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センチネルリンパ節生検の併用で、より確実な温存が目指せる可能性も 進歩する腹腔鏡下での低侵襲手術

監修●北川雄光 慶應義塾大学医学部外科学教授・慶應義塾大学病院副院長/腫瘍センター長
取材・文●平出 浩
発行:2012年6月
更新:2019年8月

  
北川雄光さん
胃や食道など消化器の
低侵襲手術を実践する
北川雄光さん

胃がんの低侵襲手術では、腹腔鏡下手術の臨床研究が進んでいる。例えば、1期の胃がんでは、開腹手術との比較が行われている。腹腔鏡下手術のメリット・デメリットは? 術中のセンチネルリンパ節生検は温存手術にどう生かせるのか?進行中の試験から見通せる現状をいち早く紹介する。


腹腔鏡下手術のさらなる進歩

[図1 胃の機能温存手術の種類]
図1 胃の機能温存手術の種類
 
[図2 腹腔鏡下胃切除術]
図2 腹腔鏡下胃切除術

胃がんでは、低侵襲治療、すなわち患者さんの体に負担の小さい治療技術の研究が進んでいる。内科的な治療では、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は低侵襲治療の典型である。

外科での低侵襲治療はどうだろうか。慶應義塾大学医学部外科学教授の北川雄光さんは大きく分けて2つあると話す。1つは腹腔鏡下手術、もう1つは胃の噴門(胃の入口部)と幽門(胃の出口部)の機能を残す手術だ(図1)。

腹腔鏡下手術とはどんな手術か、簡単に説明してみよう。まず腹部に小さな穴を開ける。そして、その穴から炭酸ガスを入れて、腹腔(おなかの中)を膨らませる。その後、腹腔に腹腔鏡や手術器具を挿入し、モニターに映し出された腹腔の映像を見ながら行う手術法である。腹腔内で行う作業は、基本的には開腹手術と同じである。腹腔鏡下手術は胃がんのほか、大腸がんや胆石症などの手術にも行われている (図2)。

腹腔鏡下手術の具体的な方法は少しずつ変化、進歩している。胃がんの腹腔鏡下手術は従来、1㎝ほどの穴を腹部に5~6カ所開けるのが主流だったが、現在では、穴を1つだけ開ける単孔式や、開ける穴の大きさをより小さくして行う方法なども実施されるようになってきた。

ただ胃がんの腹腔鏡下手術は進歩し続けているが、現時点では、標準治療にはなっておらず、臨床研究の位置づけである。

1期の腹腔鏡下手術安全性は開腹手術と同等

[図3 胃がんリンパ節の分類]
図3 胃がんリンパ節の分類

臨床研究はどのように進んでいるのだろうか。

1つは1期の胃がんに対する臨床研究がある。最も多く行われる幽門側胃切除術では、胃の下部を3分の2切除し、2群リンパ節、ないしは2群に準じたリンパ節を郭清(すべて切除)する(図3)。

これを開腹手術で行うのが標準の手術法である。この幽門側胃切除術を腹腔鏡下で行うのがよいかどうかについて、 JCOG()という専門家団体によって比較研究された。その結果や現状について、北川さんは次のように話す。

 

「胃がんの手術で最も重要な合併症は膵液漏と縫合不全です。双方ともに、開腹手術では1%ほど起こりえます。臨床試験の結果、腹腔鏡下手術ではこれらの合併症の増加は認められませんでした。つまり、1期の胃がんでは開腹手術と同程度の安全性が確認されたわけです」

膵液漏は膵臓の分泌液が一時的に漏れることで、膵臓周辺のリンパ節を郭清した際に起こることがある。縫合不全は消化管をつないだ箇所が外れて、漏れが起こることである。いずれも手術後に死亡することもある重い合併症だ。

「進行がんに対する腹腔鏡下手術で最も心配されるのは腹膜播種です。胃壁の外に出ているがんを腹腔鏡下で施術した場合、おなかの中にがん細胞がこぼれ落ちて、腹膜などにがんが散らばってしまう恐れがないのか、検証が必要です。それともう1つ、2群までのリンパ節郭清が、実際にリンパ節転移のある進行がんでも腹腔鏡下できちんとできるかどうか。これら2点は今後、検証されるでしょう」(北川さん)

JCOG=ジャパン・クリニカル・オンコロジー・グループ

腹腔鏡下手術のメリットとデメリット

では、腹腔鏡下手術のメリットは何なのだろうか。北川さんは次のように話す。

「大きなメリットは、おなかにできる傷が小さいことです。開腹手術では20㎝ほどの傷がつきますが、腹腔鏡下手術では傷口は小さな穴がいくつかあくだけです。ほかには、手術後の回復が早い、入院日数が短く済む、手術後の痛みが小さいことなどが一般的にはいわれています」

さらに、若い医師への教育効果も期待できる。腹腔鏡下手術では手術の様子がモニターに映し出されるため、ほかの医師もその様子を見ることができる。実際の手技を見て学べるから、技術の向上にも役立つと考えられる。反対にデメリットは、開腹手術に比べると、手術時間が長いことに加え、熟練した技術をもつ医師がまだ少ないことがあげられる。

とはいえ、1期の胃がんに対しては、臨床研究として腹腔鏡下手術を行う医療施設は増え続けている。また、30~40代を中心に、腹腔鏡下手術の高い技術をもつ医師も増えてきた。胃がんの腹腔鏡下手術の可能性は広がっているといえそうだ。


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