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ハーセプチンによって、QOLを保ったまま過ごせる人も 個別化治療の幕開け!胃がんにも分子標的薬が登場

取材協力●土井俊彦 国立がん研究センター東病院消化管内科副科長
取材・文●伊波達也
発行:2012年6月
更新:2019年8月

  
土井俊彦さん
胃がんにおいても今後は
個別化治療が進むと話す
土井俊彦さん

昨年3月にハーセプチンが承認されたことで、胃がんも個別化治療の時代に入りました。分子標的薬の登場で、臨床現場にも大きな変化が見られています。


進行・再発がん治療はHER2検査が大前提

昨今、さまざまながんの治療において、薬物療法はめざましい進歩を遂げています。

胃がんにおいても、2011年3月にハーセプチン()という薬が、適応拡大となったことで、進行・再発胃がんにおける治療が大きく変わり、個別化治療への可能性も見えてきました。

ハーセプチンは、乳がんの治療では10年以上使われている分子標的薬(がん細胞が持っている特定の分子を標的とする薬)で、HER2というタンパク質が過剰に発現しているタイプのがんに対して使用することができます。

「進行・再発胃がんに対する薬物療法といえば、TS-1()とシスプラチン()(一般名)の2剤を併用して行う治療が、我が国では標準治療として実施されてきました。ただ昨年からハーセプチンが使えるようになったことで、進行・再発胃がんの薬物療法の入口は、まずHER2検査を実施して陽性か陰性かを見極めることが大前提となりました」

そう話すのは、国立がん研究センター東病院消化管内科副科長の土井俊彦さんです

「胃がんは、1つのがんの中に性格の異なる変異が多数存在するので、個別化は難しいと言われてきました。ところが、ある意味単純な、昔から知られているHER2という分子を持っている胃がんか、そうでない胃がんかを分けて治療方針を立てられるようになったのは画期的です」

ハーセプチンが胃がんにおいても適応拡大できる根拠となったのは、ToGA試験という国際共同臨床試験の結果です(図1)。これは、進行・再発胃がん患者約3,800人のうちHER2陽性594人が参加した大規模な試験で、ゼローダ()(または5-FU())とシスプラチンの2剤を併用する治療と、その2剤にハーセプチンを加えた3剤を併用する治療を比較しました。

[図1 HER2陽性の進行・再発胃がんに対するトラスツズマブの効果](生存率)

図1 HER2陽性の進行・再発胃がんに対するトラスツズマブの効果

その結果、全生存期間中央値で、11.1カ月と13.8カ月、無増悪生存期間で、5.5カ月と6.7カ月と、いずれもハーセプチンを併用した群で、効果を示す結果が明らかになったのです。

この結果によって、この薬剤は世界同時承認となり、従来はドラッグ・ラグで遅れていた我が国もほぼ海外と同時に承認となり、2011年7月、我が国の『胃癌治療ガイドライン速報版』に明記され、進行・再発胃がんの治療が大きく前進しました。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
ゼローダ=一般名カペシタビン
5-FU=一般名フルオロウラシル

HER2陽性は全体の15~20%

ハーセプチンの投与が可能なHER2陽性の人は、現在、15~20%といわれています。土井さんの所属する国立がん研究センター東病院では、多くの進行・再発胃がんの患者さんを診ており、そのうち20%ほどがHER2陽性でハーセプチン併用の治療を受けているそうです。そのなかには、肝転移やリンパ節転移があったにも関わらず、がんが小さくなり、結果的に手術が可能になった患者さんもいるそうです。

では、実際にHER2陽性、陰性を見極める検査とは、どのようなものなのでしょう。

「ToGA試験でも用いた病理診断に基づいてHER2陽性、陰性の判定をしています。我が国では、まずIHC法という免疫染色検査を行い、染色の度合いによって1+、2+、3+に分類します。3+であれば陽性、1+であれば陰性、2+の場合には、さらに遺伝子診断としてFISH法という検査を行い、陽性か陰性かを確定します」(図2)

[図2 HER2検査のフローチャート](IHC法を先行する場合)

図2 HER2検査のフローチャート

  • IHC法で0,1+,2+,3+を判定し、IHC法2+と判定された場合、FISH法で再検査をすることが望ましいと考えられる
  • IHC法3+およびIHC法2+/FISH陽性をトラスツズマブの適応とする

[画像3 トラスツズマブが効いた患者さん例](60歳代の切除不能進行胃がん)

画像3 トラスツズマブが効いた患者さん例

リンパ節や腹膜転移のため切除不能であったが、トラスツズマブによる治療後、胃の腫瘍は縮小し、リンパ節に転移した腫瘍も縮小したため、手術可能となった

乳がんで確立されているHER2検査を参考に、胃がんにおいては、承認が決まった2011年3月に、『HER2検査ガイド 癌編』が作成されました。しかし、病理診断においては、従来の乳がんとは異なる部分もあり、病院によって診断精度に差が出てしまうという懸念もあるといいます。

「今後は、症例を蓄積しながら、検査手順や診断方法などのさらなる標準化をめざしていくことが重要です」

また、乳がんと胃がんでは、HER2の発現パターンが異なると土井さんは説明します。

「乳がんの場合、HER2陽性患者さんでは、全ての細胞にHER2が発現していますが、胃がんの場合、そうではありません。HER2の発現が強い細胞と弱い細胞とでバラツキがあり、なかには一部の細胞にしか発現していない人もいます」

胃がんの場合、HER2陽性といっても、十把一絡げにくくることはできず、色々なケースがあるのです。そして、「ハーセプチンがよく効く人もいれば、あまり効かない人もいる」ことがわかってきており、どういう人がハーセプチンがより効くのか、どういう人はあまり効かないのか、今後研究が進むことが期待されています(画像3)。


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