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新規承認薬により、治療の選択肢が大幅に広がった 新ガイドラインによる進行・再発胃がんの化学療法

監修●山口研成 がん研究会有明病院消化器センター消化器化学療法科部長
取材・文●池内加寿子
発行:2017年10月
更新:2019年7月

  

「ガイドラインは治療選択の目安となるので、患者さんも知っておくとよいでしょう」と語る
山口研成さん

『胃癌治療ガイドライン』が改訂され、年内(2017年秋)には第5版が発行される予定だ。新ガイドラインでは、新たに承認された薬剤や最新のエビデンス(科学的根拠)に基づき、切除不能進行・再発胃がんに対する化学療法の薬剤やレジメンが増え、患者さんにも朗報となりそうだ。

「推奨度1」のレジメンのみ、アルゴリズムに記載

2001年に初版が発行された『胃癌治療ガイドライン2001』は、がん治療ガイドラインの先駆けともいえる存在だ。その後、数年おきに改訂され、2014年の第4版に続き、第5版が2017年秋(~年末)に発行予定となっている。

初版の発行当時、胃がんに対する有効な化学療法はないとされていたが、近年、新規薬剤の登場によって、手術できない進行・再発胃がんの化学療法は大きく前進してきた。

新ガイドラインで示される胃がんの化学療法の大きな改訂ポイントはどのような点なのか。日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン第5版作成委員会」委員で、がん研有明病院消化器化学療法科部長の山口研成さんは次のように話す。

「前回の第4版発行以降、新たにいくつかの薬剤が承認され、新しいエビデンスも加わって、治療レジメンの選択肢が広がっています。第4版では治療レジメンを『推奨度1~3』とランク分けして記載していましたが、今回は、最も推奨されるレジメンのみ『推奨度1』として、治療アルゴリズム(手順)に記載しています。それ以外の選択可能なレジメンは、推奨度(ランク)を付けずに記載し、患者さんの状態に合わせて医師が判断できるように柔軟性をもたせています」

まず、術後の補助化学療法については、「推奨度1」のレジメンが1つ増えて2つになる。

「前回までTS-1を1年間使用する方法が標準的な治療法でしたが、今回から、これにゼローダ+エルプラットの併用療法(CapeOX:カぺオックス療法)を6カ月施行するレジメンが『推奨度1』として加わります」

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム ゼローダ=一般名カペシタビン エルプラット=一般名オキサリプラチン

1次治療では、TS-1またはゼローダ+プラチナ製剤などのレジメンが「推奨度1」

手術ができない進行・再発胃がんでは、1次治療→2次治療→3次治療と進めていく一連の流れ(ライン)として化学療法が行われる。がんが縮小するか不変(SD)である間はその治療を継続し、がんが増大した場合などに、次の治療への移行を考慮する。

胃がんの場合、1次治療では、まずHER2が陽性か陰性かを調べる。HER2が陰性の場合は――。

「従来、『推奨度1』とされていたのはフッ化ピリミジン系のTS-1+プラチナ系のシスプラチンの併用療法だけでしたが、2015年にエルプラットが胃がんにも承認されるなど使用できる薬剤が増えたことから、推奨レジメンも増えています。新ガイドラインではフッ化ピリミジン系の薬剤はTS-1かゼローダ、それに加えるプラチナ系の抗がん薬はシスプラチンでもエルプラットでもよいとされ、4通りのレジメンが『推奨度1』となり、アルゴリズムに併記されます。また、大腸がんで使われているFOLFOX療法が胃がんでも保険で認められるようになったので、新たに記載されます。患者さんの全身状態(PS)がよい場合は、これらの中から患者さんの状態や薬剤の副作用などを考慮して、選択されることが望ましいと言えます」(図1参照)

HER2陽性であれば、ゼローダ+シスプラチンもしくはTS-1+シスプラチンにハーセプチンを加える。

「なお、1次化学療法で国際的な標準治療とされている5-FU+シスプラチンは、臨床試験の数も多く、世界的なエビデンスとしてはAクラスです。ただ、日本では、日本で開発されたTS-1やゼローダなどの経口薬が発達していることや、5-FU+シスプラチンは5日間連続点滴の必要があることなどから、臨床的には、患者さんを病棟に拘束せずに、経口薬を上手に併用して外来で治療できるレジメンを推奨しています」

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ FOLFOX=5-FU+レボホリナート+オキサリプラチン ハーセプチン=一般名トラスツズマブ 5-FU=一般名フルオロウラシル

頻用されているのはTS-1+エルプラット

1次治療で「推奨度1」のレジメンのうち、現在日本で最もよく使われているのが、TS-1+エルプラットの併用療法(SOX療法)だという。

「シスプラチンもエルプラットもプラチナ製剤ですが、最近、日本中でシスプラチンからエルプラットにシフトしつつあります。というのは、シスプラチンは腎障害を来しやすいため、腎障害の予防のために点滴を増やして、尿から体内で使い終わったプラチナを排泄させる必要があります。また、吐き気の頻度も高いです。そのため、TS-1やゼローダなどの経口薬と組み合わせても入院が必要になってしまいます。その点、エルプラットは同じプラチナ製剤でも腎毒性がほとんどなく、吐き気も少なくなっています。初回のみ副作用をみるために入院させる施設もありますが、2回目以降は外来で行えるので汎用性が高いのです」

TS-1+エルプラットの併用、ゼローダとエルプラットの併用(XELOX療法)、どちらにするかの選択は難しいところだというが、錠剤が飲みにくい胃がん患者には、顆粒状などの飲みやすいタイプが開発されているTS-1ベースのレジメンのほうがよく使われているそうだ。

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