患者さんに朗報! 高難度の膵切除が腹腔鏡で可能になった

監修:三澤健之 東京慈恵会医科大学外科学講座准教授
取材・文:斉藤勝司
発行:2010年9月
更新:2013年4月

  
三澤健之さん
東京慈恵会医科大学
外科学講座准教授の
三澤健之さん

技術的に高難度の膵腫瘍切除。
そこに東京慈恵会医科大学外科学講座准教授の三澤健之さんが腹腔鏡で挑み、手術器具の進化と高い技術力の獲得により腹腔鏡下での手術を可能にした。
患者さんの体の傷は小さく、出血量も少なくてすみ、高いQOLの維持とがんの早期発見が可能になっている。


手術の適応は良性、低悪性度の腫瘍

写真:挿入口となる器具「トロッカー」

右の4つが鉗子などの手術器具を入れるための、挿入口となる器具「トロッカー」

写真:トロッカーから腹腔鏡や鉗子が挿入され、手術が始まった

トロッカーから腹腔鏡や鉗子が挿入され、手術が始まった

手術は、腹腔鏡や拑子などの手術器具を挿入する、「トロッカー」と呼ばれる挿入口を入れることから始まった。まずへそのところを小さく切開し、1つ目のトロッカーを挿入。次にここから二酸化炭素ガスを入れて腹腔内を膨らませ、広い術野を確保する。さらに次々に切開しそこへトロッカーを挿入し、ようやく腹腔鏡で腫瘍を切除する準備が整う。

この日、手術を受けるのは46歳の男性。膵臓にできた腫瘍を切除する。腫瘍は健診で行われた超音波検査で見つかったという。

執刀に当たった東京慈恵会医科大学外科学講座准教授の三澤健之さんは、腹腔鏡下手術の適応についてこう説明する。

「腹腔鏡下膵切除術の適応となるのは、膵臓にできた良性、もしくは低悪性度の腫瘍です。放置すれば、将来がん化するようなものも含まれます。ただし、膵臓はお腹の最も深いところ(後腹膜腔)に位置していることから、病理検査のために組織を採取することが難しく、また、画像診断だけでは良性腫瘍か、悪性腫瘍(がん)かを正確に診断することも難しい。そのため悪性腫瘍が疑われる場合でも、腹腔鏡下膵切除術を実施することによって確実な組織診断が得られるわけです」

これまではがんになる可能性が疑われていても、患者さんの体への負担が大きい開腹手術は躊躇され、経過観察が選択されることが多かった。結果的に良性腫瘍であれば、経過観察という選択も間違っていなかったことになるが、なかにはいたずらにがん化させてしまうこともある。良性腫瘍であったとしても、定期的に精密検査を受けなければならず、時間や費用を浪費し、不安が継続することを考えると、患者のQOL(生活の質)を低下させることになる。

その点、腹腔鏡下膵切除術は、開腹手術に比べ、患者への負担は少ないため、良性か悪性かを判断できない症例では、まず腹腔鏡下膵切除術を実施し、そこで摘出された組織を用いて確定的な病理検査が行われる。

実際、この日の手術を受けた患者も、良性腫瘍だと考えられつつも、悪性腫瘍の疑いは否定できないため腹腔鏡下膵切除術を実施することになったという。

患者の体への負担は少なく7日で退院可能に

写真:腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術では、傷が小さいため、患者さんの体への負担が少なく膵腫瘍の切除ができる

写真:腹腔鏡下膵切除術で使用する鉗子

腹腔鏡下膵切除術で使用する鉗子

腹腔鏡下膵切除術は、開腹手術に比べどの程度、患者さんの体への負担は少ないのだろうか。

「まず術後の入院期間で比較すると、開腹手術では2週間程度の入院期間を要するのに対し、腹腔鏡下膵切除術では1週間から10日間程度です。術中の出血量も少なく、開腹手術の場合、300㏄程度の出血があるのに対して、腹腔鏡下膵切除術では60㏄程度と非常に少なく、われわれの施設では輸血が必要になったケースもありません。さらに手術の侵襲()が少ないため術後の炎症反応も低く抑えることができています」

お腹に残る傷も、小さな穴4つだけなので、外見の見た目にもさほど影響がない。

ただし、開腹手術と異なり、肉眼で見たり、直接、手で触ったりして臓器を切除できないため、慎重に進めることから、手術時間が長くなることもある。その理由について、三澤さんはこう説明する。

「出血した場合、開腹手術であれば手で押さえることができますが、腹腔鏡下膵切除術ではこれができない。そのため出血をさせないように、より慎重に進めなければなりません」

侵襲=外科手術などによって体を切開したり、薬剤の投与によって体に変化をもたらす行為

腹腔鏡下手術でも脾臓温存が可能に

実際、この日の手術も、1つひとつの所作が非常に慎重に進められた。

前述の通り、膵臓は腹腔の後ろ側にあるため、腹腔鏡を入れただけでは、膵臓の様子は確認することができない。

そこで、まず胃に付随した大網(網脂)を切開して、胃の後ろ側で膵臓を露出させた後、膵臓の裏側に隣接した脾臓につながる脾動脈、脾静脈を膵臓から引き離していく。脾動脈、脾静脈のような太い血管を傷つけないのはもちろんのこと、周囲に張り巡らされた細い血管も、電気メスで塞ぎながら切開を進めていく。

「脾動脈、脾静脈が密着しているため、膵臓を切除する場合は、脾臓も一緒に摘出することが一般的です。しかし、脾臓を切除すれば、患者さんのQOLを低下させてしまいます。ですから、手術の難度は高くなりますが、脾臓を温存し、脾動脈、脾静脈を膵臓から引き離しました」

脾臓には、2つの重要な働きがある。1つは血中の古くなった血小板を壊す働きであり、脾臓を失うと血中の血小板数が増加し、血栓ができやすくなってしまう。そのため脾臓を摘出した患者さんは血小板数を抑える内服薬を飲み続けなければならない場合もある。

もう1つは免疫に関係する働きだ。脾臓は「体内最大のリンパ節」ともいわれるように、脾臓を摘出すると免疫力が落ちてしまうことがある。細菌感染、とくに肺炎球菌に対する抵抗力が落ちると考えられており、肺炎球菌のワクチン接種が推奨されている。したがって、三澤さんのように脾臓を温存するのが理想的であるが、手術の難度が高まるために、まだ例外的なようだ。


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