膵臓がんの治療の中心は化学療法か化学放射線療法か
ジェムザールを凌ぐ治療法の研究が着々進む
国立がん研究センター中央病院
肝胆膵内科医長の
奥坂拓志さん
膵臓がんで治癒を目指すには手術を受けるしかないが、その手術ができる人はわずか2割。しかも手術をしても成績はよくない。
したがって膵臓がんの治療の中心は手術以外ということになるが、では、化学療法と化学放射線療のどちらがいいのだろうか。
手術できる膵臓がんはわずか2割
[がん治療における外科治療の割合]
膵臓がんは“超難治がん”といわれるほど非常に厳しいがんで、根治できる治療法は手術だけという状況である。とはいえ、効果の期待できる薬も着実に開発されつつある。
国立がん研究センター中央病院の肝胆膵内科医長である奥坂拓志さんによると、同院では、膵臓がんの患者のおよそ2割が手術できる状態で、実際に手術を受けているという。残りは、約3割が局所進行がんで、約5割が遠隔転移のあるがんである。この割合は、全国的にあまり変わらないと、奧坂さんは話す。
「手術できる膵臓がん」の条件を示すと、次の2点になる。1つは転移がないことで、もう1つは膵臓の近くにある大事な血管にがんが広がっていないことである。これらの双方を満たす膵臓がんは、ステージ(病期)1か2に分類される。
転移はないが、がんが大事な血管に広がっている膵臓がんは3期(局所進行がん)、転移のある膵臓がんは4期(転移がん)に分類され、手術の適応にはならない。
ただし、前記のステージ分類は国際的なそれで、日本膵臓学会(国内)では別の分類法を採っている。たとえば、国際分類の3期は国内分類のほぼ4a期に相当する。本稿でのステージ分類は国際分類にのっとるが、採用している分類法は医療施設や医師などによって異なるため、説明を聞く際などは注意する必要がある。
3期の治療法はジェムザールか化学放射線療法
手術ができない3期と4期の膵臓がんに対する治療法は、原則として、化学療法(抗がん剤治療)か化学放射線療法(抗がん剤治療+放射線治療)である。ただし、化学放射線療法は3期に対してのみ行われている。
以下で3期、すなわち局所進行がんに対する治療法を詳しく見ていこう。奧坂さんは次のように話す。
「3期の膵臓がんに対する標準治療は従来、化学放射線療法であるといわれていました。その場合の抗がん剤は5-FU(一般名フルオロウラシル)が主流で、放射線治療は体外照射です。
ところが近年、ジェムザール(一般名 塩酸ゲムシタビン)という新しい抗がん剤が開発されて以降は、放射線治療は必ずしも必要ではないと考える専門医も増えてきました」
そのため、化学放射線療法と化学療法単独のどちらがより良いか混沌としている状況で、治療法は施設によって異なっているようだ。
ただし、「化学療法、すなわちジェムザールだけの治療を行っている施設が圧倒的に多いかもしれません」と奥坂さんは推測する。
化学療法が広がっている背景には、主に3つの理由がある。
項目 | グレート3以上の発現率 |
---|---|
白血球減少 | 27.30% |
好中球減少 | 36.40% |
ヘモグロビン減少 | 9.10% |
疲労感 | 18.20% |
食欲不振 | 27.30% |
悪心・嘔吐 | 9.10% |
1つは、ジェムザール単独でも相応の効果が得られるのではないかという現場の医師の実感。2つ目は、放射線治療には1カ月半から2カ月程度の入院または通院が必要である点。3つ目は、放射線治療の副作用である。
5-FU+放射線治療の化学放射線療法を行うと、5-FUの副作用も起こりうるが、嘔吐や食欲不振などは放射線治療の影響が大きいのではないかと奧坂さんは話す。
これに対し、ジェムザールは副作用が少なく、多くの場合、通院で治療を受けることができる。ジェムザールの主な副作用は白血球の減少だが、感染症が起こる程度まで減少することは少なく、対応策もある。こうしたことも、ジェムザールが使われるようになっている理由の1つだろう。
3期にジェムザールが功を奏するデータも
ガイドライン(治療指針)では、3期の膵臓がんの治療法はどのようになっているのだろうか。
「現在のガイドラインには、化学放射線療法が選択肢にあることを患者さんにお話しすべき旨が書かれています」(奧坂さん)
また、3期の膵臓がんに対する治療法で、化学放射線療法と化学療法単独を比較した臨床試験が1つだけある。それはフランスのグループが研究した比較試験で、5-FU+シスプラチン(商品名ランダまたはブリプラチン)+放射線治療とジェムザールの単独治療を比較している。結果はジェムザールの単独治療のほうが効果が高かった。
だが、問題が2点ある。1つは、化学放射線療法に使用された抗がん剤が5-FU+シスプラチンの2剤で、標準的でなかったこと。もう1つは、試験数が少なく、かつ中途で終わっていること。これらの点から、信頼性は必ずしも高くはないと見る専門家も少なくない。
また最近では、化学放射線療法を行う前に、まず抗がん剤治療だけをしっかり行うのがよいのではないかという意見も出ている。
「放射線治療は局所治療ですから、それをしている間に遠隔転移が起こる可能性もあります。遠隔転移を避けるために、全体をコントロールできる抗がん剤治療をしっかり行って、そのあとで抗がん剤治療と放射線治療を行うのがいいのではないか」(奧坂さん)
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