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がんが縮小し、手術不能のがんでも手術が可能になることも!
ポイントは副作用を極力抑える。膵がんの「術前化学放射線療法」

監修:谷 眞至 和歌山県立医科大学第2外科講師
取材・文:増山育子
発行:2012年10月
更新:2013年5月

  

谷眞至さん

「再発・転移が多い膵がんの
ために術前化学放射線療法を
はじめました」と話す
谷眞至さん

診断時にステージが進んでいることが多い膵がんは、再発率が高く遠隔転移も多い。この難題をなんとか解決するべく、術前化学放射線療法という治療が始められた。この治療によってがんが縮小し、切除不能だった患者さんが手術可能となるケースも出てきているという。


治療が難しい膵がん

[図1 膵がん治療の手順]
図1 膵がん治療の手順

 
[図2 膵がんの特徴]
図2 膵がんの特徴

膵がんは他のがんと比べて浸潤、転移しやすい特徴がある。通常のがんの場合、2㎝以下であれば、早期がんとして扱われるが、膵がんの場合、2㎝以下でも浸潤・転移していることが多く、早期がんとはいえない

膵がんは、腫瘍の大きさと浸潤の程度、リンパ節転移や遠隔転移の有無によりステージ1~4(ステージ4はさらに4aと4b)に分けられ、どのステージにあるかで治療方針が決定される(図1、図2)。

膵がんを根治させる唯一の治療方法は手術だが、手術でがんが切除できるのはステージ1~3とステージ4aのうち膵臓の中にがんがとどまっている場合だ。

ステージ4aでも大きな血管や周りの臓器にがんが及んでいれば手術はできない。これを切除不能局所進行例と呼び、治療は化学放射線療法または化学療法となる。肝臓や腹膜に転移したステージ4bも切除不能。化学療法の対象となる。

「膵がんでは診断時にステージが進んでいるものがとても多く、再発の頻度も高いので、手術できたとしても治療成績は極めて厳しいです」

と和歌山県立医科大学第2外科講師の谷た にまさじ眞至さんは話す(図3)。

「そこで、手術に抗がん剤や放射線などを加えていかに集学的に治療をするかということが重要になってきます。術後については、ジェムザール()を用いた術後補助化学療法の有効性と限界がわかってきました。では、次に術前ではどうかですが、化学療法や化学放射線療法を実施した後に切除することが提唱されています」

[図3 がんの死亡率年次推移]
図3 がんの死亡率年次推移

Cancer statistics in Japan(2007) 国立がん研究センター がん対策情報センター

ジェムザール=一般名ゲムシタビン

膵がんの化学放射線療法で選ばれる薬剤は?

ここで、膵がんにおける化学放射線療法についておさえておこう。

対象となるのは切除不能局所進行の場合。手術ができない患者さんに対して、放射線(1回1.8~2グレイ、総線量50.4~60グレイ)と5-FU()を用いた化学療法を併用するのが標準的だ。

膵がんの化学療法の標準治療薬であるジェムザールを用いた化学放射線療法は、ジェムザール単独の化学療法と比較して、生存期間を延長することが明らかになっている。ただジェムザールを使う場合、適切な投与量がわかっていないため、施設によって投与量がまちまちというのが現状だ。

また、TS-1()という選択もある。TS-1について谷さんは「かねてより有効な薬とされていたのですが、最近、GESTという臨床試験で効果がジェムザールと同等であることが確認されました」と説明する。

TS-1は5-FUの薬効を高めて副作用を抑える工夫がされた経口薬で、2006年に膵がんに適応となった。体表面積から決められた投与量を朝・夕食後の1日2回、28日間飲み続けた後14日間休薬する。

これを1クールとして必要なだけ繰り返すのが、通常の投与スケジュールである。

このTS-1と放射線を併用した第2相試験も行われ、無増悪生存期間()中央値9.7カ月、全生存期間中央値16カ月と良好な成績を得ている。この結果からTS-1を使った化学放射線療法は、局所進行膵がんの治療として有望視されているのだ。

「TS-1と放射線を併用する第2相試験の計画書では、TS-1は通常の飲み方とは違い、放射線を照射する平日に1日おきに服薬する、という特殊な方法を採用しています。この投与方法での効果と安全性は確認されていますので、当院ではTS-1を使った化学放射線療法を術前治療として行いました」

5-FU=一般名フルオロウラシル
TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
無増悪生存期間=病気が進行することなく安定した期間

ボーダーラインの患者さんに術前化学放射線療法を

[図4 膵がんが転移・浸潤しやすい理由]
図4 膵がんが転移・浸潤しやすい理由

膵臓は、周囲に血管やリンパ管がはりめぐらされているため、浸潤・転移しやすいと考えられている。また、膵がんは他のがんと比べても、がんに関わる遺伝子に傷がたくさんついており、これも浸潤・転移しやすり要因の1つと考えられている

 
[図5 膵がん切除の症例別予後]
図5 膵がん切除の症例別予後

和歌山県立医大病院で実施した術前化学放射線療法のレジメンは、放射線を1回につき2グレイ、月曜日~金曜日の週5日で5週間、総線量50グレイ照射する。それに併用する化学療法はTS-1を80㎎/㎡、日・月・水・金曜日に服薬する隔日投与だ。これを21名の患者さんに実施した。

谷さんによると「全員が術前化学放射線療法を完遂できました。病気の進行のために患者さん2人が手術を断念しましたが、それ以外の人は手術を行いました」という。

これらの患者さんはステージ4aの人が多く、すべてがんがどこかの動脈に接しており、「切除できるかどうかぎりぎり」という症例だった。

「通常、このような患者さんは手術を行っても、見た目にがんがなくなったようでも、顕微鏡レベルでは残っていることがあり、再発率が高くて遠隔転移も多いのです。それをなんとか阻止しようと考え、術前化学放射線療法という方法を始めました。また治療によってがんが縮小し、切除不能とされたものが手術が可能となることも期待できます」(図4、図5)


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