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進行別 がん標準治療
基本は子宮を摘出する手術。ハイリスク群には加えて補助療法を

監修:杉山徹 岩手医科大学産婦人科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2005年1月
更新:2013年9月

  
杉山徹さん
岩手医科大学
産婦人科教授の杉山徹さん

子宮体部に発生するがん、子宮体がんが増えています。
その原因は欧米型の食生活、晩婚化、妊娠回数の減少など、
女性のライフスタイルの変化が背景にあるようです。

治療は子宮を摘出する手術が基本です。
しかし、妊娠・出産を希望する場合は、早期であれば、
ホルモン療法により子宮を残すことも可能です。

ライフスタイルの欧米化が増加の要因

子宮がんには、子宮の入口付近にできる子宮頸がんと子宮体部(子宮内膜)に発生する子宮体がんがあります。子宮頸がんが減少傾向を示す一方で、日本でも確実に増加しているのが、体がんです。

岩手医科大学産婦人科教授の杉山徹さんによると、「欧米では、婦人科のがんで一番多いのが子宮体がん」だといいます。日本の場合、まだ頸がんのほうが多くなっていますが、その比率は急激に少なくなっています。20年ほど前には子宮がんに占める体がんの割合は、15パーセントほどでした。それが1999年には30パーセントを突破、今は40パーセント前後と増加を続けています。

その背景には、人口の高齢化に加えてライフスタイルの欧米化があると、杉山さんは指摘しています。子宮体がんは、閉経後の女性に多いがんです。40歳未満の女性の体がんは、若年性体がんと呼ばれ、10パーセント未満に過ぎません。また、体がんは卵巣がんや乳がんと同じようにエストロゲンという女性ホルモンが促進因子として働いています。

ここに大きな影響をもたらしているのが、女性のライフスタイルの変化です。食生活の欧米化によって、閉経後の女性に肥満が増えています。閉経後は、卵巣からのエストロゲンの分泌は枯渇しますが、副腎からアンドロゲンという男性ホルモンが分泌されます。それが脂肪細胞でアロマターゼという酵素によってエストロゲンに変換されています。肥満女性は、脂肪が多い分、エストロゲンへの変換も多くなるのです。

また、出産回数が減少し出産しない女性も増加しているため、妊娠・授乳によってエストロゲンの分泌が停止する期間も短くなっています。それだけエストロゲンに曝される期間が長くなり、これも体がんの促進因子として働いていると考えられています。

しかし、幸い体がんは婦人科がんの中では、治りやすい部類に入ります。早期から進行がんも含めて、体がん全体の5年生存率は71パーセントに上っているそうです。これは、早期発見が多いのが大きな要因です。

[婦人科がんの年齢調整罹患率]
婦人科がんの年齢調整罹患率
婦人科がんの中では、近年、子宮頸がんが減少し、子宮体がん、卵巣がんが増加中
[子宮体がんの年齢階級別罹患率]
子宮体がんの年齢階級別罹患率
最近は高齢で子宮がんになる人が増えている
[高齢化社会の中でのライフスタイルの変化]
高齢化社会の中でのライフスタイルの変化

閉経後と不正性器出血に注意

一般に、がんは症状が出てからでは遅いといわれます。ところが、体がんの場合「キーワードは、閉経後と不正性器出血」と杉山さんが指摘するように、症状が出てからでも遅くはないことが多いのです。杉山さんによると「子宮内腔は狭いので、隆起性の腫瘍ができると、早くから出血が起こります。その結果、褐色のオリモノが出たり、下着の汚れで気づくことが多い」のです。したがって、不正出血で発見された場合でも、早期のケースがかなり多くあります。実際に、体がんの65パーセントが1期、つまり子宮内膜に限局した状態で発見されているそうです。子宮内膜にがんがとどまる間に発見されれば、5年生存率は79パーセントに上っています。

同じ婦人科系のがんでも、卵巣がんが症状に乏しく早期発見が難しいのに比べると、これは大きな違いです。

日本と欧米で異なる治療方針

子宮体がんは、女性ホルモン依存性のがんであること、体の奥にあってがんの進み具合が外からではわかりにくいこと、腹部全体に広がっていくこと等、卵巣がんと似た特徴があります。しかし、杉山さんによると「卵巣がんほどエビデンス(科学的根拠)に基づいた標準治療は確立されていない」といいます。

原因は、日本と欧米との治療方法の違いにあるようです。日本では、治療は手術がメインで術後の補助療法として抗がん剤が使われるのが主流です。一方、欧米は放射線と手術がメイン。手術後、放射線を補助療法として照射することが標準的ですが、最初から放射線で治療を行うこともあるそうです。

「欧米では、手術後病理診断によって再発の危険が高いとなると、腹部全体に放射線を照射します。子宮体がんは、腹部全体に広がるので、骨盤内だけに照射しても片手落ちになることが多いからです。ところが、同じように日本人に全腹部照射を行うと、放射線による副作用、とくに腸管系の晩期障害がひどくて、数年後にイレウス(腸閉塞)で人工肛門になったり、腸に穴があくなど大変な思いをします。そのため、日本ではしだいに放射線治療が下火になっていったのです」と、杉山さんは語っています。

照射量の問題ではなく、照射範囲が問題なのです。杉山さん自身も、15年ほど前から放射線治療をやめて、抗がん剤に移行しています。


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