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膵がん術後補助療法:ASCO-GI(米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム)で画期的発表 膵がん術後の補助化学療法試験でTS-1が標準治療薬よりも優越

監修●上坂克彦 県立静岡がんセンター副院長兼肝胆膵外科部長
取材・文●伊波達也
発行:2013年5月
更新:2019年11月

  

膵がん治療を研究する県立静岡がんセンター副院長の上坂克彦さん

膵がんは、数多いがん種のなかでも最も予後が悪いもののひとつとされている。そのような状況の中、2013年1月のASCO-GIで日本人医師が画期的な発表をして注目された。手術後の補助化学療法で、TS-1を従来の標準治療薬と比較した臨床試験の結果だ。

膵がんの年間罹患数、死亡者数はともに30,000人近く、死亡者数は肺、胃、大腸、肝に次いで5位となっている。早期発見が難しく、手術が受けられる人は20~30%ほどで、術後に約7割が再発する。さらに手術後の補助療法として標準治療であるジェムザールという抗がん薬治療を受けても5年生存率は20%程度とかなり厳しい病気だ。

ジェムザール=一般名ゲムシタビン

標準治療に対する「非劣性」確認の試験で……

■表1 ジェムザールとTS-1の比較臨床試験

ジェムザール TS-1
2年生存率 53% 70%
無再発生存期間 11.2カ月 23.2カ月

2013年1月のASCO-GI(米国臨床腫瘍学会 消化器がんシンポジウム)で、膵がん治療に光が見える画期的な臨床試験結果が発表された。発表者は県立静岡がんセンター肝胆膵外科部長の上坂克彦さんだ。この臨床試験は、膵がん手術後の補助化学療法において、TS-1と現在の標準治療であるジェムザールを比較した第Ⅲ相試験だ。全国33施設、360人を対象に2007年4月から始まった。

「当初は、TS-1のジェムザールに対する非劣性(標準治療に対して遜色のない効果)を確認するのが目的でしたが、2012年8月の中間解析の時点で、全生存期間および無再発生存期間においてTS- 1の優越性が確認されたのです」

試験をした上坂さん自身にも「驚き」と映った結果だった。これまでの治療法を見直すほどのインパクトがあるため、すでに準備が進んでいた日本の「膵がんガイドライン」の改訂が、急遽延期となる異例の事態となった。

「中間解析は患者さんの登録が終わって1年後、最終解析は2年後だろうと予測していたのです。しかし、1年後に亡くなられている方が予想以上に少なく、2年後の中間解析となりました。これは驚きと同時に喜ばしいことでした」

 中間解析の時点で効果安全性評価委員会からただちに試験結果の公表を指示され、発表したのが、今回のASCO-GIでの報告だ。

TS-1群のジェムザール群に対するハザード比(ジェムザール群を100とした場合のTS-1の値)が0.56、つまりTS-1投与がジェムザール投与よりも死亡リスクを44%も減らすということがわかった。2年生存率は53%(ジェムザール)対70%(TS-1)。無再発生存期間についても中央値はジェムザール群が11.2カ月、TS-1群が23.2カ月となった(表1)。

「今回の結果を検証すると、TS-1は使い始めた時点から強く再発を抑制していることがわかります。理由ははっきりしませんが、強い抗腫瘍効果があることは明らかです。再発は目に見えない微小な転移により起こりますから、手術によりがん細胞数が極めて少なくなった状態で、抗腫瘍効果の強いTS-1が長時間効いたのがよかったのかもしれません」

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

「5年生存率50%も夢でないかも」

■表2 ジェムザールとTS-1の完遂率

ジェムザール TS-1
完遂率 58% 72%

膵がんの手術は、周囲の血管やほかの臓器が複雑に影響し大掛かりなものとなるため、手術後の補助化学療法には抗腫瘍効果が強くても毒性の強い薬は使いにくい。しかしTS-1であれば7割の人が治療を完遂できるため、補助療法に適した薬物ということができるという(表2)。現在、上坂さんの病院では、経口摂取ができなかったり、下痢の副作用がひどい患者さん以外は、全例にTS-1による補助化学療法を実施している。

現在、期待されているのは、2年半後に判明する5年生存率が、ジェムザールの20%と比べてどこまで伸びるかだ。

「膵がんにおける5年生存率50%というのは夢のまた夢だと言われてきました。しかし、今回の結果を踏まえると、将来的にはあながち夢ではなくなるかもしれません」

膵がん治療の選択肢が増えた

ASCO-GIで発表する上坂さん(2013年1月)

今回の結果により膵がんにおける治療の展望がひらけたと上坂さんは話す。

「TS-1の効果が明確になったことで、ぐんと治療の選択肢が増えます。さまざまな薬の組み合わせによる治療が検討できるからです。切除不能症例も含めて、膵がんの治療が大きく進展すると思います」

欧米においては、概ね賞賛のコメントが多かったものの、下痢の副作用が多く出る傾向にある欧米人にとって、TS-1が適応できるかどうかが課題となる。

「今後は欧米においても大規模な臨床試験により有効性を確認していただきたい。膵がんに苦しむ多くの患者さんの福音となるでしょう」

上坂さんはそう話し、患者さんにアドバイスをくれた。

「術後補助療法がうまくいくためには、手術が安全な根治術として行われていることが前提です。ぜひ膵がん治療の経験豊富な施設、医師のもとで治療を受けることをおすすめします」

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