあります」
ただ、組織を残すため、確実にがんを取り去るということにおいては手術とくらべて効果に違いがあるかもしれない、と西村さんはいう。
「手術の場合はリンパ節も切除しますが、定位的照射はリンパ節には照射しません。リンパ節などにも広がっている場合は、照射範囲が広くなるため、定位的照射には適さないのです。定位的照射はリンパ節転移の治療ではないわけで、この治療の適応は早期がんに限られるわけです」
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