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胃がんの診断と治療が大きく変わる 分子標的薬の登場で、胃がん治療は新たな時代へ

取材協力●大津 敦 国立がん研究センター東病院臨床開発センター長兼消化管内科長
取材・文●伊波達也
発行:2011年6月
更新:2019年8月

  
大津敦さん
胃がんの化学療法は
確実に進歩していると語る
大津 敦さん

これまで手術がメインだった胃がん治療。しかし、ここ数年で胃がん治療においても化学療法の効果が立証され、新たな分子標的薬も登場しています。胃がんの最新化学療法のトピックを紹介します。


手術+TS-1が根治への標準治療

胃がんにおける術後補助化学療法の適応は、腫瘍が胃壁の筋層にまで達していて、リンパ節に転移がある場合からです。

現在では、TS-1() を手術後の補助化学療法として行うことが標準治療として確立されています。TS-1は、5-FU() の効果を増強した経口抗がん剤で、副作用の少ない薬です。

ステージ2と3の胃がん患者を対象に、手術のみの群と追加でTS-1を投与した群での比較試験を行ったところ、3年生存率が、手術のみでは70.1パーセントであるのに対し、化学療法を併用すると80.5パーセントになるという結果を得て、その有効性が認められて標準治療になりました。

「補助化学療法の1番の目的は、手術で届かない部分に散らばっている目に見えない微小ながんを抑えて根治させることです」

そう話すのは、国立がん研究センター東病院の臨床開発センター長兼消化管内科長の大津敦さんです。胃がんの中でも早期がん(ステージ1)は、ほぼ手術のみで根治が望めますが、微細な転移の可能性があるステージ2以上は化学療法を併用するべきだといいます。

「一時期は拡大手術でリンパ節を大きく取っていましたが、臨床試験により大きくとっても差がないことがわかりました。日本の場合は手術成績がよく、外科医のレベルが高いですから、きちんと標準的な手術をして、術後に抗がん剤治療を行うことが、確実に根治へ近づくのです」(大津さん)

[第3版の胃がんの進行度別治療法(案)]

  N 0 (転移リンパ節なし) N 1 (転移リンパ節1~2個) N 2 (転移リンパ節3~6個) N 3 (転移リンパ節7個以上)
T1a(M)
胃の粘膜に限局している
 1A 
内視鏡的手術(一括切除)
〔分化型、2cm以下、潰瘍なし〕
胃切除D1郭清(上記以外)
 1B 
定型手術
 2A 
定型手術
 2B 
定型手術
T1b(SM)
胃の粘膜下層に達している
 1A 
胃切除D1郭清(分化型、1.5cm以下)
胃切除D1+郭清(上記以外)
T2(MP)
胃の筋層に達している
 1B 
定型手術
 2A 
定型手術
補助化学療法
 2B 
定型手術
補助化学療法
 3A 
定型手術
補助化学療法
T3(SS)
胃の漿膜下層までに達している
 2A 
定型手術
 2B 
定型手術
補助化学療法
 3A 
定型手術
補助化学療法
 3B 
定型手術
補助化学療法
T4a(SE)
漿膜を超えて胃の表面に出ている
 2B 
定型手術
補助化学療法
 3A 
定型手術
補助化学療法
 3B 
定型手術
補助化学療法
 3C 
定型手術
補助化学療法
T4 b(SI)
胃の表面に出た上に、他の臓器にもがんが続いている
 3B 
定型手術+合併切除
補助化学療法
 3B 
定型手術+合併切除
補助化学療法
 3C 
定型手術+合併切除
補助化学療法
 3C 
定型手術+合併切除
補助化学療法
AnyT, M 1
肝、肺、腹膜など遠くに転移している
 4 
化学療法、放射線治療、緩和手術、対症療法
出典: 『 胃癌治療ガイドライン第3版』日本胃癌学会編(金原出版)より一部改変

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
5-FU=一般名フルオロウラシル

術前の化学療法として TS-1とシスプラチンも検討中

根治を目指す補助化学療法においては、進行・再発胃がんの標準治療であるTS-1とシスプラチン(一般名)の2剤併用投与を、手術前に行う試みもあります。

[TS-1の術後補助化学療法の効果(全生存率)]
図:TS-1の術後補助化学療法の効果(全生存率)

進行・再発胃がんに対する成績で、TS-1とシスプラチンの2剤併用は、TS-1単独投与に勝ったことから、根治を目指す補助化学療法にもこのレジメン()を応用しようという考え方です。とはいえ、手術後は体力が落ちているため、「TS-1とシスプラチンの術後投与はかなり難しい」(大津さん)のが現状だといいます。そこで、手術をする前に補助化学療法を行う選択肢も考えられています。

「ただし、術前化学療法の問題点は、術前の診断でステージ2、3の進行度の評価が難しいことです。術前と術後では、診断が5~6割違ってしまうため、実際には早期のステージ1で、化学療法の必要のない患者さんにも化学療法を実施してしまう可能性があるので、どちらがよいかはまだ議論の段階」(大津さん)だといいます。

今後は、補助化学療法においては、標準治療であるTS-1単独から、TS-1プラスαというレジメンや、進行・再発胃がんに対して承認された薬の有効性を評価して、治療成績の向上を目指すことになりそうです。

レジメン=薬の組み合わせや投与方法

進行・再発胃がん治療 まずはTS-1とシスプラチン

一方、切除不能の進行・再発がんは、手術では治らないため、化学療法が主役です。この場合には、根治というよりは、延命が目的の治療になります。

[進行・再発胃がんに対するTS-1の効果(無増悪生存率)]
図:進行・再発胃がんに対するTS-1の効果(無増悪生存率)

「注射でいえば5-FU、経口剤ではTS-1や最近承認されたゼローダ()など5-FU系の薬、シスプラチン、タキサン系の薬、イリノテカン()(一般名)という4系統の薬を組み合わせて治療を行います。今までの比較試験の結果から、現時点では、TS-1とシスプラチンの組み合わせで最初の治療を行うのが標準です。セカンドラインでは、タキソール()とイリノテカンと、どちらの薬を先行させるほうがいいかという試験結果があと1年ぐらいで出ます。いずれにせよどちらが先行しても、サードラインでは、投与しなかったほうの薬が使われることになります。

タキソールの代わりに同じタキサン系のタキソテール()を投与してもいいのですが、骨髄抑制の副作用が起こるのでタキソールのほうが投与しやすいのです」(大津さん)

ゼローダ=一般名カペシタビン
イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン
タキソール=一般名パクリタキセル
タキソテール=一般名ドセタキセル


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