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前立腺がんと共存していくには、骨のケアが大切
前立腺がんが再発・転移しても長期のコントロールが可能に

文:佐藤威文 北里大学医学部泌尿器科学講師
発行:2009年2月
更新:2013年4月

  
佐藤威文さん
北里大学医学部
泌尿器科学講師の
佐藤威文さん

前立腺がんは現在では、もっとも生存率の高いがんだが、再発・転移ともなれば、やはり深刻な気持ちにならざるを得ない。
北里大学病院で前立腺がんを専門に診療を行っている医学部泌尿器科学講師の佐藤威文さんは、前立腺がんには再発・転移してもさまざまな治療法があり、決して悲観することはないと力説する。

外科手術後の再発と放射線治療後の再発

日本で現在、成人固形がんでもっとも高い伸び率を示しているのは、前立腺がんです。2020年には年間8万人の人が前立腺がんで死亡すると予測されており、肺がんに次いで第2位になります。しかし、前立腺がんにかかると助からないのかと言えば、そうではありません。かつては前立腺がんは助からないがんの1つでしたが、今ではもっとも生存率が高いがんになっており、決して悲観することはありません。

まず、再発とは何か、その定義からお話したいと思います。再発には、生化学的再発(PSA再発)と臨床的再発の2つがあります。PSAとは前立腺特異抗原のことで、治療後、PSA値が一定の幅で上昇したときに再発と認めることを、生化学的再発と言います。ただ、PSA再発と言っても、外科的手術をしたあとの再発と、放射線治療をしたあとの再発の2通りあります。

まず外科的手術をしたあとの再発です。手術をすると、PSA値は一旦下がります。その後上昇してきますが、一般的にPSA値が0.2を超えたら再発と言われています。一方、放射線治療後はPSA値は非常にゆっくりと、2~3年以上かけて下がります。その下がりきったところから上昇に転じた場合、最低だったラインから2.0上がったところが再発と言われています。この定義は、2005年にアメリカのフェニックスで決められた定義ですが、現在では世界的に用いられるようになっています。

次は臨床的再発です。これは画像や触診で確認される再発のことです。たとえば、局所病巣の新たな出現であったり、リンパ節転移の出現、骨転移の出現などが、画像や触診で確認された場合は臨床的再発となります。

男性ホルモンをつくれという脳からの命令をブロック

PSA再発の場合の治療法は、サルベージ(救済)、すなわち1度失敗したあと、もう1度助けてあげる治療として、放射線治療が行われます。さまざまな方向から手術した部分に放射線を当てることによって、もう1度、がんを殺せないかという治療法です。このサルベージの放射線治療の長所は、完治を得られる可能性がある唯一の方法だという点です。また、外来通院が可能だというメリットもあります。

短所は、放射線が直腸や膀胱の一部に当たり、副作用が出る可能性がある点です。また、すべての再発に適応するわけではありません。たとえば、骨転移した場合には、いくら前立腺に放射線を当てても、効果はありません。したがって、一定の条件をクリアした患者さんが、このサルベージ的な放射線治療の適応に入ってくることになります。

次にホルモン療法(内分泌療法)があります。前立腺がんは男性ホルモンによって増殖しますが、再発も同じです。ですから、男性ホルモンをつくっている精巣に対して脳からの命令を止めてしまう薬剤を使用します。リュープリン(一般名リュープロレリン)、ゾラデックス(一般名ゴセレリン酢酸塩)といった脳からの命令をブロックしてしまう薬剤を注射することによって、全身に対する効果が期待できます。

また、抗男性ホルモン剤を内服して、男性ホルモンが前立腺がんのがん細胞に入るのをブロックしてしまう薬剤もあります。こうした薬剤を単独、あるいは組み合わせることによって、一定のレベルで進行がんを食い止めることが可能になります。

ただ、こうした治療にはホルモン抵抗性という問題があります。1度再発したがんがホルモン療法によって抑えられたとしても、そこで生き残ったがんがまた増殖してきます。このような状態は「再発」ではなく、「再燃」前立腺がんといいます。

再発に対するホルモン療法は、男性ホルモンをブロックしますから、確実な効果が期待できるというメリットがあります。これはPSA再発だけではなく、臨床的再発にも、一定の頻度で確実な効果が得られます。

ホルモン療法の短所としては、男性ホルモンを除去してしまいますから、目には見えないさまざまな副作用が出てきます。また、一般的にホルモン療法では根治は得られないので、一定の頻度で再燃がんが出現してしまうという短所があります。

再燃前立腺がんの最終治療はタキサン系の化学療法

再燃前立腺がんにはさまざまな治療法があります。最終的にはタキサン系の抗がん剤が使われますが、その前に行われるオプションを簡単に説明しておきます。

まずアンチアンドロゲン除去症候群(AWS)です。ホルモン療法を行ったあと、飲み薬の抗アンドロゲン剤を使って病気を抑えるわけですが、ある一定の頻度で、がん細胞が薬の情報を逆手にとって、自分が増殖する情報に変えてしまうようなことがあります。そのとき飲み薬を止めてしまうと、患者さんは「大丈夫ですか」と言われる方が多いのですが、私たちが手持ちのカードを有効に使うためには、相手のカードを1枚ずつ読みきって、こちらのカードががん治療に有効かどうか見極めることが重要になります。要するに、抗男性ホルモン剤を止めることによってPSA値がまた下がる方が、一定頻度でいらっしゃるのです。

アンチアンドロゲン除去症候群の頻度ですが、総論として、さまざまな薬剤で大体10~50パーセントの頻度で臨床的に認められています。ですから、これによって比較的一定の割合で、時間を稼ぐことができると思います。

アンチアンドロゲン除去症候群で一時的にPSA値が下がったけれども、また上がってきた場合には、抗アンドロゲン剤の交替療法があることが、最近わかってきました。たとえばカソデックス(一般名ビカルタミド)をオダイン(一般名フルタミド)に、オダインをカソデックスにスイッチすることによって、30~50パーセントの患者さんが、8カ月ぐらい、もう1度PSA値を抑えることができるのです。私たちはここでも、新しいカードを手にできるわけです。

それでもまたPSA値が上がってきた場合には、一般的にはステロイド、エストラサイト(一般名エストラムスチン)といった薬を使って、進行を抑えます。

それでもどうしても抑えられないときや、これらを併用しながらタキサン系の化学療法に入っていきます。タキサン系の抗がん剤は、アメリカでは2004年から保険適用になっていましたが、日本では2008年の8月にようやく認められ、保険適用になりました。

[抗アンドロゲン剤 交替療法の成績]
図:抗アンドロゲン剤 交替療法の成績

Kojima S et al. J Urol 171:679-683,2004


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