副作用を抑え、治療を継続することが大切 高齢者の進行胃がんの治療は特性に応じた治療を
副作用の少ない
TS-1に期待をよせる
佐藤温さん
以前は、腎機能が低下しているなどの身体的な衰えが見られる高齢者には化学療法は難しかった。しかし、TS-1の登場で高齢者にも化学療法が行われるようになっている。また、新たな治療薬にも期待が集まっているという。
高齢者の抗がん剤治療を難しくしている理由
現在、胃がんの患者数はやや減少傾向にあるが、高齢者人口の増加に伴い、高齢者の胃がんは増えていくと考えられている。
そこで、昭和大学病院腫瘍内科診療科長の佐藤温さんに、高齢者の手術できない進行胃がんの治療について解説していただいた。
「手術不能な進行胃がんに対する標準治療は、抗がん剤治療です。ただ、高齢者の抗がん剤治療では、気をつけなければならない点がいくつかあります。高齢者はどのような特性を持っているのか、そこを理解しておくことが必要です」
高齢者の特性をまとめると次のようになる。
●臓器の機能低下……とくに腎臓や肝臓の機能が低下することで、薬の血中濃度が高くなり、副作用が出やすい。
●骨髄の機能低下……骨髄の組織が脂肪に置き換わり、血液を作る能力が低下する。
●脂肪組織が増加……体脂肪の割合が増え、脂溶性の薬剤が蓄積することで、重い副作用が突然現れることがある。
●合併症がある……8割くらいの高齢者が、何らかの合併症を持っている。
●社会的心理的変化……配偶者や子どもに迷惑をかけたくないという意識が強く、不安・うつ傾向が強い。
このような特性を持つため、高齢者の抗がん剤治療には、特別な注意が必要になる(図1)。
身体的面 | 社会・心理的側面 | |
・主要臓器機能の低下 ・薬物反応が強い ・脂肪組織の増加 ・不良な栄養状態 ・身体機能の低下 | ・人生の終焉に近いという特殊な状況 ・種々の喪失体験の経験 ・不安やうつ傾向が強い ・社会的基盤の変化 ・家族内の環境 ・「生」「死」に対する価値観の相違 |
生物学的年齢が若ければ若い人と効果に差はない
高齢者だからといって、抗がん剤治療の効果が、若い人より劣るわけではない。国内で行われた手術不能胃がんに対する化学療法の臨床試験結果を、年齢によって解析し直したデータがある(図2)。
「59歳以下、60~69歳、70歳以上の3群で比較していますが、3本の生存曲線は、ほぼ重なっています。つまり、若い年代の患者さんでも、高齢の患者さんでも、化学療法の効果に差がないことが示されているのです」
ただ、このグラフを理解するときには、注意しなければならないことがある。臨床試験に参加しているのは、いわゆる〝元気な高齢者〟たちだということだ。重い合併症があったり、高齢のために全身状態が悪化していたりすると、適格条件からはずれるため、臨床試験には参加できないからである。
「適切な高齢者に化学療法を行う限り、抗がん剤治療は、若い人に行う場合と同じように効果的なのです」
年齢とは一般的には暦年齢をさすが、抗がん剤を使えるかどうかは、生物学的年齢が重要になる。若いころは暦年齢と生物学的年齢はほぼ一致するが、60歳を過ぎるころから、個人差が大きくなる。同じ70代でも、60代の体を維持している人もいれば、80代の体の人もいる。生物学的年齢が若ければ、抗がん剤治療の効果を得やすいのである。
標準治療はTS-1とシスプラチンの併用
1999年と2003年に、全国の病院を対象に行われたアンケート調査がある。質問は「75歳以上の手術不能進行胃がん患者に化学療法を行いますか?」というもの。「行う」と答えたのは、99年では58%の病院だったが、03年には65%に増えていた(図3)。
「わずか4年でこれだけ増えたのは、TS-1(*)という抗がん剤が登場したことが影響しています。臨床試験で高い奏効率を示したことに加え、経口剤で使いやすく、副作用も比較的軽いことから、広く使われるようになりました」
その後、SPIRITS試験という大規模臨床試験が行われ、TS-1単独療法より、TS-1+シスプラチン(*)併用療法のほうがさらに効果的なことが確かめられた(図4)。
生存期間中央値は、TS-1単独群が11カ月、TS-1+シスプラチン併用群が13カ月。この結果を踏まえ、手術できない進行胃がんの治療は、TS-1+シスプラチン併用療法が標準治療となった。
「高齢者でも、この治療が行えるのであれば行います。ただ、シスプラチンは副作用が強いので、併用できない場合もあります。75歳以上の場合、併用療法を行えるのは半分くらいかもしれません」併用できない人には、TS-1単独療法が行われている。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
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