消化管閉塞に画期的治療、進行胃がん・膵がん患者さんの生活の質が大幅改善 胃・十二指腸が閉塞してもステント留置で食事が可能になる!
世界で初めて内視鏡で
十二指腸にステントを入れた
前谷 容さん
胃・十二指腸閉塞患者さんに朗報! 20分前後の内視鏡治療で、1~2日後には口から食事をとれるようになるというステント留置療法。つらいおう吐や脱水の症状もなく、開腹手術も必要ないこの治療法は、昨年4月に保険適用となり、患者さんへの周知が期待される。
胃がんや膵がんが進行し、胃・十二指腸閉塞が発生
胃がんや膵がんが進行した患者さんに、胃・十二指腸閉塞が起こることがある。胃の出口に当たる幽門部や、そこから続く十二指腸が、増殖した腫瘍によって塞がれてしまう状態である。食べたものが胃から小腸へと通過しないので、患者さんは食事ができなくなってしまう。推計では年間計7,300人の患者さんに、このような閉塞が起きているという。
この胃・十二指腸閉塞が起きると、どのような問題が生じるのだろうか。東邦大学医学部教授で、東邦大学医療センター大橋病院消化器内科診療部長を務める前谷容さんは、次のように説明する。
「口から食事をとることができないので、栄養を補給するために、点滴で静脈から栄養を入れることになります。まったく食べられなくなれば、大静脈に高カロリーの液体を入れる中心静脈栄養という方法が必要です」
食事をする喜びは失われたままだが、生きていくのに必要な栄養は、何とか送り込むことができるわけだ。しかし、問題はそれだけではない。
「もう1つの問題は、分泌された消化液が胃にたまってしまうことです。食事をしなくても、胃液は1日に1.5~2.0リットルも分泌されます。閉塞した部位が、胆管や膵管の出口より下(肛門側)なら、胆汁や膵液もたまってしまいます。そして、胃がパンパンになると大量におう吐する。それを繰り返すことになるわけです」
これは、患者さんにとっては大変つらい状態だという。胃の表面は粘液に覆われて消化液から守られているが、食道にはそうした防御システムがない。そのため、食道の壁が消化液によって荒れて、食道炎を起こしてしまう。ちりちりするような胸やけがある上に、強い刺激のある消化液を吐くのだから、その苦痛は大変なものだ。さらに、大量の水分が出ていくため、水分補給も必要で、点滴の量は多くならざるを得ないのである。
胃・十二指腸閉塞に対して、従来はどのような治療が行われてきたのだろうか。
バイパス手術か消化液を抜く治療
「原因が胃がんでも膵がんでも、手術で根治する可能性があれば、根治を目指した手術が行われます。ただ、胃・十二指腸閉塞が起こるということは、かなり進行したがんですから、多くの場合、根治手術の対象とはなりません。そのような場合には、苦しい症状の改善が治療目的となります。最も標準的な治療は、胃と小腸をつなぐ手術。専門的には胃空腸吻合術といいますが、バイパス手術のほうがわかりやすいでしょうね」
閉塞した部分は残したまま、小腸をつり上げて胃につなぐのがバイパス手術だ(図2)。食べたものが胃から直接小腸に入っていくので、患者さんは普通に食事ができるようになる。ただし、誰もがこの手術を受けられるわけではない。
「がんがかなり進行している患者さんなので、手術に耐えられるだけの体力が残っていない場合は手術できません。決して大がかりな手術ではありませんが、全身麻酔は必要ですからね」
消化液を抜くだけでは食事はできないまま
「バイパス手術ができない患者さんには、胃にたまった消化液を外に出す減圧療法が行われます。これには、胃瘻と経鼻胃管という2つの方法があります」
胃瘻は腹壁と胃に小さな孔を開け、管を通す方法。経鼻胃管は、鼻から管を入れ、のどを通過して胃まで送り込む方法である。どちらも通常は栄養物を送り込むために使われるが、この場合は、胃にたまった消化液を抜くのが目的だ。閉塞部位はそのままなので、胃に栄養物を入れられるわけではない。これらの治療を行いながら、静脈からの点滴による栄養補給を続けるわけだ(写真1)。
「胃瘻と経鼻胃管を比べると、患者さんにとって楽なのは胃瘻のほうです。経鼻胃管は鼻にチューブが入ったままになり、かなりストレスがあります。できれば胃瘻がいいのですが、無理な場合があるのです」
胃瘻を造設する場合、管が入ることであえて人工的に胃壁と腹膜の癒着を起こさせるのだが、腹水がたまっていると、いつまでも癒着が起きない。そのため、腹水のある患者さんには、胃瘻は適さないとされている。
「胃がんや膵がんが進行している患者さんは、腹水がたまっていることが多いですね。そのため、しかたなく経鼻胃管になってしまう患者さんも少なくなかったのです」
以上が胃・十二指腸閉塞に対する従来の治療である。これに昨年4月から、ステント留置療法が加わることになった。
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