膵がんガイドライン 手術可能なケース、進行がんのケースともに、治療薬の選択が大きく変わる 知っておきたい!膵がんの新しい標準治療
奥坂拓志さん
膵がんのベストの治療法は何か。臨床試験などのエビデンス(科学的根拠)をもとに、これら標準治療を明記しているのが、『膵癌診療ガイドライン』(日本膵臓学会)だ。定期的に見直されるこのガイドラインは、いま世界中で続々と明らかになっている膵がん薬物治療の新しい臨床試験結果を反映して、大きく変わろうとしている。期待の試験結果とともに紹介しよう。
手術できる人に根治の可能性がある
膵がん治療の目安になる『膵癌診療ガイドライン』は約3年ごとに改訂されている。2013年版は改訂作業を終え、年内に発刊予定である。『膵癌診療ガイドライン』は医療者向けではあるが、患者さんやその家族にもたいへん参考になる。
ただし、内容は難しい。そこで、国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科科長で、『膵癌診療ガイドライン』改訂委員会副委員長でもある奥坂拓志さんに『膵癌診療ガイドライン 2013』について解説してもらった。
膵がんの治療で、まず大きな分かれ目になるのは、手術できるか、できないかである。膵がんは、残念ながら、全体的に治る見込みが低いがんである。手術できない場合は、根治は難しくなる。
ただし、手術できるのは、膵がん患者さん全体の20~30%とされる。さらにそのうち、根治するのは、10~20%程度である。
手術では、膵臓を全摘するケースは減少していて、部分的に切除することが多くなっている。
その理由について、奥坂さんは次のように話す。
「1つには、がんが全摘しなければならない状態にある患者さんは、ほぼ確実に転移することがわかってきたことです。もう1つには、全摘すると、インスリンがまったく分泌されなくなり、重い糖尿病になってしまいます。これらが大きな理由です。全摘手術などの大きな手術をするメリットは、最近はかなり少ないと考えられています」
手術の対象はⅠ~Ⅲ期とⅣa、Ⅳb期の一部
では、「手術の対象になる」、つまり「手術できる」のはどういう場合だろうか。奥坂さんは次のように説明する。
「判断基準は2つあります。1つは、遠隔転移がないこと。もう1つは、膵臓の近くにある大事な血管にがんが入り込んでいない(浸潤していない)ことです。これら2つを満たす場合は、一般的には手術ができます」
膵がんの病期でいうと、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳa期、Ⅳb期と分類される中の、Ⅰ~Ⅲ期と、Ⅳa期とⅣb期の一部が手術の対象になるという。ただし、これは国内分類での病期で、国際分類では別の分け方になる。ガイドラインは国内分類で書かれているため、本稿では国内分類を用いるが、国際分類で説明する医師もいるため、注意が必要である。
術後補助療法はTS-1を最も推奨
『膵癌診療ガイドライン』では「治療アルゴリズム」が示されている(図1)。アルゴリズムは「手順」「手続き」といった意味である。
この治療アルゴリズムによると、切除可能の場合は当然、外科的療法、つまり手術を行い、その後、補助療法(アジュバント療法)として抗がん薬治療を行う。この術後補助療法の部分が今回の改訂で大きく変わったと、奥坂さんは話す。
「術後補助療法として、これまでのガイドラインで推奨されていたのは、ジェムザール*でした。それが今回、TS-1*に変わりました。TS-1を使えない人にはジェムザールを使う、という表現に変更されたのです。最近、発表された2年生存率の報告が、ジェムザールでは53%、TS-1では70%なので、けっこう大きな差があるといえます」(図2)
ちなみに、ジェムザールは注射薬で、TS-1は飲み薬だ。原則として、いずれも外来で、約6カ月間、治療を受ける。
手術のできる患者さんに対する化学療法は、ガイドラインでは手術後に行うことになっている。ただし、実際には、手術前に化学療法を行っている医療施設やケースもある。
「術前化学療法(ネオアジュバント療法)は本来、臨床試験の中ですべき治療ですが、将来、術前化学療法が標準治療になる可能性はあります」
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
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