世界の流れは、よりQOLを重視する治療法へ
肺がん世界最新レポート
がんの中でも最も厳しいがんの一つが肺がんである。依然、がんによる死亡率の第1位である。しかし、この数年、肺がんの治療は大きな進展を見せている。先頃カナダで行われた世界肺がん学会の現地取材を通して、その進展ぶりの最新レポートをお届けしよう。
肺がんの世界スペシャリストたちの会
2003年8月10日~14日の5日間、カナダのブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーで、第10回世界肺がん学会が開催された。世界的な肺がんの学術団体であるIASLC(International Association for the Study of Lung Cancer)の主催で、3年に一度のペースで行われてきた学会である。前回は2000年に、東京で開催され、日本でも話題となった。今回はそのIASLCとカナダのブリティッシュ・コロンビアキャンサーエージェンシーによる共催であった。
学会には3200人に上る世界の肺がん治療のスペシャリストが一堂に会し、約300題の口演、700題を超えるポスター発表が行われた。
ここでの発表は、むろん医師向け、それも肺がんの専門医師に向けたものである。内容は高度で、先端を行く。しかし、それは臨床試験に裏づけられており、これをたたき台に世界における肺がんの標準治療が形成されていく。標準治療は、簡単に言えば、その時点での世界のベストの治療といってよい。したがって、この内容を知ることは、肺がん患者にとって、自分の治療を選択したり見直したりする上で大きな指針となるのである。
5日間のプログラムは、初日が各製薬会社の主催するサテライトシンポジウムで、肺がん治療薬、またその開発にかかわる研究のトピックスがトップクラスの研究者によって口演された。2日目からは、診断領域、外科領域、放射線領域、化学療法領域、また高齢患者のQOL、分子標的治療、女性の肺がん等々、細分化されたテーマで分科会形式の口演とポスターによる発表が行われた。
肺がんにおける早期発見・治療、進行再発肺がんに対するQOLを下げずに治療効果を上げる化学療法についての研究などが注目されたが、とりわけ注目を集めたのは、昨今問題になっている分子標的治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の効果と副作用に関する研究であった。
副作用による死亡原因究明が急務
イレッサは、2002年7月、世界に先駆けて日本で進行非小細胞肺がんの治療薬として承認された薬。当初、分子標的、つまりがんをピンポイントでたたくことから、夢の特効薬とまで喧伝された。臨床の現場での使用が始まると、たちまち副作用による多数の死亡者を出して問題になった。日本でも、新聞などが大きく取り上げ、ご存じの方も多いだろう。
この薬を製造したアストラゼネカ社によると、2002年8月から12月までの間に1万9000人の進行非小細胞肺がん患者に投与され、そのうち358人(約1.9パーセント)が急性肺障害・間質性肺炎を発症し、114人(約0.6パーセント)が死亡したという。
なぜこのような問題が起こったのか、原因究明が急務とされていた。詳細な解明はまだ先になるようだが、ある程度のことはわかってきている。
イレッサの販売は日本が先行したこともあって、日本からの発表が多数を占めた。
判明したリスクファクター
日本からの発表の一つは、西日本胸部腫瘍臨床研究機構の武田晃司さんによるものだ。武田さんは、進行非小細胞肺がん患者でイレッサが誘因となった急性肺障害・間質性肺炎に対する疫学調査を行っている。
イレッサの治療を受けた患者1976人(84診療科)を対象に調査し直したところ、急性肺障害・間質性肺炎を起こしたことがはっきりした患者は64人で、その発症頻度は3.2パーセント。そのうち、イレッサの副作用が原因で死亡した人は25人、死亡率は1.3パーセントであったという。
また、急性肺障害・間質性肺炎を起こした人とそうでない人の双方を含めて、性別、年齢、喫煙歴など、様々な因子を解析し、急性肺障害・間質性肺炎発症のリスクファクター(危険因子)を調べたところ、三つのリスクファクターが判明した。(1)男性、(2)特発性間質性肺炎・肺線維症の合併、(3)喫煙者の三つである。
ということは、このような因子を持つ患者さんでは、イレッサの投与を慎重に期す必要があると思われる。逆に、女性では、特発性間質性肺炎や肺線維症を合併しておらず、喫煙者でなければイレッサによる治療効果はかなり期待できるということになる。
さらに、急性肺障害・間質性肺炎発症後の予後(病気に罹った後の経過)についても解析していた。予後が悪くなる要素として、(1)パフォーマンス・ステータスが2~4、(2)イレッサ投与後2週間以内に発症した場合、の二つが指摘されている。パフォーマンス・ステータスとは、患者さんの全身状態を表す指標で、症状がなく、社会生活ができる状態の0から、一番悪い、寝たきりで介助が必要な状態の4までの5段階に分けられている。したがって、イレッサ投与後、こうした要素が現れた場合は、薬剤投与の中断など、対策を考えたほうが賢明ということになる。
同じカテゴリーの最新記事
- 空咳、息切れ、発熱に注意! 肺がん治療「間質性肺炎」は早期発見が大事
- 肝がんだけでなく肺・腎臓・骨のがんも保険治療できる 体への負担が少なく抗腫瘍効果が高いラジオ波焼灼術
- 肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は腸内細菌が関係!
- 高齢者や合併症のある患者、手術を希望しない患者にも有効 体幹部定位放射線治療(SBRT)が肺がん術後再発への新たな選択肢に
- 免疫チェックポイント阻害薬と体幹部定位放射線治療(SBRT)併用への期待 アブスコパル効果により免疫放射線療法の効果が高まる⁉
- 群馬県で投与第1号の肺がん患者 肺がん情報を集め、主治医にオプジーボ治療を懇願する
- 体力が落ちてからでは遅い! 肺がんとわかったときから始める食事療法と栄養管理
- 進行・再発がんでケトン食療法が有効か!? 肺がんⅣ(IV)期の介入研究で期待以上の治療成績が得られた
- 初となる治療薬登場の可能性 肺がんに対するがん悪液質対策
- 過不足のない肺切除を実現!注目の「VAL-MAP」法