検査体制の充実と医療技術の進歩が早期肺がんの治療を変えた
これだけは知っておきたい! 肺がんの基礎知識
九州大学大学院医学研究院
呼吸器科教授の
中西洋一さん
福岡大学医学部外科教授の
白日高歩さん
日本人のがんによる死亡率トップで、最も怖いとされるのが「肺がん」だ。痛みなどの自覚症状がないため発見が遅く、がんが見つかったときには進行しているケースが多いと言われている。
死亡率が高いその一方で肺がんを克服し、元気に家庭生活を送ったり、社会復帰したりする人も少なくない。
では、難治といわれる肺がんの明暗を分けているものは何なのだろう。肺がんを克服するポイントを訊いた。
肺がんのピークは70歳代
アメリカでは「気管支がん」とも呼ばれる「肺がん」は、気管支の内側(上皮細胞)にできたものをいう。一般に、タバコを吸う人に肺がんが多いとされるが、70歳以上の高齢者に多く見られる病気でもある。社会の高齢化が進むにしたがって肺がんの実質的な数、あるいは肺がんによる死亡数が増えているのが現状だ。
2000年に東京で開催された「国際肺癌学会」(世界肺癌会議)では、世界人類の肺がんの原因は80パーセントが能動喫煙であり、残る20パーセントのうちの5パーセントが受動喫煙であると公式発表された。つまり「85パーセントが喫煙による」と世界中の研究者が認めたことになる。
肺がんの発生については、日本人は毎年100万人が死亡しているが、そのうち肺がんによる死亡数は6万人にのぼる。7~8年後の推計によると、肺がんにかかる男性の数は年間11万人、女性で3・7万人、おそらく12万人位が肺がんで亡くなるといわれている。
1つの臓器による病気で、年間12万人(8人に1人の割合)もの人が亡くなるというのは全盛期の結核と同じ状況である。
なぜ肺がんはできるのか?
能動喫煙と受動喫煙
肺がんの原因には、まず喫煙が挙げられるが、他には大気汚染や職業因子(アスベスト)、遺伝などがある。タバコについていえば、肺がんの罹患者はなにも喫煙者だけではない。自分では吸わないのに喫煙者の煙を吸う環境に置かれている受動喫煙のリスクが大きいことも否めない。禁煙の影響については、能動喫煙が禁煙により罹患率が大きく減少する(たとえば、50代で禁煙すれば、喫煙し続けるより43~64パーセントも肺がんによる死亡率が減少し、60代でも19~57パーセント減る)という推計結果が、厚生労働省の研究班(主任研究者=祖父江友孝・国立がん研究センターがん情報統計部長)より報告されている。
喫煙が与える人体への影響は、これまでどれくらい体内にタバコの煙を吸ってきたかに関係するが、総吸入量の目安として「喫煙指数」がある。これは、「1日あたりに吸うタバコの本数(喫煙量)」に「喫煙年数」をかけたもので、たとえば1日20本を40年間喫煙すれば喫煙指数は800になる。喫煙指数600以上が肺がんにかかる可能性として危険度高のハイリスクゾーンに該当し、400からは要注意のリスクゾーンに属する。
「そもそもがんは、発がん物質に刺激され、正常な細胞が突然変異で発生した異常な細胞のこと。禁煙したからといって喫煙指数は減りませんが、喫煙によって発がん物質を体内にたくさん蓄積してしまったリスクゾーンの方は、これ以上喫煙指数を上げないためにもその時点で禁煙し、早期発見のためにも検診されることをおすすめしたい」
と福岡大学病院外科教授の白日さんは強調する。
肺がんのシグナル
肺という臓器は痛みを感じる知覚神経がほとんどないことから、肺がんの早期段階の多くは無症状で、進行するにつれて咳や痰、倦怠感などが症状として出てくる。ただ、つらい痛みを伴うわけでもなく“いつもの風邪の症状に似ている”からか、深刻になって病院にかかる人というのはそう多くない。
肺がんを“難治な病気”としてしまうのは、自覚症状がないため発見が遅れてしまうことにある。もう1つには、他のがんに比べて転移しやすいという点だ。血管がはりめぐらされている肺には、身体中の血液が集まり、そして全身に送り出される。肺で出現したがんは、血液と一緒に他の臓器に運ばれやすく、逆に他の臓器で発生したがんも肺に入ってきやすい(転移性肺腫瘍)ことから、肺がんは非常に転移しやすいのだ。 「早期発見できた肺がんは、手術によって非常に高い確率で治る」
と九州大学病院呼吸器科教授の中西洋一さんと白日さんは話す。
しかし、肺がんが見つかっても手術ができるのは、肺がん全体の4割から5割だという。
「2週間続く咳は病院にかかる1つの重要なシグナルといえます。検査をして、幸い肺がんでなくてもそれ以外の重篤な疾患が見つかるきっかけにもなるので、きちんと病院にかかることが大切です」(中西さん)
肺がんを克服する最善策
早期発見に必要な定期検診であるが、肺がん検査は、がんの発生部位によって発見の仕方も異なる。胸部X線、胸部CT検査、胸部MRI、PET検査、気管支鏡、経皮肺生検などがあるが、たとえば肺がん検診や人間ドックでは、胸部X線検査や喀痰細胞検査(痰によるがん細胞検査)など、比較的患者に負担の少ない方法で検査ができるので利用しやすいだろう。ただし、肺がん検診の有効性については疑問とされている面もあることを認識しておく必要がある。最初の診察・検査で異常があれば精密検査へと進み、患者が手術に耐えられるだけの体力があるか、他の臓器(合併症、転移等)の状態はどうかなどのチェックをし、万が一がんの場合でも、すぐに治療に移行できるかどうかを確認するための診断が並行して行われる。肺がんは、他のがんに比べて転移しやすいので、治療法を決めるうえでも進行度、転移、合併症等を確認することが重要になる。
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