ステージⅣでもあきらめない 切除不能進行胃がんに対する新しい手術法 化学療法の進化で可能となったコンバージョン手術
福地 稔さん
胃がんのステージⅣと診断されると、20年前はかなり厳しい状況だった。
しかし今、進化した化学療法と外科手術を組み合わせたコンバージョン手術(conversion surgery)が注目されており、予後を改善する報告が相次いでいる。コンバージョン手術の内容と現状を専門家に聞いた。
化学療法と手術のコラボで根治を目指す
「ステージⅣは難治性と思われていましたが、根治を目指した治療がありうるということです。長期生存を得られる人もいます。患者さんたちにとって今までとは違う光だと思います」と、埼玉医科大学総合医療センター消化管・一般外科講師の福地稔さんは、患者さんの希望につながることを強調した。
胃がんのコンバージョン手術とは、根治手術不能進行胃がんに対し、化学療法を行って腫瘍を小さくしていき、画像検査などで根治手術可能と判断された場合に外科手術で患部を切除するものだ。
福地さんは、「これまでも、ネオアジュバント(術前補助化学療法)手術とか、サルベージ(救済)手術というものがありましたが、コンバージョン手術はR0手術、つまり根治を見越して手術をするというのが、それらとの違いです」と、新しい概念であると説明した(図1)。
ネオアジュバント手術は、手術の「効果を高める目的」で行う科学療法の後に手術することで、サルベージ手術とは、根治する目的で行った放射線治療や化学療法のあとに、病巣が消失しなかったり、再発したりした場合に行うと考えられている。
サルベージは日本語では「救済」と表現され、コンバージョンは「変更」を意味する。「これは、化学療法と外科手術の集学的治療の一環です」(福地さん)。
全生存期間など 予後の改善は明らか
福地さんらは、2014年の日本胃癌学会で04年から12年までのコンバージョン手術に関するデータを発表した。
埼玉医科大学総合医療センター消化管・一般外科と群馬大学病態総合外科で行ったもので、ステージⅣの胃がん145例に*TS-1+*シスプラチン、あるいはTS-1+*タキソールの化学療法が施された。TS-1+シスプラチン群73例、TS-1+タキソール群72例の中で、それぞれ24例と16例で化学療法が奏功し、コンバージョン手術に移行可能となった。その40例を対象として治療成績や予後について後方視的(レトロスペクティブ)に検討した。
その結果、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)で、胃切除群と化学療法群との間に有意差が生じた(図2、3)。
PFSでは、中央値で胃切除群が33.7カ月だったのに対し、化学療法群が6.4カ月。OSでは、胃切除群が62.2カ月、化学療法群が14.0カ月だった。報告では「根治切除不能高度進行胃がんの化学療法奏効例に対する胃切除術に予後の改善が示された。R0手術が可能な場合には積極的な胃切除を検討すべき」と結論付けている。学会では、ほかにもコンバージョン手術の有効性に関する発表が相次いだ。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
*タキソール=一般名パクリタキセル
ステージⅣでも外科医の仕事はある
「化学療法でR0の状況までいけば、すべてとれるという結果です。それがコンバージョン手術の意義ですから」と、福地さん。
外科医の福地さんは、コンバージョン手術についてこう話す。「外科医はがんを手術で切除することが専門です。しかし、切除不能と診断された患者さんに対しても、集学的治療(がん種や進行度に応じた、様々な治療法を組み合わせた治療法)でR0にもっていけるものは切除するという外科の仕事が残っています。切除したほうが、予後がいいのは間違いありません。その部分で役に立ちたいと思います」
福地さんらのグループは、コンバージョン手術におけるR0手術とR1/2手術の比較分析も行った。R1/2手術とは、R0と思って手術してみたら、R1やR2だったという例だ。5年生存率でR0群が54.9%、R1/2群が19.4%と差がついた(図4)。
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