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患者のHLA(ヒト白血球抗原)のタイプ別に術後補助療法を選択する 胃がんのテーラーメイド治療

監修●生越喬二 東海大学医学部消化器外科教授
取材・文●高田昌彦
発行:2005年7月
更新:2019年8月

  
生越喬二さん
東海大学医学部
消化器外科教授の
生越喬二さん

HLA(ヒト白血球抗原)は骨髄移植などの組織適合性を調べるために重要な指標だが、胃がん切除手術のあと、最適な術後補助療法を選択するためにも活用できることを東海大学消化器外科教授の生越喬二さんは見つけた。30年にわたる胃がん患者の予後の調査で、免疫療法は患者の7割に生存期間の延長効果があるが、10数パーセントほどの患者には逆に作用する可能性があることがわかった。化学療法の効果がよく出る10数パーセントのグループがいることもわかった。HLAを検査することで、事前にそれらの峻別が可能だという。

HLA遺伝子をマーカーとして

抗がん剤が劇的に効く人もいるが、まったく効かず副作用に苦しめられるだけの人もいる。テーラーメイド医療が実現すれば、そのような不幸はなくなっていくだろう。抗がん剤の感受性試験や薬物代謝のゲノム研究が盛んに行われているが、個人に対応した治療法として実用性を発揮できるのはまだまだ先の話だ。

東海大学消化器外科教授の生越喬二さんが試みるテーラーメイド医療は独特だ。胃がん手術を専門とする生越さんは、再発予防のために行う術後補助療法の効果を、HLA(ヒト白血球抗原)のタイプ別に比較検討する研究をしてきた。幸運なことに、HLAデータを基に日本人を分類すると、4つのグループ(タイプ)に分類され(ちなみに、多民族国家の米国人のHLAデータでは米国人は分類不能であった)、「化学療法を行った群」「免疫療法を行った群」「その両方を行った群」「何も行わなかった群」の4群の間で、HLAのタイプによって生存率に異なった差が出ることを見出した。そしてHLAのタイプによって最適な治療法を選ぶ、テーラーメイド医療を考案したのだ。

HLAは細胞表面上に存在して、体内に入ってくる病原体や異物を排除する免疫機構として働いている抗原だ。多種多様なHLAがあり、移植時にはHLAの適合性が生着率を左右する。

生越さんは、HLAのタイプによってがん治療の効果を測定しようと考えたきっかけについて次のように話す。

「薬が効く患者と効かない患者がいますが、どうやったら判別できるか、ということから始まったんです。この薬は効いた、と結果論で言うことは誰にもできます。ぼくはそういうのは好きではないので、どういうマーカーをとれば効果の予測ができるかをずーっと考えてきたんです。だんだん研究していくうちに遺伝子をやらなくてはだめだとわかった。まだがん遺伝子が見つかる前のことです。幸いHLA遺伝子については、ヒトゲノム計画が始まる以前から、蛋白質の立体構造や機能が詳しく研究されていたのです」

こうして生越さんは抗がん剤の効果とHLA遺伝子との関係を調べはじめた。

HLAを4タイプに分類した

そしてHLAの遺伝子は100種ほどあるが、日本人の場合はそれほどバリエーションがないということがわかってきた。その理由は日本人にはホモ接合体が多いからだという。

遺伝子は両親から受け継ぐわけだが、父からのものと母からのものとが1対になっている。同じ形質を支配する遺伝子が2つ存在するわけだ。たとえば目が黒いという遺伝子が片方にあり、もう一方の遺伝子も目が黒いという同じ情報を持っていれば、ホモ接合体と呼ばれる。黒い目、青い目と遺伝情報が異なれば、ヘテロ接合体と呼ばれる。

生越さんがHLA遺伝子を調べたところ、日本人はホモが多くヘテロが少ないのが特徴なのだそうだ(図1)。それだけHLA遺伝子の種類が少ない。研究する上では煩雑さが少なくありがたかった。そのおかげで、日本人のHLAを大まかに4つに分類することに成功した。

[図1 HLA抗原の多様性の頻度(n=7,979)]
図1 HLA抗原の多様性の頻度

赤血球の血液型がA、B、AB、Oと分けられるように、生越さんは白血球の血液型ともいわれるHLAを4つのタイプに分類した。

その分類は数量化Ⅲ類という多変量解析の方法で、それぞれの因子の関係の近さ遠さを分類する統計手法だという。共同研究者である統計学者、林知己夫さんとともに、複雑なHLA遺伝子構造の分類に最適な方法として考案したものだ(図2)。平面に見えるが、実際は多次元の立体的な分類になる。

[図2 数量化Ⅲ類による胃がん症例のHLAの分類(胃がん626例)]
図2 数量化Ⅲ類による胃がん症例のHLAの分類


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