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新たな治療薬としてキイトルーダも承認

免疫チェックポイント阻害薬登場で加速する肺がん領域のプレシジョンメディスン

監修●佐々木治一郎 北里大学医学部新世紀医療開発センター教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年2月
更新:2017年2月

  

「新たな免疫チェックポイント阻害薬の開発も進んでいます」と語る佐々木治一郎さん

非小細胞肺がんにオプジーボが承認されてから約1年。昨年(2016年)12月には、新たな免疫チェックポイント阻害薬として、キイトルーダが適応追加されている(2017年1月現在、薬価は未収載)。肺がん治療を大きく変えようとしている免疫チェックポイント阻害薬。新薬の登場で、肺がん治療は個々に適した治療を行う、プレシジョンメディスン(より適確な医療、精密医療)の時代に本格突入した。

免疫の力でがんを攻撃する 免疫チェックポイント阻害薬

肺がんの治療に、従来の治療薬(抗がん薬や分子標的薬)とは全く異なるタイプの薬が登場し、注目を集めている。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれるタイプの薬で、肺がんの治療では、2015年12月にオプジーボという薬が承認されている。

免疫チェックポイント阻害薬の働きについて、北里大学医学部新世紀医療開発センター教授の佐々木治一郎さんは、がん細胞を暴走族、免疫細胞を警察官に例えて、患者に説明しているという。

「巡査である抗原提示細胞(こうげんていじさいぼう)が、暴走族の目印であるがん抗原を認識すると、機動隊員であるTリンパ球にがんの目印を知らせます。Tリンパ球は、この目印を頼りにがん細胞を見つけ出し、攻撃を仕掛けます。これが免疫の働きです。しかし、がん細胞は免罪符を出すことで、攻撃を逃れることができます。暴走族が『警察署長の息子』といった免罪符を出し、機動隊の攻撃をかわしてしまうようなものです。この免罪符が免疫チェックポイントで、免疫チェックポイント阻害薬は、免罪符を無効にすることで、機動隊が本来の力を発揮できるようにします。つまり、薬自体ががんを攻撃するのではなく、薬によって免疫が働くようにし、その力を利用してがんを攻撃する治療法なのです」

免疫はがん細胞のような異常な細胞を攻撃する能力を持っているが、間違って正常細胞を攻撃しないための安全機構を備えている。それが免疫チェックポイントだが、がんはそれを免罪符として利用し、免疫の攻撃から逃れている。この免罪符を働かないようにする、言い換えれば体の免疫機能にストップをかけているのを外し、元々備わっている免疫機能が働くようにする薬が、免疫チェックポイント阻害薬なのである。

オプジーボ=一般名ニボルマブ

2次治療で使われる オプジーボ

オプジーボは進行再発の非小細胞肺がんの治療で使われているが、その働きは次のようになっている(図1)。

「Tリンパ球はがん抗原を目印にがん細胞を見つけ出し、攻撃を仕掛けようとしますが、がん細胞は免罪符のPD-L1という物質を出します。その受容体となっているのがTリンパ球のPD-1で、PD-L1とPD-1が結合すると、Tリンパ球の攻撃性は抑えられてしまいます。オプジーボはPD-1に対する抗体で、自らがPD-1と結合することで、がん細胞のPD-L1とTリンパ球のPD-1が結合するのを阻害します。それによって、Tリンパ球の働きが抑制されず、がん細胞を攻撃するのです」

オプジーボは、進行再発の非小細胞肺がんで、プラチナ製剤を含む化学療法をすでに受けた患者を対象に臨床試験が行われた。2次治療の標準的な薬剤であるタキソテールを使用する群と、オプジーボ群との比較試験だが、オプジーボ群で全生存期間(OS)が延長することが明らかになった。

試験は扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと非扁平上皮がんに分けて行われたが、どちらもオプジーボ群で全生存期間が延長した。扁平上皮がんの全生存期間は、オプジーボ群が9.2カ月、タキソテール群が6.0カ月だった。非扁平上皮がんでは、オプジーボ群が12.2カ月、タキソテール群が9.4カ月だった。

こうした結果などから、オプジーボは進行再発の非小細胞肺がんの2次治療として使用が認められている。

プラチナ製剤=シスプラチン(商品名ブリプラチン/ランダ)やパラプラチン(一般名カルボプラチン)など タキソテール=一般名ドセタキセル

図1 オプジーボが働く仕組み

副作用を考慮し 適切な患者を選択

免疫チェックポイント阻害薬は、従来の抗がん薬などとは作用が異なるため、現れる副作用も全く異なっているという。

「免疫チェックポイントは、免疫細胞が誤って正常細胞を攻撃しないための安全機構です。その働きを阻害するので、免疫によって正常細胞が攻撃される自己免疫性疾患(じこめんえきせいしっかん)が副作用として起こることがあります。免疫がどこを攻撃するかによって、様々な副作用が現れます」

脳の下垂体(かすいたい)が攻撃されれば下垂体炎を起こしてホルモンの分泌に異常を来すし、甲状腺が攻撃されれば甲状腺機能低下症が起きる。その他に、膵臓のインスリンを分泌する細胞が攻撃されれば劇症1型糖尿病、心臓の筋肉が攻撃されれば心筋炎、肺が攻撃されれば間質性肺炎が起きることになる。

「副作用の頻度は低く、入院が必要になるような重篤な副作用も、抗がん薬に比べて頻度は低いです。ただ、様々な副作用があり、何が出てくるかわからない怖さがあります」

こうした点からも、オプジーボの使用にあたっては、適切な患者を選択して、適正に使用する必要がある(図2)。自己免疫疾患や間質性肺炎の経験がある人は、オプジーボの使用は避けることが推奨されている。

また、非扁平上皮がんで、EGFR遺伝子変異陽性の人や、ALK融合遺伝子陽性の人は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬またはALKチロシンキナーゼ阻害薬による治療を優先させることが望ましいとされている。

図2 臨床試験からみるオプジーボが適している患者

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