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ただし、効果は限定される。そして治療は新しい個別化治療へ
転移性膵がんにも希望の光か、膵肝同時動注療法という新手の登場

監修:平山 敦 札幌厚生病院第2消化器科部長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2012年1月
更新:2013年4月

  
平山敦さん
動注化学療法を推進してきた
平山敦さん

難治がん中の難治がんといわれる膵がんにも、希望の光が見えてきました。まだ標準治療ではありませんが、膵肝同時動注療法と呼ばれる治療法が高い効果を見せているようです。しかし、研究が進むにつれ、意外な展開になっています。


膵がんは、早期発見が難しく、手術できない例が多く、しかも進行が早く、予後がきわめて悪いことで知られています。たとえ手術できても、7割が再発するといわれ、日本膵臓学会の集計によれば膵がんの5年生存率は9.5パーセントです。

札幌厚生病院第2消化器科部長の平山敦さんは言います。「第2消化器科は、全国でも少ない膵がんと胆道がん専門の診療科です。ほとんどが紹介ですが、9割以上は4期の患者さんです。他のがんなら大きさ1センチのがんを見つければ早期がんですが、膵がんでは進行がんです。1センチを越えたら転移している可能性もあり、もし肝転移なら何もしなければ平均予後(生存期間)は3.8カ月です」

膵がんの場合、転移でいちばん多いのはこの肝転移です。進行がんの7割以上で起こります。次は、がん性腹膜炎、3番目は肺転移で、こうした転移、とくに肝転移が命を縮めるもとになるのです。

これは何とかしなければと、平山さんは考え、この壁を打破すべくさまざまな治療の開発に取り組んできました。

動注療法の利点を生かして

[膵がんの原発巣に対する治療]

膵がんの原発巣に対する治療

治療する前の膵がん(左)は、治療16カ月後(右)ほぼ消失

[転移性肝がんに対する治療]

転移性肝がんに対する治療

肝転移したがん(左写真中、左側の灰色部分が肝臓。
その中で黒丸部分ががん)は、治療16カ月後(右)ほぼ消失

平山さんが膵がん患者さんの予後を延ばそうと取り組みだしたのは9年前。着目したのは膵がんの死因です。

「膵がんの場合、肝転移による肝不全や、血管内凝固症候群といって、がんの量が多くなると血管内で血液凝固が起こり死亡の原因となります。また、がん性腹膜炎による消化管閉塞や敗血症(細菌感染が全身に及んだ状態)も死亡の原因となります。この2つで膵がん死因の9割を占めています。そこで、この2つを抑えてやれば予後が延びると考え、考案したのが膵肝同時動注療法です」

膵肝同時動注療法とは、膵臓と肝臓に栄養を送っている主力の動脈にカテーテルを駆使して抗がん剤を選択的に注入しがんをたたく治療法です。膵臓と肝臓へ直接抗がん剤を高濃度に注入し、原発巣と肝転移を特異的に抑え、原発巣の周囲への浸潤で生じるがん性腹膜炎と肝転移を抑えるというものです。動注療法は、局所に抗がん剤を注入するので、入れた抗がん剤は膵臓と肝臓で高濃度を維持し、肝臓で代謝されるため、全身へはあまり回らないので副作用が出にくいのが特徴です。

複雑な血流改変をシンプルに

[膵臓をめぐる血管の様子と平山式血流改変術]
膵臓をめぐる血管の様子と平山式血流改変術

血流改変の方法はいくつかあるが、A法は、腹腔動脈側にカテーテルを入れ、合流地点の上腸間膜動脈側の血管を塞栓剤を入れて血流をせき止める。こうして抗がん剤を腹腔動脈からのみがんのところへ流れるように誘導する

これは平山さんが考案したものではありません。時計台記念病院の本間久登さん(現札幌共立病院理事長)が編み出しものです。ただし、この動注療法は膵肝をめぐる血管の血流を複雑に変えてやる必要があります。これは血流改変術と呼ばれますが、血管の要所要所を塞栓物質で詰めて血液の流れを大きく変えて、抗がん剤ががんの元へ行くように誘導するのです。本間さんが考え出したこの血流改変術は恐ろしく複雑で、それがために誰1人追試に成功していなかったのです。そこで、平山さんは他に方法がないかと考えました。

「血流改変術が複雑な原因の1つは、胃や十二指腸に抗がん剤を入れないようにしたためです。抗がん剤で胃や十二指腸が粘膜障害で壊死する恐れがあるからです。当時使っていた抗がん剤にその危険性があったのです」

そこで、平山さんは発想を変えて、粘膜障害を起こしにくい抗がん剤を使えばいいのではないかと考えました。当時、膵がんの治療薬として注目されていたジェムザール()がまさにこれで、シスプラチン()もこの障害を起こしにくい薬でした。しかもこの2剤は非常に相性がよかったのです。

使う薬はこの2剤としました。そして平山さんは、本間式よりもずっとシンプルで、血管造影に従事する医師ならある程度可能な方法を考え出したのです。

ジェムザール=一般名ゲムシタビン
シスプラチン=一般名

発想を変えてチャレンジ

[動注化学放射線療法、化学放射線療法、化学療法の投与方法]

動注化学放射線療法
ゲムシタビン 200~800mg / 30~60分 / 2週間
(放射線治療中は毎週投与)
シスプラチン 10mg / 30分 / 2週間
(放射線治療中は毎週投与)
放射線
(3門照射)
40~45 グレイ / 16フラクション / 4週間
(2.5グレイ / フラクション/ 日 週4日)
化学放射線療法
ゲムシタビン 1000mg / 30分 / 3投1休
(放射線治療中は5-FU()250mg 週4日)
放射線
(3門照射)
40 グレイ / 16フラクション / 4週間
(2.5グレイ / フラクション/ 日 週4日)
化学療法
ゲムシタビン 1000mg/m2 / 30分 / 3投1休

膵臓の周囲には2つの大血管があります。上腸間膜動脈と呼ばれる血管と、腹腔動脈と呼ばれる血管の2つです。上腸間膜動脈は腸に、腹腔動脈は肝臓と脾臓と胃にいっており、この2つの血管は膵臓で合流しているのです。ですから、どっちの血管側から抗がん剤を入れても、膵臓に到達できなかったり、合流点で別の血管からの血流で薄まってしまったりしてしまい、効果が得られにくいのです。

そこで、平山さんが考えたのは、カテーテルは腹腔動脈側に入れ、合流地点の上腸間膜動脈側の血管は塞栓剤を詰めてせき止めたのです。こうして抗がん剤を腹腔動脈からのみがんのところへ流れるように誘導したのです。

しかし、そうはいっても、胃や十二指腸に流れていった抗がん剤で粘膜壊死が起これば大変です。そのため平山さんは、安全を期してジェムザールとシスプラチンの量を事故が起こりえない最少量(200ミリグラムと10ミリグラム)から開始し、ジェムザールの量だけを徐々に10例単位で200ミリグラムずつ増やしていきました。結局、ジェムザールの標準量1000ミリグラムになったのは2007年ですが、何の問題も起こらなかったそうです。

ただし、この動注療法の効果については予想外で、明らかに効く例と効かない例があることがわかったのです。実はこの動注療法は、抗がん剤だけではなく、放射線療法も併行して行っていて、正確には膵肝同時動注化学放射線療法と呼ばれる治療法です。

5-FU=一般名フルオロウラシル


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