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膵がん腹膜播種治療 腹腔内に抗がん薬を直接注入。第3相試験へ発展も 諦めない! 膵がん腹膜播種治療に新たな光

監修●伊佐山浩通 東京大学大学院医学系研究科消化器内科学准教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年10月
更新:2019年9月

  

「膵がん治療の武器は増えています。諦めないでください」と
伊佐山浩通さん

これまで、治療のオプションが少ないとされてきた膵がん。とりわけ、腹膜播種を起こしたとき、治療法は更に厳しくなる。東京大学附属病院では、胃がんの腹膜播種に対し、腹腔内に抗がん薬を直接投与することで治療効果を高めている。これを、膵がんの腹膜転移にも応用する試みがなされている。

すぐに打つ手がなくなる膵がんの化学療法

膵がんで手術ができない場合には、基本的に抗がん薬による化学療法が行われる。ところが、治療手段はあまり多くはない。中心となるのは、ジェムザールとTS-1である。これらの抗がん薬を使い切ってしまうと、たとえ患者さんが元気でも、もう治療手段がないという状況に陥ってしまう。

東京大学大学院消化器内科の伊佐山浩通さんは、この状況をなんとかしたいという。

「東京大学附属病院の消化器内科では、『諦めないがん治療』をテーマに、新たな治療法を開発するための研究に取り組んでいます。膵がんに関して言えば、とにかく治療手段が少なすぎます。治療のオプションを、もっと増やしていくことが必要だと考えています」

まだ元気なのに、治療手段がなくなってしまう患者さんがいる。こういう現実がある以上、有効な治療手段が増えれば、それによって生存期間が延びる可能性が出てくる。

「手術できない進行・再発膵がんは、化学療法を行っても、治癒は期待できません。それは乳がんでも大腸がんでも同じです。しかし、乳がんや大腸がんの化学療法は、ある治療法が効かなくなっても、次から次へと繰り出す治療法があります。とにかくオプションが多いのです」

それが膵がんの化学療法と、大きく異なっている点だという。

ジェムザール=一般名ゲムシタビン TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

化学療法で目指す膵がんの慢性病化

乳がんや大腸がんの化学療法では、新たな治療薬が登場し、効果的な治療法が増えたことで、患者さんの生存期間は着実に延びてきた。

「世の中に治らない病気はいくらでもあります。糖尿病も高血圧症も根本的に治すことはできませんが、薬で血糖や血圧をコントロールしていれば、とくに問題はありません。治癒が望めないがんでも、薬でがん細胞が増殖するのを抑制し、それが5年、10年と続けば、慢性病と変わりません。乳がんや大腸がんは、慢性病化に成功しつつあるがんといえるかもしれません。私たちが取り組んでいるのは、膵がんの慢性病化です」

そのためには、化学療法のオプションを増やしていく必要がある。そこで、同院では、ジェムザールとTS-1とロイコボリンを併用する「GSL療法」や、ジェムザールとTS-1が効かなくなった人のための「イリノテカン単独療法」などの研究が進められている。

そして、そうした『諦めないがん治療』の一環として、膵がんが腹膜に転移した患者さんを対象に「TS-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内併用投与療法」の臨床研究が始まっている。TS-1の内服、パクリタキセルの経静脈投与、パクリタキセルの腹腔内投与という3つを組み合わせた治療である。

ロイコボリン=一般名レボホリナート イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン パクリタキセル=商品名タキソール

腹膜播種に対して抗がん薬が直接作用

膵がんでは、腹膜に転移が起きることがある。膵臓に発生したがんが大きくなり、膵臓の外側の膜を突き破ってしまった場合に起こる。がん細胞が腹腔内にこぼれ、腹壁や内臓の表面を覆っている腹膜に転移するのだ。まるで種を播いたように広がるので、この転移は「腹膜播種」と呼ばれている(図1)。

「腹膜播種は胃がんでも起こりますが、胃がんの腹膜播種に対して、TS-1の内服と、パクリタキセルの経静脈投与と腹腔内投与を組み合わせた治療が行われていて、それがよい治療成績を挙げています。そこで、膵がんの腹膜播種に対しても、この治療が効果的なのではないかということで、臨床研究が始められているのです」

内服したTS-1と、静脈に点滴投与したパクリタキセルは、血液に入って全身に送られ、その一部が腹膜のがんに作用する。一方、腹腔内に投与されたパクリタキセルは、腹膜のがんに直接的に作用する。血液で運ばれてくる抗がん薬に比べると、その濃度は圧倒的に高く、強い治療効果が期待されている。

また、パクリタキセルは分子量が大きいため、腹膜からすぐには吸収されず、長時間にわたって腹腔内にとどまっている。それも治療効果につながっているようだ。

■図1 膵がんの腹膜播種

3週を1コースとする治療を繰り返す

■図2 「TS-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内併用投与療法」の治療スケジュール21日間を1コースとし、2コース毎に効果判定を行う。有効な場合は継続する

この併用療法では、どのようなスケジュールで抗がん薬を投与するのだろうか。

「胃がんの腹膜播種に対する治療で実績を挙げているので、使われている抗がん薬の種類も、投与量も、投与スケジュールも、胃がんの腹膜播種で行われている治療とまったく同じです」

TS-1は2週間連日服用して、1週間休薬。パクリタキセルは、経静脈投与も腹腔内投与も、週1回投与を2週連続して行い、1週休む。そして、3週を1コースとするこの治療を繰り返していくのである(図2)。

■図3 腹腔内投与の方法

腹腔内投与のためには、薬剤の注入口であるポートという器具を、腹部の皮下に植え込む手術が必要になる。ポートからつながっているカテーテルを腹腔内に留置しておき、体の外から点滴用の針をポートに刺して、抗がん薬を腹腔内に注入するのである(図3)。

 

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