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患者のためのがんの薬事典

パージェタ(一般名:ペルツズマブ)進行再発乳がんの生存期間を延長した新しい抗HER2療法薬

取材・文 ●柄川昭彦
発行:2013年12月
更新:2014年4月

  

パージェタはHER2陽性乳がんのための新しい治療薬です。手術できない進行再発乳がんで、HER2が陽性の場合、従来は「ハーセプチン+抗がん薬」の併用療法が行われてきました。この併用療法に、さらにパージェタを加えて3剤併用療法にすると、がんが悪化し始めるまでの期間である「無増悪生存期間(PFS)」、および「全生存期間(OS)」が延長することが証明されています。また一歩、乳がんの薬物治療が進歩しました。

HER2陽性の乳がんに新しい治療薬が登場

乳がんの治療が行われるときには、HER2の検査が行われます。がん細胞の表面に、HER2というタンパク質が現れているかどうかを調べる検査です。HER2陽性の乳がんは、乳がん全体の15~20%程度。HER2陽性の乳がんに対しては、抗HER2療法が行われます。

抗HER2療法として、広く使われてきた分子標的薬がハーセプチンです。この薬は、再発予防を主な目的とした手術前後の治療にも使われますが、発見された時点で手術できない進行乳がんや、手術後に再発した乳がんの治療でも使われています。

そして、2013年9月に、新しい抗HER2療法薬が登場しました。それがパージェタです。この薬は、「手術不能または再発乳がん」の治療に使われることになっています。

悪化するまでの期間が大幅に延長した

図1 パージェタの効果(無増悪生存期間)

( Baselga J, et al. N Engl J Med 2012; 366: 109-19)

パージェタは「CLEOPATRE試験」という臨床試験で、その有効性が証明されました。日本も参加した国際共同臨床試験です。試験の対象となったのは、発見時点で手術できないと診断された進行乳がんの患者さんか、手術後に再発した患者さんたちでした。

この人たちを2つの群に割り付け、従来の治療法である「ハーセプチン+タキソテール 2剤併用療法」と、それにパージェタを加えた「パージェタ+ハーセプチン+タキソテール 3剤併用療法」を比較しました。

その結果、がんが悪化し始めるまでの期間を示す「無増悪生存期間」の中央値は、3剤併用のパージェタ群が18.5カ月、2剤併用のコントロール群は12.4カ月となりました(図1)。

つまり、従来の治療法に比べ、がんが悪化し始めるまでの期間が、6.1カ月も延長されることが明らかになったのです。

患者さんが死亡するまでの期
間である「全生存期間(OS)」についても、パージェタを併用することで良好な結果が出ています。3年経過時点の生存率は、コントロール群で50%だったのに対し、パージェタ群の生存率は、66%と非常に高かったのです。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ パージェタ=一般名ペルツズマブ タキソテール=一般名ドセタキセル

ハーセプチンとは異なる部位をブロック

パージェタもハーセプチンも、がん細胞の表面にあるHER2の外側部分に結合します。それは共通しているのですが、HER2のどこに結合するかが異なっています。

パージェタは、HER2が他のHERファミリー(HER1からHER4まである)と結合する部位に取り付き、結合を阻止します。それによって、細胞の増殖シグナルが核に送られるのを抑えるのです。とくにHER2がHER3と結合すると、最も強い増殖シグナルが送られるため、それをブロックすることで、優れた治療効果を発揮しています。

ハーセプチンは、パージェタとは異なる部位に結合し、増殖シグナルが送られるのを抑えています。

このように、パージェタとハーセプチンが異なる部位を標的としているため、併用することによって効果を高められるのです。

3週間に1回 3剤続けて投与する

図2 投与スケジュール

パージェタ+ハーセプチン+タキソテール併用療法は、3週間ごとに3剤を投与します(図2)。いずれも点滴で投与する薬です。パージェタとハーセプチンの投与量は初回だけ多く、2回目以降は毎回同じ量になります。

初回治療は、パージェタ 840㎎を60分間で投与し、続いてハーセプチン 8㎎/㎏を90分間で、タキソテール 75㎎/㎡を60分で投与します。

初回治療で安全性に問題がなければ、2回目以降の治療では、パージェタ 420㎎を30分で投与し、ハーセプチン 6㎎/㎏を30分で、タキソテール 75㎎/㎡を60分で投与します。

初回の治療時間はかなり長くなりますが、そこで問題が起きなければ、2回目以降の治療時間はかなり短縮されます。

基本的には、効果が続く限り治療を継続します。タキソテールが副作用のために継続できなくなることがありますが、その場合には、パージェタとハーセプチンの抗体薬2剤で治療を続けていきます。

前述した臨床試験において、パージェタを含む3剤併用療法で起こりやすかった副作用は、下痢、発疹、粘膜の炎症、発熱性好中球減少症、皮膚乾燥などでした。

この中で最も注意が必要なのは、発熱性好中球減少症です。これはタキソテールを使用することで現れやすい副作用です。場合によっては、タキソテールの投与を中止しなければならないこともあります。

下痢、発疹、粘膜の炎症、皮膚乾燥などは、いずれも重い症状ではなく、通常の対症療法で乗り切ることが可能です。

現在パージェタは、HER2陽性の切除不能進行乳がんを適応としていますが、早期乳がんの術後の補助療法の効果について、第Ⅲ相試験も行われています。乳がん治療のさまざまな面で期待される新薬です。

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