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患者のためのがんの薬事典

ティーエスワン配合OD錠(一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合有核型口腔内崩壊錠)
水なしでも飲める世界で初めて開発された抗がん薬のOD錠

取材・文 ●柄川昭彦
発行:2013年8月
更新:2019年7月

  

ティーエスワン(TS-1)は、7種類のがんの治療に使用され、年間10万人以上の患者さんが服用しています。これまでカプセルと顆粒剤がありましたが、患者さんの飲みやすさをさらに追求したOD錠(口腔内崩壊錠)が、2013年7月に発売されました。抗がん薬のOD錠は世界で初めてです。有効成分を内側に閉じ込める構造で、家族や医療従事者などへの抗がん薬暴露の心配はありません。


ティーエスワン配合OD錠 一般名:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合有核型口腔内崩壊錠

年間10万人以上が服用する抗がん薬

TS-1が最初に胃がんの治療薬として登場したのは、1999年のことです。このときの剤形はカプセルだけでした。

その後、胃がん以外のがんにも、有効であることが証明されました。現在では、胃がん、大腸がん(結腸がん・直腸がん)、頭頸部がん、非小細胞肺がん、乳がん(手術不能または再発)、膵がん、胆道がんという7種類のがんの治療に使用されています。

適応の範囲が広いこともあり、TS-1を服用する患者さんは、年間10万人以上にのぼります。こうした患者さんの中には、カプセルが苦手な高齢の人もいますし、頭頸部がんで嚥下に問題がある人もいます。そこで、2009年に顆粒剤が登場しました。

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

水なしでも飲める抗がん薬のOD錠が開発された

薬の剤形は、より服用しやすいものへと進化してきました。かつては多くの薬が散剤でしたが、それをカプセルに閉じ込めることで、格段に飲みやすくなりました。さらに、錠剤になると、もっと飲みやすくなります。そして、最も新しい剤形が、錠剤の1種であるOD錠(口腔内崩壊錠)なのです。

OD錠の特徴は、口の中で簡単に崩れるため、水なしでも飲める点にあります。カプセルが飲みにくいと感じていた人でも、これなら無理なく服用することができます。また、何らかの理由で水分の摂取が制限されている患者さんでも、薬を服用することが可能になりました。

新しく登場したTS-1のOD錠は、効果などはカプセルや顆粒剤とまったく同じです。1錠中の有効成分含有量も20mgと25mgで、1カプセル中、あるいは顆粒剤1包中の含有量と同じです。カプセルや顆粒剤を服用していた人でも、OD錠に切り替えることができます。

服用のしやすさは治療成績にも関係する

■図1 胃がんの手術後、再発予防のために行った補助化学療法の臨床試験でのTS-1の投与期間別の効果TS-1を12カ月間服用できた患者さんでは、できなかった患者さんに比べ、予後が良好な傾向にあった

「薬で大切なのは効果だから、少々飲みづらくてもかまわない」と、考える人もいます。確かに数日間飲むだけの薬なら、そうかもしれません。しかし、抗がん薬であるTS-1は、基本的に長期間飲み続ける薬です。服用は1日2回で、服用量は1回に2錠(あるいは3錠)。期間が長くなると、薬の飲みづらさは、治療を断念する人を増やす原因になってしまいます。

とくに服用期間が長いのは、胃がんの手術後、再発予防のために行う補助化学療法で、4週間服用、2週間休薬というサイクルを1年間続けます。

この治療では、薬を減量しながらでも1年間続けられた人と、途中でやめてしまった人とでは、治療成績に差が出ることが、臨床試験で明らかになりました。1年間飲み続けた人の生存期間のほうが長かったのです(図1)。

薬の飲みやすさは、治療成績にまで影響を及ぼす可能性があります。OD錠の登場は、その点でも重要なのです。

抗がん薬を内側に閉じ込めた安全構造

■図2 TS-1 OD錠のしくみ

OD錠は口の中で簡単に崩れなければならないため、手で持つと、微量の粉が手に付着することがあります。この粉が抗がん薬の成分だったら、家族や医療従事者など、周囲の人が抗がん薬に暴露する危険があります。

一般的な医薬品であれば、微量の粉が問題視されることはないでしょう。しかし、抗がん薬は微量でも全く害が生じないとはいえないため、十分な安全性が求められるのです。

TS-1のOD錠は、新しい技術を活用することで、有効成分を含む内核を、外殻で封じ込める特殊な構造になっています(図2)。このため、錠剤を手にしても、抗がん薬が付着する心配はありません。

また、錠剤を落としたときに、割れて抗がん薬が飛び散るのも困ります。そこで、2mの高さからステンレス板に落とすという落下テストも行い、内核が露出したものはないという結果でした。

口の中で崩れなければいけないが、それ以外の場所では決して崩れてはいけない抗がん薬のOD錠。優れた製剤技術が、それを両立させています。

TS-1のOD錠は、白と淡い青緑色(20mg)、白と淡い橙色(25mg)という2色使いのデザインが特徴。2色の錠剤というのは珍しいので目立ちます。実はこれも、他の薬剤と識別しやすくするための工夫です。

抗がん薬を他の薬と間違えて多量に飲んだりしたら、危険な事態を招きます。そうしたことが起きないように、目立つデザインにしてあるのです。

口の中で崩れるため、OD錠にとって味は重要です。ほのかなピーチ味で薬の嫌な苦味を低減しています。服用しやすい薬、とくに抗がん薬の場合、幼児の手の届かない所へ保管する等、特段の配慮が必要です。

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