「ジェムザール+パラプラチン」は進行肺がんに対するベストの選択
編集長インタビュー:肺がん治療の世界的権威、ロナルド・B・ナターレ博士に聞く
ロナルド・B・ナターレ博士
1948年ミシガン州デトロイト生まれ。
ウェイン・ステート医科大学卒業。
肺がん患者に根拠と実績のある化学療法を提供することをモットーとし、世界で有数の肺がんの治療家といわれる。
世界で有数の肺がん治療のエキスパート、ロナルド・B・ナターレ博士に会見した。10年前からパラプラチンを核とする肺がんの化学療法に取り組んできた同博士は、現在ジェムザールとの組み合わせをベストの選択と考えるようになっている。
奏効率が向上するとともに、QOLの面でも格段の進歩を見せるこの化学療法について、博士のお話をうかがっていく。
化学療法の奏効率が向上
――ナターレ先生は、タキソール(一般名パクリタキセル)+パラプラチン(一般名カルボプラチン)、タキソテール(一般名ドセタキセル)+パラプラチン、さらにジェムザール(一般名ゲムシタビン)+パラプラチンという世界標準とされる肺がん治療の化学療法に取り組んでおられますね。アメリカでは、これらはそれぞれどのくらいの割合で使われていますか?
ナターレ この三つの組み合わせは、おもにステージ3(病期)以降の進行した肺がんに用いられます。タキソール+パラプラチンは、私自身が10年前に作り出した抗がん剤の組み合わせで、かつては60パーセントの患者さんに用いられていましたが、最近は、40パーセントくらいになっています。増えているのはジェムザール+パラプラチンという新しい組み合わせで30パーセントくらい、一方、タキソテール+パラプラチンは20~25パーセントくらいです。
――腫瘍縮小の度合いを表す*奏効率(有効率)ではどのような違いがありますか?
ナターレ 奏効率が最も高いのは、このジェムザール+パラプラチンでだいたい35~40パーセント、タキソール+パラプラチンがこれに続き、タキソテール+パラプラチンは30~33パーセントくらいです。
併用療法を実施した場合の生存率の比較]
[新旧抗がん剤治療を行った場合の生存率の比較]
――アメリカではこれらの化学療法はどういう医療施設で受けるのですか?
ナターレ アメリカは日本とは違って、ほとんど外来で化学療法を受けます。入院費が高いため、化学療法を受けるためだけに入院するということはあまりありません。それに、アメリカの保険会社は1泊でも入院して受ける化学療法に対して、保険の支払いを認めていないのです。その代わりアメリカでは、病院の外来ばかりでなく、どこの州のどこの町でもホーム・ドクターのクリニックで化学療法を受けることができます。一方、イギリスは日本ととてもよく似ていて、ほとんど入院により化学療法を受けています。
*奏効率=腫瘍が4週間以上にわたって半分以上縮小する割合
3種の療法はQOLを大きく改善
――各抗がん剤の投与法と投与期間を教えてください。
ナターレ 普通の抗がん剤投与は3週毎に1回投与し、1週休みます。これが1サイクル。これを2回すなわち2サイクル終了したところで再評価し、反応をみます。奏効率が最も高いジェムザール+パラプラチンを例にとれば、有効性を示す人やがんが安定化する人を合わせてだいたい6割の人はこれ以降も治療を続けることになります。ほとんどの患者さんの場合、最大の効果を得るのは4サイクルくらいかかります。ですから、平均治療期間は3カ月半から4カ月くらいになります。通常はここでいったん化学療法を打ち切って、再発しないかどうか、経過を観察します。なかには1年を過ぎても次の治療が必要がない幸運な患者さんもいます。
――1回の点滴の時間はどのくらいになりますか?
ナターレ アメリカでは日帰りで化学療法を行うために、とくに抗がん剤の投与が短時間でできることが重視されます。タキソール+パラプラチンは普通約5時間、タキソテール+パラプラチンは2時間から3時間くらい。これに対して、ジェムザール+パラプラチンは普通1時間から1時間半です。ただし、この組み合わせでは翌週にジェムザールだけを点滴する必要がありますが、これは30分くらいで終わります。
症状を緩和する効果も
――タキソールが入ると点滴時間がとても長くなってしまうのですね?
ナターレ そうなんです。タキソールは3時間以上かけて点滴しないと、重い副作用が出やすくなってしまうのです。そこでそのリスクを少しでも抑えるために前治療として抑制剤を投与します。これには3種類あって、ステロイド薬のデカドロン(デキサメタゾン)、抗ヒスタミン薬のレスタミン(ジフェンヒドラミン)、やはりヒスタミン反応を抑えるタガメット(シメチジン)です。
――症状の改善効果は?
ナターレ これら3種の化学療法では、肺がんに由来するいろいろな症状を緩和します。6割でがんが小さくなり、せきや息苦しさを改善、運動機能をよくし、疼痛がある場合はそれも和らぎ、QOLを大きく改善します。ただし、化学療法はどうしても副作用が現れがちです。
神経毒性を抑える投与法
――副作用として、どのような症状が生じるでしょうか?
ナターレ ジェムザール+パラプラチンについては、他の二つに比べて重いアレルギー反応や神経毒性などがありません。悪心・吐き気が少なく、末梢神経に影響せず、またタキソテールに見られる重い疲労感を覚える症状も抑えられます。
さらに重要なことは、他の2種はほとんどの髪がなくなってしまうほど脱毛がひどいのに、ジェムザール+パラプラチンは脱毛がきわめて少なく、1割くらいにすぎません。
ただし、いずれの化学療法も、血液の細胞に影響を与えるため、何人かの患者さんは重症の感染症を引き起こします。そしてこれらの治療は血小板に影響を与え、とくにジェムザール+パラプラチンは1割くらいでは対策の検討が必要になります。もっとも出血までにいたるケースはまれです。
――日本の医師の多くは、血小板減少に神経質なのですが、血小板減少はコントロールできるのですか。
ナターレ コントロール可能です。血小板の状態は、第一サイクルを終えたところでチェックし、減少が著しいようなら次のサイクルで用量を調整します。血小板減少がより大きく現れる人は、代謝がよりゆっくりした人と考えられるので、薬剤量を減らしても薬の効果は変わらないのです。
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