まずは実績のある医療機関へ。臨床試験への参加も1つの手
過酷な難治性がんとどう闘うか~難治性がん最新レポート
医療が進歩してきたとはいえ、膵がんに代表されるように治療するのが難しいがんがある。それが難治性がんと呼ばれるものだ。
難治性がんの今は、そして今後は──。難治性がんを患ったら、患者はどうしていけばいいのだろうか。
TS-1後の治療がない
「がんが見つかって2年半。手術の後は抗がん剤とサプリメントで命をつないできたけれど、もう後がありません。治療をしようにも保険で使える薬がない。エビデンス(科学的根拠)のともなわない民間療法に頼らざるを得ない状態です」
こう語るのは神奈川県在住の膵がん患者、宅間信子さん(仮名、61歳)の実姉の篠田恵子さんである。
信子さんにがんが見つかったのは2010年3月のことだ。正月のハワイ旅行から帰ると、極端に食欲が低下し、食後に気持ちが悪くなり、背中に痛みが現われた。近所の内科病院で消化剤をもらうが状態は変わらない。再度、病院を訪ねMRI検査を受けると直径1.8㎝、2a期の膵がんが見つかった。
手術が可能だったため、信子さんは4月に神奈川県の大学病院でがんを切除する。そ
の後、再発防止のためにジェムザール(*)による抗がん剤治療が行われるが、皮肉なことに治療終了直後の検査で、肝臓に3個の転移が発見される。
今度はTS-1(*)による治療が行われた。サプリメントで吐き気などの副作用が抑えられたこともあり、この薬は見事な効力を示した。信子さんはその間海外旅行にも行き、スポーツジムにも入会するほど体力を回復する。
しかし今年5月、再び体調が悪化し、腹部に鈍い痛みが現われた。抗がん剤の効力が限界に達し、肝臓の転移がんが増悪を始めたのだ。だが、もう信子さんに治療の選択肢は残されていない。
「転移がわかった時点でネットで調べてラジオ波による焼灼療法や重粒子線なら可能性があるのではと考えました。それで治療施設に問い合わせたんですが、いずれも膵臓からの転移がんは対象外だと告げられました。現在はモルヒネで疼痛を抑えながら白血球を増殖して体内に戻す免疫療法に取り組んでいます。しかしどれだけ効果が得られるか……。苦しまずに生をまっとうしてくれることを祈るばかりです」と、篠田さんの言葉は重い。
*ジェムザール(後発品も出ている)=一般名ゲムシタビン
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
発見が難しく治療法も少ない
実績のある病院を選んで
ください」と呼びかける
眞島喜幸さん
ここ数年、がん治療は格段の進歩を遂げ、がんの治癒率は向上し続けている。2000~02年の地域がん登録をベースにした全がんの5年生存率は50%を上回り、とくに乳がん、前立腺がん、精巣がん、甲状腺がんなどの5年生存率は80%を上回るレベルに達している(図1)。
しかし、その一方で依然として治癒が困難ながんが残されているのも事実だ。肝がん、胆道がん、膵がん、進行肺がん、脳腫瘍……。これらのがんの5年生存率はいずれも50%を下回り、進行がんになると生存率は極端に低くなり、治療の選択肢も限定される。そうした難治性がんの象徴ともいえるのが、信子さんが患う膵がんだ。
「自覚症状がなく、がん細胞が転移しやすい性質があるために、多くの場合、発見時にはすでに進行がんになっている。手術が適用されるのは患者の20%で、5年生存者は、そのなかのさらに20%にすぎません。膵がんは医療の進歩から取り残されたがんの典型といっていいでしょう」
こう指摘するのは、日本で数少ない膵がんの患者会、パンキャンジャパンを主宰する眞島喜幸さんである。
眞島さんは妹さんが膵がんで亡くなったことを契機に06年にパンキャンジャパンを立ち上げ、昨年からは膵がん、肺がんなどの死亡率が全国でもっとも高い北海道で、「難治性がん啓発キャンペーン」を展開している(写真2、3、コラム参照)。
膵がんをはじめとするこれら難治性がんの特徴について眞島さんはこう語る。
「早期発見の手法が確立されていないために、手術ができないケースが多いことに加えて、その後の治療法がきわめて限定されている。そして、その治療にきわだった効果が認められないのも、難治性がんに共通した特徴といえるでしょう」(図4)
難治性がん啓発キャンペーンin札幌2012を振り返って
孤立しがちだった患者がつながりあうことができた
大島寿美子 難治性がん啓発キャンペーン・実行委員長
(北星学園大学文学部心理・応用コミュニケーション学科教授)
北海道は難治性がんの中でも膵がん、肺がんの死亡率が全国でもトップの地域です。私が主宰している婦人科がんのサポートグループ「アスパラの会」が、そこでパンキャンジャパンや北海道の他の患者会とともに難治性がん啓発キャンペーンを共催したのにはいくつかの理由があります。
まずは卵巣がんというやはり5年生存率が低いがん患者の支援をしてきた経験から、「難治性のがん」について一般の人たちにもっと知って欲しかったこと。また、多くの難治性がんの患者や家族、医療者、ボランティアが共に歩き、最先端の治療法について勉強する中で絆を深め、希望を明日につないでいきたいと思ったのです。
北海道においてがん患者の支援とサバイバーシップに関する研究をしてきましたが、患者の立場に立ったがん対策を進めるためには患者、医療者、市民が手を携え、患者の思いを共有していくことが大切です。その共有の輪を広げたいという気持ちもありました。
幸いにしてキャンペーンには何百人もの人たちに参加していただき大盛況となりました。嬉しかったのは、これまでは孤立しがちだった患者さんたちが一緒に「歩く」ことを通じてつながりあうという光景を目の当たりにすることができたことです。また、難治性がんに取り組む医療者の方々の熱心な眼差しに触れることができたことも大変勇気づけられました。このキャンペーンがきっかけとなり「難治性がんの対策」が今年4月に施行された北海道がん対策推進条例に条項として盛り込まれました。北海道から始まったこのキャンペーンをさらに大きく広げ、全国の難治性がん患者の希望へとつなげていくために、これからも患者会活動とともに、積極的にキャンペーンを展開していければと思っています。
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