これだけは知っておきたい再発肺がんの治療
進化しつづける抗がん剤治療。希望を持ってがんと向かい合う
静岡県立静岡がんセンター
呼吸器内科部長の
山本信之さん
抗がん剤では再発・転移肺がんの治療が困難であるのは事実です。けれども、快適な人生をより長く続けることは可能です。
今回は肺がん治療のなかで、とくに治療が困難といわれる再発・進行肺がんの治療についてお話ししたいと思います。
1期も見えない転移が起こっている
まず最初に、肺がんの転移についてみておくことにしましょう。ひとことでがんといっても、その性質は千差万別です。肺がんについていえば、患者さんにとってはやっかいなことに、乳がん、その他のがんに比べると、ずっと転移しやすい性質を持っています。
肺がんは一般的に腺がん、扁平上皮がんなどの非小細胞がんと小細胞がんに区分されます。そのなかで非小細胞がんのもっとも早期である1期で目に見えない転移が進んでいる場合が10パーセント、いわば地続きでがんが増殖していても、リンパ節や他の臓器への転移は起こっていない3A期では、全身に見えない転移が起こっている比率はほぼ80パーセント以上であろうと思われます。小細胞がんの場合は、さらに転移の速度は速く、1期の場合で50パーセント、それがさらに大きくなった2期以上の段階で100パーセント、見えない転移があると考えられています。
腺がん | 扁平上皮がん | 小細胞がん | |
---|---|---|---|
割合 | 約40~50% | 約25~30% | 約10~15% |
性 | 男女共 | 男性 | 男性 |
年齢 | 若年者~高齢者 | 高齢者 | 高齢者 |
喫煙 | 喫煙者~非喫煙者 | 重喫煙者 | 重喫煙者に多い |
発生部位 | 肺野末梢部に多い | 肺門部に多い | 様々 |
進行速度 | 普通 | 普通 | 早い |
抗がん剤の反応 | 比較的悪い | 比較的悪い | 良い |
抗がん剤での縮小率 | 30~40% | 30~40% | 60~70% |
腺がん
扁平上皮がん
小細胞がん
では、そうした場合で転移が明らかになった場合には、どのような治療が行われるのでしょうか。非小細胞肺がんの3A期では放射線治療や抗がん剤治療が、また小細胞がんの2期の場合は抗がん剤による全身治療を中心に治療が行われます。
もっとも例外がないわけではありません。その1例として1期の患者さんが手術で腫瘍を切除した後、また同じところにがんが再発した場合があげられます。この場合にはたしかにがんは再発していますが、前回の手術で取り残した腫瘍がまた頭をもたげてきたと考えられ、転移とは考えにくい。そこで、この場合には手術や放射線によって、治癒を目標とした局所治療が行われます。
とはいえ、これはあくまでも例外的なケースです。肺がんの場合は同じ肺という臓器内でも違う部分にがんが再発した場合は、血流に乗ってがんが運ばれたと考えるのが一般的です。当然ながら脳、肝臓、骨など他の臓器への転移の危険も十分に考えられます。そこで結論をいうと、肺がんの再発では、ほとんどの場合は、抗がん剤を中心とした全身療法が行われると考えるべきでしょう。
対抗がん剤治療の目的は延命とQOL向上
進行肺がんの場合
通常の抗がん剤施行後、経過観察が標準的治療
・何かを追加することで再発・増大が予防できる明確な証拠はない
早期肺がんで手術後の場合
あるかもしれない目に見えない転移を抑える目的で術後抗がん剤治療を追加
・再発のリスクを10%程度軽減できる
・ただし抗がん剤の副作用のリスクもある
では再発・転移肺がんに対する抗がん剤治療とはどのようなものなのでしょうか。
その前にまず1つ、再発を予防する手立てとして抗がん剤が用いられることも知っておいていただきたいと思います。これは早期の肺がんを手術で切除した後すぐに抗がん剤で再発を抑えるということです。これは目に見えない転移がんを抑えるという点で、可能性が期待されている治療法です。もっともこの場合でも、抗がん剤使用にともなうリスクがあることは、よく理解しておくべきでしょう。
さて、がんが再発した場合の抗がん剤治療についてですが、まず理解いただきたいのは、そうした場合の抗がん剤治療は治癒を目的としていないことです。そうではなく「寿命を延ばす」あるいは「日々の生活をより快適なものにする」ことが再発・転移肺がんに対する抗がん剤治療の目的として設定されているのです。
これは患者さんにとっては、かなり厳しいものかもしれません。
しかし再発・転移肺がんに対する抗がん剤治療の現状を知っていただければ、それも無理のないこととご理解いただけるのではないでしょうか。
そこで再発・転移肺がんに対する抗がん剤治療の効果ですが、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、いずれの場合も治癒率は1パーセント程度であるのが現実です。
もちろん治るケースがまったくないというわけではありません。じっさい私の患者さんのなかでも、がん性胸水で発症し、脳転移の後、何年も経っているのに、がんの再発がなく、がん患者さんを支援するNPОを立ち上げて元気に活動している患者さんもおられます。しかし、これはあくまでも例外的なケースです。そうしたケースは1パーセントにとどまっているのが現状なのです。
また肺がんが転移すると、転移した部位によっては患者さんの生活が支障をきたすことも少なくありません。
肺がんはある程度、転移する部分が決まっています。具体的には頭部、肝臓、骨、別の肺、副腎などに転移することが多いものです。
そのなかで頭部や骨に転移すると、生活が困難になることも少なくないのです。たとえば頭部に転移すると、脳卒中のような症状が起こることが多いし、骨に転移した場合は、強い痛みが起こることが多く、骨折することも少なくありません。さらに付け加えると、肺に転移があった場合でも、空気の通りが悪くなり、呼吸困難に陥ることもあります。そうした場合には、抗がん剤による全身治療とは別に局所治療で転移した部分を重点的に治療します。その場合には放射線照射による治療が中心となります。
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