悩んでいるのはあなただけではない 子宮頸がんは誰にでもあり得ます 子宮頸がんの手術を乗り越え活動するシンガーソングライター・笛田さおりさん(さめざめ)

取材・文●「がんサポート」編集部
撮影●向井 渉
発行:2014年6月
更新:2018年3月

  

ふえだ さおり
神奈川県出身。高校生から音楽活動を続け、2009年「愛とか夢とか恋とかSEXとか」をきっかけに、〝さめざめ〟の活動を開始。女の子の言えない本音を書き下ろした楽曲がインターネット上で反響を集め、2013年12月にビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー

若い女性の思いを唄う地道な音楽活動が実を結び、メジャーデビューが決まった矢先、「子宮頸がん」を告げられた。手術を経て音楽活動を再開した彼女は、不意の病気をも創作活動の糧にした。

気になって婦人科クリニックを受診した

内気だった少女は、作詞作曲そして歌唱の才能を伸ばした。流通大手に乗らないインディーズと呼ばれるエリアで着実にファンの心をつかんでいった。そして、2012年12月、ビクターエンタテインメントから〝メジャーデビュー〟するまでに階段を上った。

自分の音楽世界が認められたことに、さらに創作意欲をかき立てられた。しかし、その1カ月後、「まさか」の出来事がやってきた。「メジャーデビューを前に、秋からすごく忙しかったんです。曲作りもあるし、関係する方々と会って交渉したりと、これまでにない負担でした」

体調を崩すことがあった。風邪を引いたり、体がだるくなったりと。そんな13年1月、生理とは明らかに違う不正出血が1週間ほど続いた。

生理不順は経験したことがなかったので、気になって婦人科クリニックを受診した。そのときはまだ、「ホルモンバランスが悪かったのかな、というくらいの気持ちでした」と、楽観していた。

なぜ、今? ラスト・ライブ?

診察した医師は、「見た目は問題ないので、なぜ出血したかわからない。組織を取って調べます」と言った。

10日後に検査結果がわかるということだったので、軽い気持ちで聞きに行った。しかし、そこで聞いた言葉は、「子宮頸がんかもしれません。もう一度、専門の病院で検査してほしい」

笛田さんは動揺した。「なぜ、今?」「なぜ、私?……」

「検査結果が出るまでは人に言えない分、何もなければいいなという気持ちもありました。その気持ちの一方で、メジャーデビューしたのがたった1カ月前で、これから私の活動が始まるという時期なのに、ここでがんになってしまったら、人生どうすればいいんだろうと先のことまで考えてふさぎ込むこともありました」

母親だけには、相談した。「心配させたくはなかったけど、自分だけでは抱えきれないと思ったので……」

2週間後。神奈川県立がんセンターで診察を受けた。前回と同じ検査と問診。結果はさらに10日ほど後だと言われた。

自分なりにネットや本で「子宮頸がん」を調べた。知らないことがたくさんあった。ウイルスが原因であること、女性ならだれでも罹る可能性があること、子宮の摘出が標準的な治療であること……。

「性格はかなり弱いほうです。人前では強がりますが。子宮頸がんの知識がなかったので、調べれば調べるほどいろいろなことがわかってきて、すごく不安を感じました。精神的な不安定さを自分でも感じました」

この間も、都内でのライブなど音楽活動を続けた。しかし、これまでのライブとは気持ちが違った。「これが最後のステージかも……」

円錐切除の手術「のどには触れないで」

診察の結果を聞く日が来た。「医師から『早期のがんです』と言われました」

円錐切除という手術で、子宮を全摘することはないとの説明があった。「そうなんだ、と思いながらも、がんに罹ったということ自体に驚きました。早期ということで幸いな気持ちと、がんという重い気持ちで複雑でした」

デビューしたばかりで頑張ろうと思っていた時期。仕事のことを考えた。3月には地方でライブを3回開く予定だった。新しいCDの制作もあった。それらをこなし続ければ、手術のタイミングがどんどん遅くなっていく。所属事務所と相談し、なるべく早く手術するという方針が決められた。手術待ちの順番で3月の初めに手術が決まった。

入院は2泊3日だった。姉と一緒に病院に入った。麻酔に2種類あると聞いた。1つは、喉に器具を通すということだった。後遺症はないと言われたが、シンガーとしての思いで、もう1つの脊髄麻酔にしてもらった。麻酔から覚める時期が遅れるが、それより優先したいことがあった。

風聞に惑わされず 不安があったら検診を

手術は、1時間ほどで無事に終了。翌日に退院した。しかし、3月のライブはすべてキャンセル、1カ月は自宅で療養がてら楽曲の創作にあてた。

「病気をしたことで、これまでよりもインスピレーションが沸きました。精神的に感じることがすごくあった。曲作りや歌詞の内容自体にも、直接ではないにせよ影響を受けました」

何を感じたのか。「子宮頸がんへの認識が低いために、本人も周囲も風聞に惑わされていることに気づきました。私自分、がんになったことを軽はずみに言っていいものかどうかにも悩みました」

笛田さんは、手術の2カ月後、13年5月に音楽誌へのインタビューに答える形で自身の闘病を告白し、これから早期発見を実現するための啓発活動に力を入れるとコメントした。

「子宮頸がんは女性特有の病気です。女性だけが不安になります。悩みがあったら早めに検査受けることを勧めたい。そして、早く見つかるほど、体への負担も小さく済みます。子宮頸がんは性行為によるウイルスの感染が原因となることがほとんどだから、周りの人たちが余計な想像をすることを知りました。ほとんどの女性は一生のうちに1度はこのウイルスに感染するのです。感染自体はごく日常的なことなのです。相手側の男性にもわかってほしい。情報に惑わされずに頑張って欲しいと思います」

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