現実を受け入れて強敵と闘う 地球を救ったミラーマンのように がんを「インベーダー」と呼び、闘い続ける元特撮ヒーロー・石田信之さん(63)

取材・文●「がんサポート」編集部
撮影●向井 渉
発行:2014年8月
更新:2019年7月

  

いしだ のぶゆき
1950年、秋田出身。高校中退後、東宝芸能学校に入り、70年、『柔道一直線』のオーディションに合格しデビュー。直後に代表作となる『ミラーマン』の主役・鏡京太郎役に抜擢される。以後、推理ドラマから時代劇、映画、舞台まで幅広く活躍。脚本やプロデュースも手掛ける

「インベーダー(侵略者)撲滅作戦に行ってきます」――。俳優の石田信之さんはブログで、自身のがん治療について、かつて主人公を務めた特撮ドラマ「ミラーマン」の世界に重ねて発信している。大腸がん、肝臓への転移、胃がん……闘う相手は次々に現れるが、その口調には暗さが微塵もない。

<<石田信之 information>>

・映画「眠り姫」プロデューサー(詳しくは「眠り姫」HPで

・フジテレビ系ドラマ放送予定「イタズラなKiss 2」教授役

・11月 舞台「遠い夏の日」脚本・演出(詳しくは石田信之ブログで

「とにかくインベーダーは、大きかったそうです」

石田さんは、2014年3月13日のブログにそう書いた。自らのがん罹患と大腸がんの手術を独特の形で表現した。「正直言って公表はためらいましたが、同じ病気と闘う人々を勇気づけたいという思いで書き始めました」

石田さんが大腸がんの手術を受けたのは、その10日前だった。当時のことを笑顔で振り返る。

「まさに青天の霹靂ですね。しかし、今ここで倒れているわけにはいかない。受け入れていると言ったほうがいいかな。『わが心、鏡の如し』。宣告されても平常心でいられました」

俳優活動を40年以上続け、小説や脚本も手掛ける石田さんだが、世にその顔を知らしめたのは、デビュー間もない1971年に放送された「ミラーマン」で主役の鏡 京太郎役に抜擢されたことだった。地球を侵略しようとするインベーダーと闘うために、鏡など反射するものを利用してミラーマンに変身する。「わが心、鏡の如し」は、そのころからの信条だ。

墓参のときに体の異変

石田さんは2013年2月、嫁いでいる娘の麻奈さんとともにお墓参りに出かけた。そのときに異様な腹痛を感じた。今までにない腰に達する痛み。

「単なる食あたりではない感じで、何だろうと思いました。母親を胃がんで亡くしてはいましたが、それまで私自身に自覚症状はありませんでしたから」

クルマに乗っていても腰の痛みはとれず、トイレに行っても何も出ない。しばらくして痛みはとれたが、その後、仕事中に突然痛くなったかと思うと、じきに良くなるという繰り返し。演劇学校での講義中に、立っていられないほどの痛みに襲われ、うずくまってしまったこともあった。

「それでも、がんとは全く思っていなかったですね。自分がなると思ってなかった」

調子の悪さは続き、冬には頻繁にトイレに行きたくなるが、何も出ないことが続いた。便が出ても、細くて途切れる。14年1月、とうとう麻奈さんと最寄りの医院に行った。「取りあえず検便しておこう」と言われ、便を取ったら、血便が出ていた。医師はすぐに最寄りの大きな病院として川崎市の虎の門病院分院を紹介した。

次々に襲い来るインベーダー

すぐに入院して検査となった。内視鏡検査を受けたら、モニターで大腸内の様子を見ていた医師が、次々にほかの医師を呼び始めた。石田さんには、みなが難しい顔をしてモニターを凝視しているのが分かった。

「真っ黒いモノが見えたらしいんです。『やばいですか?』と医師に言うと、『やばいですね』と答えました。『だいぶ、やばいですか?』と尋ねてみると、『だいぶ、やばいですね』と返ってきたんです」検査はさらに進み、胃カメラを飲んだら、胃にもがんが見つかった。「転移ではなく、原発がんとのことでした。早期と言われたのが救いでしたね」

さらに、大腸がんが肝臓にも転移していることがわかった。「肝臓の3分の1の切除が必要と言われました。しかし、すぐに手術するのではなく、『抗がん薬で小さくしてから』という方針になりました。胃もありますが、まずは大腸がんの手術をすることになりました」

ミラーマンはどう思ったのか。

「がんといえば、昔は不治の病だったのでしょうが、自分は絶対治るんだと強く思いました」

ポジティブな考え方は若いころからの持ち味だ。

「手術室は映画のセット」 大腸がんはステージⅣ

2月25日、入院した。そして、3月3日に大腸がんの手術。石田さんは、手術室に向かうときの様子をこう話した。

「私はお医者さんを〝監督〟と呼んでいたんです。手術室に入るときも、映画のセットに入るような気持ちでした。看護師さんに『こんなに堂々と入って来た人は初めて』って言われましたよ」

午後1時、手術開始。肛門から18㎝のところに腫瘍があった。ステージはⅣまで進んでいた。麻酔から覚めた石田さんは手術室の時計を見た。9時を指していた。「時計を見てホッとしました。『開けてみて手が付けられないならすぐに閉じるから、早く終わります』って〝監督〟に言われていたので。9時。大丈夫だなと思いました」

執刀医が話しかけた。「細かいところまで全部取れましたよ」

看護師がしきりに足を動かせと言った。手術室から足をぶらぶらさせて出たら、麻奈さんが驚いていた。「血行をよくするためらしいですね。手術の翌々日から歩けと指導されました。無理してでも立つ練習をしました」

ミラーマンは、まず最初の闘いに勝った。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!