ザ・ワイルドワンズは「ワイルドがんズ」になって、ますます元気です 胃がんを克服し、新たなサウンドを奏で続けるザ・ワイルドワンズの鳥塚しげきさん

取材・文:吉田健城
撮影:向井 渉
発行:2012年7月
更新:2019年7月

  
鳥塚しげきさん

とりづか しげき
1947年東京生まれ。立教大学在学中、66年にザ・ワイルドワンズのメンバーとしてデビューし、数多くのヒット曲を世に送り出す。バンド活動以外では、全国の特別支援学校を訪問する「ふれあいコンサート」なども行っている。

メンバー全員ががん経験者という、他に例を見ないグループとなったザ・ワイルドワンズ。メンバーの1人である鳥塚しげきさんががんになったとき、大きな支えとなったのが、食道がんの経験者であるリーダーの加瀬邦彦さんだった──。

医師からきた予期せぬ電話

今年3月に行われた、中野サンプラザホールでのコンサートツアーで

今年3月に行われた、中野サンプラザホールでのコンサートツアーで
撮影 中嶌英雄氏

ザ・ワイルドワンズの面々はいつも夏と年末に超多忙になる。

若いころ「思い出の渚」をBGMにデートしていたお父さんお母さんは、今でも夏になると開放感あふれるザ・ワイルドワンズのサウンドを聴きたくなり、年末は年末で、ディナーショーに出かけて、その年を終えたいと思うからである。

2002年の師走もザ・ワイルドワンズは大忙しで、西へ東へと移動を繰り返しながらスケジュールをこなしていた。鳥塚しげきさんに、都内で胃腸科クリニックを開業するS医師から電話があったのは、そんな忙しいさなかのことであった。

その数日前、鳥塚さんは胃の調子が悪いため、リーダーの加瀬邦彦さんから紹介されたS医師のクリニックで胃カメラを飲んでいた。

「胃カメラをやったとき『胃壁が真っ赤だね。胃潰瘍かもしれないなあ』と言われて、細胞をちょっと切り取って調べてみようということになったんです。『結果は10日以内に聞きに来てください』と言われたので、ぼくは、その期限ぎりぎりに行けばいいやって思っていたんです。そしたら向こうから突然電話がかかってきて『奥さんと一緒に、なるべく早く来てください』と言われたので、これは何かあるなと思いました。

でも胃カメラを飲んだとき、がんという言葉は1度も出なかったので、がんだとは全く思いませんでした。それだけに『胃がんです』と言われたときは、本当にガーンと来ました。でも『まだ早期で、すぐに手術すれば大丈夫です』と言われたので、目の前が真っ暗になるようなことはなかったですね」

背中を押したリーダーの言葉

告知されたあと、鳥塚さんは胃にがんが見つかったことをリーダーの加瀬さんに話し、S医師から、すぐに入院するよう言われたことを伝えた。

それに対し、自分もがんの経験者である加瀬さんは、「仕事のほうは、俺のほうで何とかするから心配しなくていい。すぐに入院して」と背中を押してくれた。

鳥塚さんは、まだ年内にディナーショーなどの仕事がいくつも入っていたので、それを終えてから入院するつもりでいたが、その言葉に意を強くして、すぐにS医師のクリニックに入院する腹を固めた。

胃の4分の3を切除

年明けに行われた手術では、胃の4分の3と周辺のリンパ節のほか、胆嚢も併せて切除された。

「がんは胃の出口寄りのほうにあったので、入口のほうだけ残し、全体の4分の3を切除しています。がんは、早期ではあったものの、どのくらい広がっているか、はっきり特定できないタイプだったので、通常より大きく切る必要があったようです。術後は通常の2倍の麻酔を投与してくれたので、痛みに苦しむことはありませんでした。ただ術後数日たってドレーンを抜いてから、『まだ、入れてないとダメだね』ということになって、再度挿入することになったんですが、もう傷口が狭まっていますからこれが痛くて痛くて……。そのことは、まだ鮮明に覚えています」

検査の結果、リンパ節転移などもなく、鳥塚さんは術後の抗がん剤なども行わずにすんだ。

術後はギター片手に発生練習

大きな支えとなった、加瀬さんと一緒に

鳥塚さんががんになったとき、大きな支えとなった、加瀬さんと一緒に
撮影 中嶌英雄氏

術後は経過に波があったため退院は2月14日になったが、入院生活は快適だった。

「3人部屋をもう1人の患者さんと2人で使っていたので部屋は広々としていました。ぼくは窓際で、けっこうスペースがあったので、ビデオデッキを置く棚を作って好きなビデオを見ていました。アクション物が多かったですが、圧倒的に感動したのはポール・マッカートニーの全米ツアーでした。あれを見ていると、『俺もこういう風にやらなくちゃなあ』という気持ちになるんですよね。退院したらこれを歌いたい、あれも歌いたいと、次々に歌いたい曲が出てくるので、それらをリストアップしていました」

ただ歌いたい曲はいっぱいあっても、鳥塚さんは退院後、歌えるようになるか不安でならなかった。手術の際、鼻から細い管を通した影響で、高い音域がまったく出なくなっていたからである。

「手術のあと、すぐギターでドレミファソラシドを出しながらそれに合わせて声を出してみたんですが、出るのは「ラ」の音ぐらいまででした。普段は2オクターブぐらい出るので、困ったなと思いました」

なんとしてでも復活したい気持ちでいっぱいだった鳥塚さんは、ギター片手に、繰り返し発声練習を行って、音域を少しずつあげていった。

積極的に歩くことで体力の回復にもつとめていたが、そのときも、絶えず声を「ハッ、ハッ、ハッ」と吐いて、発声練習をしながら歩くようにしていた。

ザ・ワイルドワンズ以外での活動も行っている鳥塚さん

ザ・ワイルドワンズ以外での活動も行っている鳥塚さん。現在、ヴィレッジシンガーズの小松久さんと一緒にユニット「とりづかこまつ」で、ライブ活動も行っている

「外でもそれをやっていたので、道行く人たちは、『なんだこの人は?』と思っていたでしょうが、そんなこと構っていられない感じでしたね。開腹手術のあとは、お腹に力を入れることができないので声量も出ません。復活できるか、本当に不安でした」

しかし、満足に声が出なくても、歌わないといけない現実があった。3月からザ・ワイルドワンズへの復帰が決まっていたし、5月、6月には、ヴィレッジシンガーズのギタリスト、小松久さんと2人でやっているユニット「とりづかこまつ」のライブとレコーディングも予定されていた。

そこで鳥塚さんは、声が十分に出ないマイナスをテクニックで補いながらステージに立ち、声の回復を待つことにした。


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