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従来の抗がん薬とは異なる治療効果が期待

難治性の再発・進行卵巣がんに 抗PD-1抗体薬を用いた新しい免疫療法

監修●濵西潤三 京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学助教
取材・文●植田博美
発行:2015年4月
更新:2015年12月

  

「抗PD-1抗体薬は、がん治療におけるブレイクスルーの1つとして、世界中で注目されています」と話す濵西潤三さん

プラチナ製剤耐性の再発進行卵巣がんは、難治性で有効な治療選択肢も少ないため、早期の治療法開発が求められている。京都大学医学部附属病院産科婦人科では、「抗PD-1抗体薬」を用いた免疫療法の医師主導第Ⅱ(II)相臨床試験(治験)を実施した。どのような治療法なのか、治験責任医師である濵西潤三さんに話を聞いた。

早期開発が待たれる 再発進行卵巣がんの新しい治療法

卵巣がんの年間罹患者は約8,000人。子宮頸がん・子宮体がんと比べて数は少ないものの、半数以上がステージⅢ(III)、Ⅳ(IV)という進行した状態で発見されるという。卵巣がんは痛みや出血などの自覚症状がほとんどないためだ。

がんが腹腔内に広がっていたり、リンパ節に転移がみられるステージⅢ(III)以降の治療は、手術と抗がん薬による化学療法の組み合わせが必須となる。そのときの第1選択薬はプラチナ製剤(カルボプラチンやシスプラチン等)とタキサン製剤(パクリタキセルやドセタキセル等)の併用だ。

この組み合わせで著効することも多いが、一方で、60%以上が再発するとも言われている。

「とくに半年以内に再発した〝抗がん薬が効きにくいタイプ〟の患者さんの場合、有効な治療選択肢が少ないのが現状です。有効性と安全性に優れた新しい治療法が求められているのです」と、京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学助教の濵西潤三さんは新しい治療法の早期開発の重要性を強調する。

カルボプラチン=商品名パラプラチンなど シスプラチン=商品名ブリプラチン、ランダなど パクリタキセル=商品名タキソール ドセタキセル=商品名タキソテール

期待が高まる 抗PD-1抗体薬

その新しい治療法として注目されているのが、免疫チェックポイント阻害薬の1つである抗PD-1抗体(ニボルマブ)を用いた免疫療法だ。

ニボルマブは欧米を中心に臨床試験が進んでいたが、世界に先駆けて日本で2014年7月に、メラノーマ(悪性黒色腫:皮膚がんの一種)の治療薬として薬事承認された(商品名オプジーボ)。すでに肺がんや腎がんなどの領域でも、この薬を使った臨床試験が進められている。

では、そもそも〝免疫チェックポイント阻害薬〟〝抗PD-1抗体〟とはどのようなものなのか。

「私たちの体にはT細胞という免疫細胞が、新たに発生したがん細胞を異物として攻撃していると言われている。

活性化したT細胞には、活性し過ぎないようブレーキをかける働きを持つ抑制性副シグナル(免疫チェックポイント)が数種類発現します。その1つがPD-1です。またがん細胞は、PD-1と結合するPD-L1(PD-1リガンド)という免疫抑制分子を発現させてPD-1と結合し、T細胞の働きを抑えてしまうのです」

このがん細胞が宿主の免疫攻撃から逃れる仕組みを「がん免疫逃避機構」(図1)という。現在、これを標的とする新しい免疫治療が免疫チェックポイント阻害薬として国内外で注目されている。その代表的なものが抗PD-1抗体なのだ。

図1 がん免疫逃避機構のメカニズム

「ニボルマブがPD-1と結合し、がん細胞の免疫抑制作用をブロックすることで、T細胞の再活性化が期待されます。進行・再発卵巣がんではPD-L1が高頻度に発現しているため、ニボルマブが有効なのではないかと考えられています(図2、図3)。

図2 卵巣がんとPD-1リガンド(PD-L1、PD-L2)発現と予後の相関

卵巣がんにおけるPD-L1の高発現は、PD-L2(PD-1リガンド2)高発現よりも患者の予後不良に関わる重要な因子である

図3 免疫チェックポイント阻害薬ががんに作用する仕組み

免疫チェックポイント阻害薬は従来の抗がん薬と違い、がん細胞を直接攻撃する薬ではありません。
しかし、ニボルマブはメラノーマに対して従来の化学療法よりも高い奏効率と、治療効果の持続を示しています。数年内には、卵巣がんをはじめ複数のがんに対する抗がん薬として承認されるのではと期待しています」

ニボルマブ=商品名オプジーボ

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