免疫チェックポイント阻害薬の開発も進む 治療薬が増え、選択肢が広がった進行・再発胃がん最新治療
設楽紘平さん
以前は、化学療法が効きにくいがんの1つとしてあげられてきた胃がんだが、ここ数年で効果のある薬剤が登場し、患者の治療選択肢は広がっている。進行・再発してしまった場合の治療はどう進めていくべきか。1次治療から順に段階を踏んで整理するとともに、今話題の免疫チェックポイント阻害薬の動向についても、専門家に話をうかがった。
まずHER2検査を行い、1次治療の内容が決まる
切除手術ができない進行・再発胃がんに対する化学療法は、どのように進められていくのだろうか。国立がん研究センター東病院消化管内科の設楽紘平さんによれば、治療を決めるためにまず行われるのは、*HER2(ハーツー)検査だという。がん細胞の表面に、HER2と呼ばれるタンパク質が現れているかどうかを調べる検査である。
「1次治療では、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤を併用します(図1)。HER2が陰性ならこの2剤で治療が進められ、HER2が陽性の場合には、これに*ハーセプチンを加えた3剤併用が標準治療となります。胃がんでは、HER2陽性が全体の約2割弱、陰性が約8割強を占めています」
フッ化ピリミジン系とプラチナ系にはいくつかの組み合わせがあるが、日本では、フッ化ピリミジン系の*TS-1と、プラチナ系の*シスプラチンを併用する治療が、代表的な標準治療とされてきた。
「日本で行われた臨床試験において、TS-1単独療法をTS-1とシスプラチン併用療法が比較され、併用において有効性が上回ったことから、この治療が広く行われてきました。ただ、2015年から、プラチナ系の*エルプラットが使えるようになったため、シスプラチンの代わりにエルプラットを使用するケースも増えてきています」
臨床試験では、標準治療の「TS-1+シスプラチン」と、「TS-1+エルプラット」を比較し、エルプラット併用療法の非劣性(対照群との比較で治療成績が劣っていないこと)が示唆される結果であった。
エルプラットを使うメリットは、入院しなくてもいい点にある。シスプラチンは腎臓への毒性が強いため、腎臓を守るために補液(点滴による水分補給)が必要で、投与時に3日ほど入院するのが一般的だ。その点、エルプラットならば外来で投与できる。
一方、エルプラットには、血管痛や末梢神経障害によるしびれといった副作用がある。ただ、血管痛に対しては、溶媒の量を増やして薄めて投与することで軽減できる。末梢神経障害が出た場合には、投与量の減量や休薬で対応する。
「しびれが日常生活に支障のあるレベルまで進んでしまうと、回復させるのが難しくなりますが、そこまでいかない段階で休薬すると、しびれが軽減して、再度治療を続けられることがあります」
治療を長く続けるためにも、1コース行うたびに副作用をチェックし、適切に対応していくことが大切だという。
*HER2:human EGFR-related 2=ヒトEGFR関連物質2 *ハーセプチン=一般名トラスツズマブ *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *エルプラット=一般名オキサリプラチン
ハーセプチンとの併用ではゼロ―ダも使われる
TS-1の代わりに、フッ化ピリミジン系薬剤の*ゼロ―ダが使われることもある。
「ゼロ―ダとエルプラットの併用療法は、大腸がんの治療では、標準治療として日本を含め世界中で行われています。胃がんの治療でも、選択肢の1つにはなりますが、日本人を対象にした胃がん治療に対する臨床データはあまりないため、日本ではゼロ―ダよりTS-1がよく使われているのではないでしょうか。ただ、HER2陽性患者さんで、ハーセプチンを併用する場合には、ゼロ―ダが使われることが多くなります」
これはハーセプチンを併用することの有用性を証明した臨床試験が、「ゼロ―ダ+シスプラチン+ハーセプチン」と「ゼロ―ダ+シスプラチン」を比較した試験だったからだ。そのため、この3剤併用療法が標準治療となった。
「TS-1+シスプラチン+ハーセプチン」については、有用性を示す日本の第Ⅱ(II)相試験がある。「ゼロ―ダ+エルプラット+ハーセプチン」は、ヨーロッパを中心にした第Ⅱ(II)相試験で、有用性が示されている。
「TS-1とゼロ―ダ、シスプラチンとエルプラットに大きな違いがあるわけではないので、日常臨床では、これらの中から組み合わせて使用しています。その位の柔軟性があってもよいと考えられています」
*ゼローダ=一般名カペシタビン
同じカテゴリーの最新記事
- 有効な分子標的治療を逸しないために! 切除不能進行・再発胃がんに「バイオマーカー検査の手引き」登場
- 新薬や免疫チェックポイント阻害薬も1次治療から 胃がんと診断されたらまずMSI検査を!
- ビタミンDの驚くべき効果がわかってきた 消化管がん手術後の再発・死亡リスクを大幅に減少
- 薬物療法が奏効して根治切除できれば長期生存が望める ステージⅣ胃がんに対するコンバージョン手術
- 胃がん新ガイドライン「条件付き承認」で増える治療選択 1次治療でオプジーボ承認
- 術後合併症を半減させたロボット支援下手術の実力 胃がん保険適用から3年 国産ロボット「hinotori」も登場
- 適切なタイミングで薬剤を切り替えていくことが大切 切除不能進行・再発胃がんの最新薬物療法
- 術前のスコア評価により術後合併症や全生存率の予測も可能に 進行胃がんに対するグラスゴー予後スコアが予後予測に有用
- ガイドライン作成で内科的治療がようやく整理される コンセンサスがなかった食道胃接合部の食道腺がん
- 新規の併用療法による治療効果改善に期待 ステージⅢ胃がんにおける術後補助化学療法の現状