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胃がん治療のルートマップとして役立ててほしい これだけはおさえておきたい胃がん治療ガイドラインのポイント

監修●山口俊晴 癌研有明病院消化器センター長兼消化器外科部長
取材・文●平出 浩
発行:2007年9月
更新:2019年8月

  
山口俊晴さん
癌研有明病院消化器センター長
兼消化器外科部長の
山口俊晴さん

ガイドラインと呼ばれるものはあくまで治療指針であり、絶対的なものを示しているわけではない。多くの患者さんに適するだろう治療の方法を示しているのだ。胃がんでは病期に応じた治療法はさまざまである。ここでは、胃がん治療ガイドラインの概要と今後についてかいつまんで説明する。


胃がん治療のガイドラインはこうして生まれた

写真:『胃がん治療ガイドラインの解説』

『胃がん治療ガイドラインの解説』(第2版,2004年)*臨床の現場での医師と患者の意志の疎通がさらに良くなることを願って作成された

日本にはかつて、胃がんに対する標準的な治療はなかった。たとえば、同じ胃がんの2期であっても、医療施設や医師によって、行われる治療法が異なることはごく普通のことだった。その原因の1つには、「標準的な治療と研究的な治療との区別が不明瞭だったことがある」と、山口俊晴さんは話す。

山口さんは癌研有明病院消化器センター長兼消化器外科部長で、胃がん治療ガイドライン作成委員会の委員長も務める。

胃がん治療のガイドラインを作る気運が生まれたのは1997年ごろ。ガイドラインの必要性を感じ、作成の働きかけを行った1人が山口さんだった。

「当初は『標準治療検討委員会』と呼んでいたのですが、多くの医師からクレームがつきましてね。『われわれは独自に判断して、自由に治療をしているのに、どうして制限するのか』と。そうした反対意見を受けて、『標準治療』よりも少し緩やかな『ガイドライン』になったいきさつがあるんです」

ガイドラインとは指針、すなわち「参考となる基本的な方針」の意味だから、そのとおりにしなくても罰則はないし、強制力もない。個々の症例の状態に応じてほかの治療を行っても、「標準外」の治療を行ったとして、批判されるべきものでもない。

医療に「自由な部分」を残すことの意味は十分わかるが、一方では、医療のレベルは施設や医師によって異なる部分もある。難易度の高い手術や治療を行える施設がある一方、そこまでのレベルに達していない施設も少なくない。

たとえば学会では、専門施設から、難易度の高い手術の成果が発表される。しかし、その手術をどの施設のどの医師もできるとは限らない。

そうしたなか、ハイレベルな手術のできる施設に合わせて、全国の施設が一様にハイレベルな手術を行うとどうなるか。

“悲惨な結果”を招くこともある。ここに、山口さんたちの懸念があり、それはまた現実にもなっていた。

早期がんと進行がんでは治療の目的が異なる

こうした経緯があって、胃がん治療のガイドラインは作成されることになった。そして、このガイドラインが作られたことによって、胃がんの治療は標準的な治療と研究的・試験的な治療とを区別して行われるようになったといえる。

日本胃癌学会が編纂している『胃がん治療ガイドラインの解説』は現在、2004年12月改訂の第2版が発刊されている。

医療者向けのガイドラインが多いなか、胃がんのそれは一般、すなわち患者さんやその家族向けのガイドラインも併せて作成されている。書店で購入することもできるから、持っている方もいるかもしれない。

さて、『胃がん治療のガイドライン』(第2版)はどのようになっているのか、その概略を山口さんに聞いてみた。

「まず大きく言うと、胃がんは早期がんと進行がんに分けて考える必要があります。ステージ(病期)でいえば大方、早期がんは1B期までのがん、進行がんは2期以降のがんです」

胃がんは1A期、1B期、2期、3A期、3B期、4期の6つのステージに分かれる。

このうち、1A期が最も早期のがんで、4期が最も進んだがんである。

「早期がんは、今ではほぼ確実に治るがんです。そうなると、医療者や患者さんの関心はいかに治すか、つまり安全かつ体への負担の少ない治療法で、QOL(生活の質)を保ちつつ治すことに向きます。
一方の進行がんは生存率を上げること、つまり生きる期間を延ばすことが今も大きな目標です。
現状では、進行がんの約半分は治ります。2期に限れば、およそ8割は治っています」

大きく分けると、早期がんと進行がんとでは、治療の目標が違うということだ。そして、進行がんでは、生存率と治癒率を上げることが最も大きな課題であるといえそうだ。

[胃がんの進行度(病期、ステージ)]

  NO

リンパ節転移がない

N1

胃に接したリンパ節転移がある

N2

胃を養う血管に沿ったリンパ節転移がある

N3

さらに遠くのリンパ節に転移がある

T1,M

胃の粘膜に限局している

1A期 1B期 2期 4期
T1,SM

胃の粘膜下層に達している

T2

胃の外側表面にがんが出ていない、主に胃の筋層まで

1B期 2期 3A期
T3

筋層を超えて胃の表面に出ている

2期 3A期 3B期
T4

胃の表面に出た上に、他の臓器にもがんが続いている

3A期 3B期 4期

肝、肺、腹膜など遠くに転移している

4期

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